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死刑台のエレベーター


Ascenseur pour l'Echafaud
un film de Louis Malle (1958年公開)

主なキャスト

Florence Carala(フロランス・カララ:カララ商会社長の妻)・・・Jeanne Moreau(ジャンヌ・モロー)

Julien Tavernier(ジュリアン・タヴェルニエ;カララ商会の技師・元空挺部隊の大尉)・・・Maurice Ronet(モーリス・ロネ)

Simon Carala(シモン・カララ:土地開発会社カララ商会の社長)・・・Jean Wall(ジャン・ヴァール)

Louis (ルイ:パリ下町のチンピラ)・・・Georges Poujouly(ジョルジュ・プージュリー)

Veronique(ヴェロニク:チンピラと同棲する花屋の女店員)・・・Yori Bertin(ヨリ・ベルタン)

Horst (ホルスト・ベンカー:ドイツ人観光客のベンカー夫妻の夫)・・・Ivan Petrovich (イワン・ペトロヴィッチ)

Frieda(フリーダ・ベンカー:ホルストの妻)・・・Elga Andersen(エルガ・アンデルセン)

Inspector Cherier(シェリエ警部・パリ警察捜査一課)・・・Lino Ventura(リノ・ヴァンチュラ)

スタッフ

原作:Noél Calef(ノエル・カレフ)
脚本:Louis Malle(ルイ・マル)
台詞:Roger Nimier(ロジェ・ニミエ)
音楽:Miles Davis(マイルス・デイヴィス)
撮影・Henri Decae(アンリ・ドカが正式発音で、日本では、アンリ・ドカエ)
美術:Rino Mondellini(リノ・モンデリニ)
編集:Léonide Azar(レオニード・アザ)
監督:Louis Malle(ルイ・マル)
製作:Irénée Leriche(イレーネ・ルリシュ)
製作会社:Nouvelles Editions de Films(ヌーヴェル・エディティオン・ド・フィルム)
配給:Lux Compagnie Cinematographique de France
製作年と国:1958年・フランス(日本公開は、1958年9月)
上映時間:92分(DVDは、91分) 画面サイズ:ヨーロッパビスタ:1:1.66
カラー:原作は白黒作品(DVDは、原板からHDデジタル・リマスター処理)
音響効果:DVDは、ドルビー・モノラルサウンド
DVD販売元:(株)IMAGICA TV
販売元:紀伊國屋書店

トッポの感想

死刑台のエレベーター・・・。
映画のタイトルからして、フィルム・ノワール(暗黒映画)の分野に属する作品である。
アメリカで始まったマフィアのギャング映画が、フランスでも流行るようになって、ジャン・ギャバンが主演するギャング映画などが、フィルム・ノワールとして扱われるが、その中に男の美学みたいなものが描かれていたりする。邦画で喩えるなら、高倉健さんの「任侠映画」みたいなものだ。

でも、本当のフィルム・ノワールというのは、犯罪の中に男女の愛欲が絡んだ、ドロドロした映画だろう。
主人公の女が、常軌を逸した「ファム・ファタル(Femme fatale:運命的な女・命取りの女)」で、女盛りのフェロモンで虜にした男を唆(そそのか)して犯罪に巻き込む。
主要な登場人物に、上流社会で美貌の女、イケメンの愛人、刑事などが登場し、主人公になる女の欲望の破滅を描くのがテーマになっている。

この作品は、フィルム・ノワールと言うより、ハラハラドキドキするサスペンス映画として高い評価を得て、一部のシーンに手持ち撮影の演出やアメリカ生まれのモダンジャズをフランス映画に採用するなど、1950年代後半にフランスで生まれたヌーヴェル・ヴァーグ(Nouvelle Vague:新しい波)作品群の代表の一つに挙げられている。

当作品は、1958年に、日本で公開されたが、当時のぼくは中学生の頃だったので、映画を観る機会はあっても、色恋などには初心(うぶ)だったぼくには、大人の恋愛映画を理解できなかっただろう。2010年10月に「死刑台のエレベーター」のニュープリントが公開され、DVDも製作された。

