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アラビアのロレンス

1962年公開、日本では1963年公開

Lawrence of Arabia
Directed by Sir David Lean

Disk2:後篇(前編には、前説、エピソード、キャスト、スタッフ、前篇ストーリーを掲載)

黒い画面の、ENTR'ACTE(幕間音楽)が終って、後編がスタートする。
オレンス(ロレンス中尉)が率いるアラブ軍が奇蹟的に占領したアカバに、一人のアメリカン・ジャーナリストが坂道を上ってくる。背後にはアラビアのシナイ半島入り江のアカバ港と紅海が見える。

アメリカのシカゴ・デイリー・カーリー紙(映画上の Chicago Daily Courier社は、調べても見当たらなく、現存するシカゴ・トリビューン紙 " The Chicago Tribune" の記者らしい。
日本の真珠湾攻撃の前日にアメリカの参戦をスクープして話題になった新聞社の契約特派記者、ジャクソン・ベントリー(実際はローウェル・トーマス)であった。

彼は、中東に誕生した「アラビアの英雄」の記事を書きたくて、はるばるとアメリカから、アカバ滞在のファイサル王子を取材にやってきたのだ。
ベントリー記者は、アラブ出張は初体験だった。 アメリカは民主主義の国なので、発展途上民族の独立運動にはアメリカ人が共感するところがあって、ここの英雄の活躍を記事にすると、アメリカ人は強い関心を持つ。新聞がどんどん売れるワケだ。

新聞社は、時の人気者を紙面で持ち上げたり、こき下ろしたり、著名人のスキャンダルを暴露して発行部数を増やす・・・政治や経済の問題を難しい専門用語を羅列して書き立てるよりも、新聞社の本音は、大衆が驚くニュースをスクープして、貪欲に儲けたいのだ。


ベントリー記者は、ファイサル王子の荷物を運ぶ召使いに出会って、王子の住まいに案内して貰う。
トルコもイスラム教の国なので、アカバにはモスクやアラベスク装飾の建築が建ち並ぶ。(アカバのロケは、スペインのアンダルシア州アルメリア県で行われた)
取材前に、ファイサル王子の面会を申し込む手紙を送っていたので、初対面でも面会はスムーズに叶った。

ベントリー:「私は、シカゴ・カーリー社の記者、ジャクソン・ベントリーです。シカゴの新聞ですが、我が社のニュースは、全米に流れます」。
ファイサル王子:「それは、あなたのお手紙で拝見しましたよ」。
ベントリー:「王子殿、ロレンス少佐は?」
ファイサル王子:「取材の目的は私でなく、彼なのかな?」
ベントリーは慌てて、「そうとは、限りません」。
ファイサル王子:「少佐なら、前線に展開する我が軍と行動を共にしています」。
ベントリー:「やはりね。部隊は今どこに?」
ファイサル王子:「今はどこに居るかは知らんが、先週はエル・ギーラに」。
ベントリー:「エル・ギーラって?」
ファイサル王子:「ここからは、かなりの道程(みちのり)だ。あなたはラクダに乗れるかね?」
ベントリー:「経験が無いんで、到底無理です」。
ファイサル王子:「じゃ、ラバで行きなさい。ところで、私はこれからカイロへ行く。ご存知か?」
ベントリー:「存じていますよ」。
ファイサル王子:「カイロで重要な仕事があるのでな」。
ベントリー:「大砲の話ですか?」
ファイサル王子:「そうだ。君は勘が鋭いね。我が軍にあるのは、時代後れの小型兵器のみ...」。
ベントリー:「それは、カイロ司令官の目論見です」。
ファイサル王子:「あなたは、アレンビー将軍をご存知か?」
ベントリー:「勿論です。将軍にはご用心を。油断のならぬ人物です。利口な男だ」。
ファイサル王子:「ご親切な忠告ありがとう。油断のならぬ人物には、用心しょう」。
ベントリー:「王子殿、ご存知かと思いますが、アメリカは昔、イギリスの植民地でした。自由と独立を求める民族に同情するのは当然です」。
ファイサル王子:「我々にとっては、嬉しい言葉だね」。
ベントリー:「つまり、王子殿と私の利害は共通しています。王子殿はトルコとの独立戦争の大義を世界中に訴えたいし、私は、この地で独立戦争の英雄を探しています。だから、この戦いの実態を記事にして、崇高な志のある英雄の大胆な活躍ぶりを世界中に紹介したいのです」。
ファイサル王子:「やっと、本音を吐かれましたな。あなたを信用してガイドも付けるし、前線部隊の首長たちに、あなたが取材ができるように、こちらから使いを出して連絡しておきましょう。あなたの記事になる人物は、今、トルコ軍の鉄道を破壊中だ」。
ベントリー:「指揮官は、ロレンス少佐ですね」。


 

シーンは、砂漠に線路が敷かれたヒジャーズ鉄道のロングショットに切り替わる。
オスマン帝国(トルコ)は、1908年にドイツ銀行の出資と技術支援で中東の中心地であったシリアのダマスカス(ダマスクス)からメディナ(マディナ)まで狭軌鉄道(総延長1308kmで、軌間1,050mm)のヒジャーズ鉄道を敷設した。
目的は、イスラムの聖地「メッカ(マッカ)」への巡礼客を鉄道で運ぶために建設されたが、一番肝心なメディナからメッカまでの延伸は、第一次世界大戦の影響で工事は行われず、ラクダに騎乗しての巡礼の旅であった。

第一次世界大戦中のダマスカス〜メディナ間は、主にトルコ軍兵士を前線に運ぶ軍用列車や武器弾薬や兵糧、家畜を運ぶ為の貨物列車が運転されていた。
この鉄道の列車と線路をダイナマイトで爆破するのが、ロレンス少佐の率いるアラブ軍(ファイサル王子の部下と傭兵)の仕事であった。
映画では、ヒジャーズ鉄道爆破のロケはスペインのアンダルシア州アルメリア県で、映画の為に線路を敷設して、本物の列車を走らせて爆破の撮影が行われたが、現在でもヨルダン領内やサウジアラビア領のヒジャーズ地域には、1917年〜1918年にロレンス少佐が率いるアラブ軍が破壊した、機関車や線路の残骸が砂漠に放置されたまま残っているらしい。

ヒジャーズ鉄道の列車を爆破する理由は二つあった。
一つは、英軍の陽動作戦であった。
英軍が支援する、神出鬼没のアラブ軍の鉄道へのゲリラ攻撃で、トルコ軍をヒジャーズ鉄道の警備に張付けて置くと、カイロ駐屯の英軍がパレスチナやシリアへの進攻がし易くなる。
二つ目は、戦費に占める人件費の削減である。
つまり、爆破した列車の客車や貨車からの略奪品がアラブ部族の給料になった。一石二鳥の作戦だった。
現在のアラブ諸国は、オイルマネーで潤って、自国の兵士にはきちんと給料が払われていると思うが、同じアラブでも、石油が採れないソマリアなどは外国の船舶を襲って、積荷や金品を略奪し、それが部族の給料になっているらしい。映画のストーリーには関係ないが、今のアラブは産油国と非産油国の格差が甚だしい。

英軍のブライトン大佐は、「盗賊のような掠奪は止めさせなければならん」と、アリ首長に言ったが、「これは、我々の習慣だ。彼らには給料なんだ。イギリス兵も給料を貰っているが、規則に縛られている」と、反論した。余談になるが、軍備と言うと素人は、スティルス戦闘機や空母の価格に目が向くが、将兵の"総額人件費"には目が向かない。国家によっては、軍の半分の予算が将兵の人件費に食われるのだ。

シカゴ紙特派員のベントリーは、列車爆破のシーンを取材した。そこで初めて、ロレンスと会って、彼の写真を撮るが、アウダ・アブ・タイの写真も撮ってカメラを壊される。
ベントリーは不測の事態に備えて、カメラを数台持ってきたようだ。カメラを壊されたのは、写真を撮られると「魂が奪われる」という迷信をアウダが堅く信じていたからだ。
ベントリーは、ロレンス少佐と行動を共にするアリ首長にもインタビューした。

ベントリー:「アリ首長、訊いてもいいかな?何の本を読んでいるんだ」。
アリ首長:「子供の本だ。勉強をやり直す」。
ベントリー:「何の勉強だ?」
アリ首長:「政治だ」。
ベントリー:「この国を民主主義にして、議会を設けるのか?」
アリ首長:「建国してから答える」。
ベントリーは少し笑って、「何も言わずに答えるのが、政治のコツだ」。


次に、ロレンス少佐にインタビュー。
ベントリー:「銃に撃たれた、肩の傷の具合は?」
ロレンス:「これぐらいは、大丈夫だ」。
ベントリー:「デスク(編集長)への願いが叶って、やっと、文明社会(シカゴ)に戻るんだが、その前に二つだけ率直な質問がある」。
ロレンス:「率直な質問とは面白い」。
ベントリー:「一つ、アラブは、この戦争で何を得たがっているのか?」
ロレンス:「自由を望んでいる。自由だ」。
ベントリー:「・・・儚い夢だ」。
ロレンス:「必ず、手に入れる。私が与えてみせる。次の質問は?」。
ベントリー:「あなたは、砂漠の何に魅せられている?」
ロレンス:「It's clean :清潔なところさ」。
ベントリー:「教わることの多い答えだ。それじゃ、お別れの写真をもう一枚」。

ある鉄道爆破の作戦で、少年兵のファラジが、ダイナマイト爆破用の信管を帯に挟んで動いたため、信管の尖端が腹部に刺さって小爆発し、重傷を負った。
1914年当時は、アラブ人による独立国家が無かったので、捕虜の安全保護と捕虜の人権を相互に認め合うことを定めた「ジュネーブ協定」には入れなかったので、捕虜になったアラブ軍兵士たちは、アラブ民族の宗主国で対戦国のトルコから反逆者として扱われ、残酷な拷問による自白強要を受けた。

従って、ラクダに乗れなくなったファラジをトルコ兵に見つかる前に殺さねばならなかった。ロレンスは、苦渋の決断を迫られ、ビストルの引き金を引く。
ロレンスは、部隊の結束を堅くするために、「アラブ北軍」と名乗って活動する。
トルコ軍もロレンスの率いるアラブ北軍に業を煮やし、ロレンスを捕らえた者に2万ポンド払う賞金が懸けられた。それは、カイロにも伝わり、アレンビー将軍とブライトン大佐は心配する。

やがて冬になり、トルコ守備隊が駐屯するデラアの近くまで来たものの、20名余りの部隊には長期戦の疲れが出てきて、ロレンスを慕う者からも不満が出始めた。
アリ首長:「オレンス、今度、失敗したら、部下は逃げ出すぞ。私は残るが」。
オレンス:「君一人が残っても、同じだ」。
アリ首長:「オレンス、部下に慕われたら、部下をもっと大事にしろ。君は部下に要求するだけだ。山を動かし、水上を歩けと命令している」。
オレンス:「そうだ。その通りだ。私がアラブに居なかったら、どうなった?君たちは、ズーッと今でもエンボで釘付けになってただろう。必要だから命令しているんだ。無理は承知でな。君は私をただの人間だと思っているのか?」

洞窟の中で過ごす部下たちに向かって、
オレンス:「私と一緒に水上を歩こう。私とデラアに行くんだ」。
ハリトの副官:「デラアにはトルコの守備隊がいるぞ。20対2000で闘うのか?」
オレンス:「私は、一人でも行く。イギリス軍のエルサレム占領の先を越すと将軍に約束した」。
ハリトの副官:「ここまで来たのは、やはり将軍の為だったのか?」
オレンス:「誰が言ったんだ」。
アリ首長:「ウワサだ」。

ロレンスは、敵情視察にアリと一緒にデラアの街に出掛ける。
二人は、トルコ軍のデラア守備隊の警備兵に呼び止められ、アリは釈放されたが、ロレンスは司令部に連行される。
ロレンスの首には、オスマン帝国から2万ポンドの賞金が懸かっていたが、デラアのトルコ軍には、シカゴの新聞が配達されてなかったので、デラアの守備隊は誰も"アラブの英雄”に気付かない。

では、なぜ、ロレンスを連行したのかというと、それは、とんでもない理由で、ここの警備兵の仕事の一つは、ベイ司令官の慰めの相手(若いイケメン男)を連れてくることだった。
守備隊司令官のベイは、女装はしていないが、男色(ホモセクシャル)の男で、部下が街中で引っ張ってきた数人の男を取調室に整列させて、ベイが相手を選ぶのだ。
この日のベイは、新入りのロレンスを選んだ。

ベイ:「お前の歳は?」
ロレンス;「27です」。
ベイ:「27にしては、老けて見えるし、世慣れている・・・服を脱げ!」
ロレンスは上半身裸になる。ベイは、ロレンスの胸を右手で触れて少し摘み、ニタッとする。
ベイ:「お前の肌は白いな。サーカサス人(カフカス人:黒海東岸のグルジア人)か?・・・この怪我は?」
ロレンス:「古傷です」。
ベイ:「いや、最近の傷だ。お前は脱走兵だろ?」
ロレンス:「違う・・・」。
ベイ:「ワシはここで長い。ここの任務は退屈だ。月の裏側でも、ここほど味気なく無かろう。ワシの話は分かるまい。部下は間抜け揃いだ。好男子とブタの区別も分からん・・・お前が脱走兵かどうかはどうでもいい、男は兵隊だとは限らん・・・」。
ロレンスは、この先の厭なことを想像してベイ司令官を殴り、部下に取り押さえられる。
起き上がった ベイは、「鞭を打て」と部下に命令する



マッチの火を親指と人差し指で消すマゾヒストのロレンスは、トルコ兵の執拗な鞭打ちに、耐えたのだった。
このデラア事件については、ロレンスの草稿(知恵の七柱の下書き)で、その章がバッサリ破られているそうで、隠したことが逆に、ロレンスのホモセクショナルな一面が窺える。
ロレンスは気を失って、トルコ兵に担がれて、出口のどろんこ道に放り出される。 ロレンスの自尊心はズタズタにされた。
釈放されるまで、表で待っていたアリは、ロレンスを担いで仲間のいる場所に連れて行く。

ロレンスは、数日寝込んだ。 目が醒めて見回せば、アリが傍にいて心配している。

アリ首長:「オレンス、起きたのか。これを食べろ。食べないと、その怪我は治らん」。
ロレンスは、少しずつ食べながら、「私はここを去る」と、言い出す。
さらに、「私は、鞭に打たれている時、敵に全て話しそうになって危なかった。私が誰で、君たちがどこに居るかを」。
アリ首長:「こんなに激しく鞭を打たれたら、誰でも、そうなる」。
ロレンス:「君に、人間は何にでもなれると言ったけど、私の思い上がりだった。辱めを受けた私は普通の人間だった。もう、英雄なんかじゃない。司令官に願い出て転属させて貰う。普通の勤務に」。
アリ首長:「君の司令官は今、エルサレムだ」。
ロレンス:「これからは、楽をしたい」。
アリ首長:「君が・・・?」
ロレンス:「アリ、私は分かりかけて来た。平凡な生活が幸福だということを」。
ロレンス:「今日からは、君が指揮しろ。君に譲る」。
そして、不安そうな部下たちの前で、 ロレンスは、「君たち、アリを信じろ。同胞を信じろ。私も同胞の元に帰る」。と宣言した。

エルサレム占領後の英軍司令部のシーンになる。
ロレンスは久し振りに英軍将校の制服を着て、アレンビー将軍に会いに行く。この映画の衣裳デザインを担当したフィリス・ダルトンは、ロレンスの「変人」ぶりを軍服で表現するために、軍服を何度も洗濯し直して干し魚のように縮め、身嗜みのセンスが無くて変人のロレンスの性格を表現した。

アレンビー将軍の部屋には先客が来ていた。何と、ファイサル王子と会談中だった。
ファイサル王子は、英軍将校の制服を着たロレンスを見るなり、
「オレンス、・・・いや、今日はロレンス少佐かな。アレンビー将軍、アラブ軍の情勢は少佐から聞いて頂こう。我がアラブ民族とその弱点について・・・。我々が強くなると、イギリスには不利益でしょう。同盟国であるフランスの利益もお忘れなく」。

アレンビー将軍:「そんな条約は存在しない」。
ファイサル王子:「将軍らしい勇敢なウソだが、説得力に欠けますな。条約は確かにある」。
ロレンス少佐:「条約とは?どんな?」
ファイサル王子:「少佐までも、おとぼけが上手だ。もう、殆どアラブ人に近いのに」。
ドライデン顧問:「君は事実を知らなくても、上級将校なら、イギリス政府の思惑は推測はしていた。ウソつきの点では変わらん。我々の完全なウソは真実を隠す為だが、中途半端なウソをつく者は、どこで言ったのかも忘れる」。

ファイサル王子は、イギリス政府の二枚舌外交に呆れて、エルサレムの司令部を退出した。

アレンビー将軍:「ドライデン、サイクス=ピコ協定をロレンス少佐に説明してやれ」。
ドライデン:「サイクス氏はイギリス政府の官僚で、ピコ氏はフランスの官僚だ。両氏が会って、(第一次世界大戦の)戦後の取り決めをし、トルコの植民地を両国で分割することにした。アラビアも含めてだ。これは条約ではなく協定なんだ。条約と協定では意味合いが違う」。
アレンビー将軍:「政治家には、盗賊ほどの信義もないのか?」
ドライデン:「今更、怒っても、始まらんよ」。
ロレンス少佐:「・・・そんな!結局、私はただの人間でした。だから、平凡な任務に就きたいので、個人的な理由で転属願いを出したのです」。

アレンビー将軍は、ロレンスからの転属届を持ってきて怒鳴る。「これは、どういうことなんだ。君は第一線の将校だ。しかも重要任務に就いている。気でも触れたのか?来月16日のダマスカス攻撃には、君の活躍が必要なんだ」。
ロレンス少佐:「そんな作戦への参加はごめんです」。
アレンビー将軍:「じゃ、君のアラブの友人たちは、どうなるんだ?」
ロレンス少佐:「今は、そんな友人はいません」。
アレンビー将軍:「一体、何が望みなんだ?」
ロレンス少佐:「普通の人間として暮らしたいのです」。
ロレンスの制服の背中から、血が滲み出す。ドライデンは、それに気付く。そして、ロレンスが負った二つの怪我(外面と内面)が、彼の気持ちを変えた原因だと知る。
アレンビー将軍:「ロレンス、背中に血が・・・。軍医を呼ぼうか?一体、どうしたのだ?」

ドライデンは将軍の部屋を出ると、シカゴ紙特派員のベントリーが待ち構えていた。
ベントリー:「今、少佐と将軍の話し声が聞こえたが、何か揉め事でも?」
ドライデン:「何もない」。
ベントリー:「気になるんだ。私に教えてくれ」。
ドライデン:「何もない。本当だ。誰にでも問題はある。人生は複雑だ」。
ベントリー:「私には、知る権利がある」。
ドライデン:「知る権利だと?」
ベントリー:「彼を英雄にしたのは、この私の記事だ。戦争が終われば彼の天下だ」。
ドライデン:「だが、今は別人になりたがっている。そこをどいて貰おうか」。
ベントリー:「逃げればいい。あんたはいつも逃げの一手だ」。
ドライデン:「君に教えてやろう。あの中では、二つの感情が衝突しとる。避けられん一人は怒っているし、もう一人は強引だ」。
こういう台詞は、日本人には思い付かない。To be, or not to be that is the question さすが、シェークスピアを生んだお国柄だ。

アレンビー将軍は、闘志が萎んだロレンスの気分をリラックスさせるために、別の部屋で、飲み物を飲みながら語り合うことにした。
アレンビー将軍:「間もなく、この戦争も終わる。そうなれば、君は国民的な名声を得るが、ワシの名は軍事博物館に残るだけだ。君は二つとない逸材だ」。
ロレンス少佐:「もう、沢山です。止めて下さい」。
アレンビー将軍:「天命を受けた人間は、世の中には少ない。だから、天命を受けながら使命を避けるのは許されない」。
ロレンス少佐:「閣下のご経験からですか?・・・推測ですね。使命を受けた人間が、結局役立たずで、外れたらどうします?」
アレンビー将軍:「その心配は無い」。
ロレンス少佐:「来月の16日・・・」。
アレンビー将軍:「やってくれるか?金は出すぞ!」
ロレンス少佐:「大砲は?」
アレンビー将軍:「渡せん」。
ロレンス少佐:「精鋭部隊は金では買えません。アラブにダマスカスを与えると約束して兵を集めます」。
アレンビー将軍:「よかろう」。
ロレンス少佐:「閣下の期待は、敵右翼(トルコ軍が進む右方向)の牽制ですね。でも、私はダマスカスを奪う。閣下よりも先にです。攻略したら誰にも渡さない。サイクス=ピコ協定を焼き捨てるように」。

ダマスカスに近いアラブ軍の集合地のシーン。 ロレンス少佐は、お供を従えて前線に復帰した。
ロレンスのお供とは、札付きのお尋ね者ばかりを掻き集めた20数名の傭兵軍団である。
ロレンスの復帰を迎えたアリの軍勢とアウダの軍勢は、ロレンスの軍勢に驚く。 ベントリーも自動車の屋根に乗って写真取材に来た。

ベントリー:「アリ首長、帰還後の少佐と会ったのか」。
アリ首長:「会った」。
ベントリー「変わっただろ?」
アリ首長:「いや、ぜんぜん変わってない」。
ベントリー「少佐は、デラアで敵の将軍と何かあったのか?」
アリ首長:「何も無い。じゃ、私から訊くが、イギリスの将軍とは、どうなんだ?」
ベントリー「直接、オレンスに聞いてみろ」。
アリ首長:「訊いた。笑われた。そんな事より、ハリト族を集めろと言われた。金をやると言ってな。仲間は受け取ったが、私は断った」。

アリは、ロレンスを迎える。
アリ首長:「オレンス、お帰り。こいつ等は?」
オレンス(ロレンス少佐):「私の親衛隊だ」。
アリ首長:「皆、首に賞金が懸かった奴ばかりじゃないか?」
オレンス:「私の首にも懸かっている。全員、吊るし首が相応しい。でも、私の部下だ」。
アリ首長:「こいつ等には、戦争の大義がわからん」。

アリは親衛隊の一人に訊く。「お前は何処に何の為に行くんだ?」
親衛隊の隊員:「ダマスカス!オレンスの為に行く」。
アリ首長:「オレンス、こいつ等は普通の人間じゃない」。
ロレンス:「今の私には、普通の人間は要らん。ダマスカスへ行くぞ!」
アリのアラブ北軍も、アウダの傭兵部隊も、オレンスの後に追従する。

一方、アレンビー将軍の正規軍、キャバレー連隊は、デラアのトルコ守備隊を破って、ダマスカス方面へ敗走した一個旅団(3000〜4000人:医療班も含む)を追っていた。
エルサレムの司令部から出陣して野営テントで陣頭指揮を執るアレンビー将軍は、ブライトン大佐にアラブ北軍の情報を訊く。

ブライトン大佐:「ロレンスは、私の制止を聞き入れません」。
アレンビー将軍:「自信からか?」
ブライトン大佐:「もう、神懸かりとしか思えません。ダマスカス一番乗りをしそうです。但し、敗走中の敵と遭遇すれば遅れます」。
アレンビー将軍:「敵の勢力は?」
ブライトン大佐:「一個旅団です」。
アレンビー将軍:「よし、行く手を野砲で叩け」。

イギリス軍の野砲で集中攻撃されたデラアのトルコ軍は戦意喪失して徒歩で敗走し、ラクダ隊と騎馬隊のアラブ軍に追い着かれた。
アリ首長は、「オレンス、奴らに構うな。我々の目的はダマスカスだ」と言うが、 ロレンスはデラアでのトルコ警備兵から受けた鞭打ちの恨みと、ベイ司令官に対する憎悪が込み上げてきて、復讐に燃える。


オレンスは、「捕虜は要らん。皆殺しだ」と叫ぶ。
徒歩で逃げまどう敗残兵に、刀を振り下ろす騎馬隊が襲いかかり、砂漠は、流血の修羅場と化す。(このロケはモロッコの砂漠で行われた)

シカゴ紙特派記者のベントリーは、死屍累々の地獄絵図を目の当たりにして驚愕する。
「何てこった。砂漠のどこが清潔なんだ。君は汚れた英雄だ。その、汚れた顔を一枚撮らせろ。汚れた新聞社の為にな」。
マグネシューム粉末を焚いたフラッシュが光ると、ダマスカスのシーンに切り替わる。

アレンビー将軍は、ロールスロイス・シルヴァーゴースト(幌付き4座オープンカー)に乗って、儀仗兵が整列するダマスカスの「前トルコ軍司令部」に華々しく到着する。
アレンビー将軍は会議室で部下たちから報告を聞く。

ブライトン大佐:「閣下、ロレンスにやられました。街中がアラブの旗だらけです。
アレンビー将軍:「少佐のアラブ北軍はいつ着いたんだ」。
ブライトン大佐:「彼らは一昼夜先に着いて、全市を占領しました。市役所を占拠して司令部を設けました」。
アレンビー将軍:「他に占拠した所は?」
ブライトン大佐:「電話局、郵便局、発電所、病院、消防署、水道局・・・全てです。自分たちをアラブ国民会議と呼んでいます」。
アレンビー将軍:「彼等は君の担当だろ?どうすべきだ」。
ブライトン大佐:「直ちに追い出すべきです!」
アレンビー将軍:「大佐の意見をどう思うかね、ドライデン?」
ドライデン顧問:「拙速に追い出すと、反感を招いて手の付けられん暴動に・・・ファイサル王子は、いつこちらへ?」
アレンビー将軍:「二日後に特別列車でやってくる」。
ドライデン顧問:「2日後ですか・・・」。
アレンビー将軍:「君の要求で、無理に遅らせたんだ。未だ足りんのか?」
ドライデン顧問:「いや、充分です」。
アレンビー将軍:「それまでは、何も出来ないのか?」
ドライデン顧問:「王子が到着するまで、何もしないのが、最上の策です」。
アレンビー将軍は連絡将校に「飲み物をくれ。命令があるまで、待機だと全隊に伝えろ」。
連絡将校:「分かりました。技術部隊もですか?」。
アレンビー将軍:「技術部隊は、特にだ」。
連絡将校:「医療班もですか?」
アレンビー将軍:「やむを得ない。医療班も待機だ」。
軍医:「閣下、あんな酷い状態を見たのは、軍医として初めてです」。
アレンビー将軍:「アラブ国民会議側の責任だ」。
軍医:「直ちに救済の手を差し向けるべきです」。
アレンビー将軍:「現状の下では、ワシに従って貰う」。
軍医:「従えません」」
アレンビー将軍:「軍医、落ち着け!アラブ国民会議の見解を聞け」。


アラブ軍が占拠したダマスカス市役所の円卓会議室に、アラブ国民会議の旗が並べられる。
会議場では、ハリト族のアリ首長と、ハウェイタット族のアウダ首長が罵り合いの口喧嘩が始まっていた。
議長のオレンスは、二人の喧嘩を止めさせる。

オレンス:「私は、ハリト族でも、ハウェイタット族でも無い。同じアラブの民として、国民会議の下に行動する。ここにファイサル王子を仰いでだ」。
アウダ:「アリが俺を侮辱した」。
オレンス:「電話局は、ハウェイタット族が管理しているが、その電話が不通になっていると言っているだけだ」。
アウダ:「奴らが電気を電話局に送らないからだ。発電所はハリトの管轄だ」。
アリ首長:「何を言う!」
オレンス:「止めろ、アリ、流血になる」。
アリ首長:「あんたが、流血を止めろと?」。
アウダ:「アリ、なぜ電気がこないのだ?」
アリの副官:「発電所が火事で機械(発電機)が燃えている」。
長老:「我々に電話なんて要らん」。
オレンス:「電話は必要だ」。
アリ首長:「イギリス人を呼ぼう」。
オレンス:「ダメだ。イギリス政府を受け入れることになる」。

イギリスの軍医が、トルコの傷病兵を収容する病院が断水で、患者たちが酷いことになっていると報せにくる。
軍医は、「600のベッドに、2000名のトルコ傷病兵がいる。全て、君たちアラブ国民会議の責任だ」と告げにくる。オレンスは、病院へ向かった。病院には医師や看護師がおらず。大勢の患者がベッドや床に寝込んで神に召されるのを待っていた。

そこへ、英軍の医療班が車列を連ねてやって来る。
軍医:「酷すぎる!言語道断だ」。 為す術がないロレンスが立っていると、軍医は「汚いアラブ人だ」と、罵って張り倒す。

英軍のダマスカス到着の二日後、ファイサル王子は、英陸軍ダマスカス司令部に会談の為にやってきた。
オレンスは、アラブ部族同士の内輪揉めや、身勝手な行動に落胆し、ベトウィン首長の服を棄てて、英陸軍の制服を着てT.E.ロレンスとして出席した。


ロレンスは少し遅れて会議室に入室した。
ファイサル王子:「我が友、オレンス、こう呼んでいいかな。"我が友 オレンス" いかに多くの者が、そう呼びたがっていることか。ところが、当人は、心ここにあらず、既に緑の故郷にある。ゴシック調の家々や四輪馬車、夢に見る鱒釣り・・・」。

アレンビー将軍:「それは、大佐よりも、我々のことでしょう。ロレンス少佐、君は今日から大佐だ」。
ロレンス:「何のためにですか?」
ファイサル王子:「オレンス、名誉は快くお受けなさい。大佐なら、帰国の船で個室が与えられる」。
ロレンス:「では、お礼を」。
アレンビー将軍:「よし、行け。無事を祈る」。

ファイサル王子:「戦士の仕事は終った。取引は老人の仕事だ。若者は戦い、戦いの美徳は若者の美徳だ。勇気やら未来の希望に燃えて...。そして、平和は老人が請け負うが、平和の悪は老人の悪であり、必然的に相互不信と警戒心を生む」。

ロレンスは、ここで部屋を出て行く。
ファイサル王子:「オレンスには、世話になった。評価できぬほどだ。発電所と電話局はお譲りしょう。でも、水道局は、我々が管理します」。
アレンビー将軍:「それでは、断水のおそれが?」
ファイサル王子:「貴国の技術援助は歓迎します」。
アレンビー将軍:「その前に、アラブの旗を降ろさねば・・・」。
ファイサル王子:「それは不可能です。部下が承知しません」
アレンビー将軍:「まだ、あなたの部下が、ここに占拠?」
ファイサル王子:「不祥事に備えて相当な頭数が・・・この先の講和会議で、貴国が侵略者にされては困るでしょう?アラブ国民会議が勢力を得たのは、周知の事実です」。

アレンビー将軍:「でも、アラブ軍の多くは傭兵で、早くも故郷に帰り始めている。国民会議は幻想に過ぎなかったのでは?」
ファイサル王子は、シカゴ・カーリー紙の新聞をアレンビーに見せる。
ファイサル王子:「幻想も時には強力ですぞ。とくにこのような形になった場合は・・・」。


”アラブ軍のダマスカス解放に、全世界が歓喜した”・・・シカゴ・デイリー・カーリー紙(映画上の新聞社)の見出しがセンセーショナルに踊る。
ファイサル王子に味方した、ジャクソン・ベントリーの記事だった。(実際は、ローウェイ・トーマスの記事)

アレンビー将軍:「ダマスカス解放の指導者の写真は、我が軍の現役将校です」。
ファイサル王子:「でも、世界中の読者は、そのように思いません。ダマスカスを解放したアラブ軍の指導者はオレンスです。オレンスの服装は私が差し上げた、ベドウィン族の首長のもの。私の為に、アラブの為に闘った。つまり、オレンスは、両方に仕えた両刃の剣だった。だが、今となっては、お互いに厄介者」。
アレンビー将軍:「殿下にはかないませんな」。
ファイサル王子:「あなたは単なる将軍。私は国王になる身だ」。
ブライトン大佐:「私は失礼させて頂きます」。
アレンビー将軍:「ドライデン、君の意見は?」
ドライデン顧問:「我々イギリスは、アラブの旗の下で水道を管理するワケですな。その値打ちが・・・」。
アレンビー将軍:「ワシは知らん。幸いにして軍人だ」。
ファイサル王子:「この妥協劇の黒幕は、あなたでしたか」。

アラブを担当する、ブライトン大佐は、涙目になってロレンス大佐を探す・・・何を言いたかったのだろうか?
ロレンス大佐を乗せたロールスロイス・シルヴァーゴーストは、帰還の為、アラビアの港に向かって走っていた。
ドライバーの将校:「ご帰還とは羨ましい」。

理想と現実の狭間に翻弄され、急に檜舞台から降ろされたロレンスは、目標を見失って意気消沈していた...。
ロレンス:「ご帰還って、どこに?」
ドライバーの将校:「故郷ですよ」。

ロールスロイス・シルヴァーゴーストは、ラクダに乗ったベトウィン族の隊列を追い抜いて行く。ロレンスはやや中腰になってベトウィン族を見送る。
そして、背後から一台のオートバイ(ブラフ・シューペリア)が、ロールスロイスを追い抜いて行く。
アラビアのロレンスが、アラブと決別した瞬間だった。

このオートバイが追い抜くエピローグが、この映画のプロローグとエンドレスに繋がっている。デヴィッド・リーンならではの演出だ。

THE END

2013年4月22日 尾林 正利

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