ところで、気になるのは映画の題名。
現在のフランスでは、死刑は行われていないらしいが、この映画が公開された1958年頃は、まだ死刑制度があったので、このような作品が生まれた。
政治犯の弾圧に厳しい中国やロシアを除く主要先進国では、死刑制度は廃止の傾向にあるが、現在でも、アメリカや日本には死刑制度があって、昨今では凶悪犯罪の多発化に伴って、判決が厳罰化の傾向にある。
死刑反対論者の千葉景子法務大臣の時に、日本国民は絞首刑が行われる死刑執行室の存在を知る必要があるとして、処刑が無い日の東京拘置所の死刑執行室を2010年8月にマスコミ報道記者達を集めて公開し、テレビ各局のニュース番組でオンエアーされた。ご覧になられた方も多いと思う。

その後日に、フランク・ダラボンが監督し、トム・ハンクスが主演した「グリーン・マイル」という映画を観る機会があった。
冤罪の死刑囚の大男が電気椅子で公開処刑されるシーンがあって、ぼくは、数千ボルトの電圧ショックで死刑囚が苦しむ表情に、正視するに忍びなく、思わず下を向いてしまった。安楽死の死刑が出来ないのかと思った。

フランスの映画作家、ルイ・マルが弱冠25歳で監督した「死刑台のエレベーター」は、死刑の是非を問うような映画ではない。
フランスのミステリー作家(推理作家)のノエル・カレフの小説を同じタイトルで映画化したものだ。
映画作家のルイ・マル作品は、「死刑台のエレベーター」の他に、「恋人たち(白黒)」、「鬼火(白黒)」、「好奇心(カラー)」、「地下鉄のザジ(カラー)」、「ルシアンの青春(カラー)」などのDVDを観たが、個人的な好みでは、「死刑台のエレベーター」の出来が、他作から突出していると思う。

主演女優のジャンヌ・モローは、1950年代後半〜1960年代前半にかけて、フランスを代表していた女優で、多くの映画作家の作品に出演している。
ジャンヌが映画に使う衣装は、当作ではココ・シャネルのオートクチュールだが、ジョセフ・ロージー監督の「エヴァの匂い」からピエール・カルダンが担当するようになった。 ジャンヌは、数々の名言や迷言を残している。

「男は、生まれた時から男。
女は、歳を重ねながら女になっていくの。
そして、一生、女になることなく、人生を終える人もいるわ」

現在もご高齢でご健在のジャンヌに失礼かも知れないが、ジャンヌは、ファム・ファタル(命取りの女)の役が多いので、同じく悪女役が多いハリウッド女優のベティ・デイヴィスと比較されるらしい。ベティの「何がジェーンに起こったか」の演技は、鳥肌が出るほど凄い。
ジャンヌはベティーとは、灰汁(アク:独特の個性)のタイプが違うので、比較されるのが嫌らしい。
独特の個性があるジャンヌは、カラー作品より、白黒映画が似合う女優である。「エヴァの匂い」に出演して、小憎らしいエヴァを演じたジャンヌも良かった。
フランソワ・トリュフォーが監督した「突然炎のごとく(原題は、ジュールとジム)」のカトリーヌ役や、ルイス・ブニュエルが監督した「小間使いの日記」のセレスティーヌ役も必見だ。

主演男優のモーリス・ロネは、ルネ・クレマン監督の「太陽がいっぱい(1960年公開)」で、大金持ちの傍若無人な放蕩息子、フィリップ・グリーンリーフを演じ、イケメンだが貧乏家庭育ちのトム・リプレイを演じたアラン・ドロンと共に日本で名が知られるようになった。
「太陽がいっぱい」は、ぼくが高校生の時に、アベノのアポロ座で観た初のヌーヴェル・ヴァーグ映画だった。今でも時々DVDで観ている。
未だDVD化はされていないが、ロマン・ギャリー監督の「ペルーの鳥(1968年)」のジーン・セバーグとモーリス・ロネが印象に残る。

そして、シェリエ警部を演じた、リノ・ヴァンチュラの演技が渋い。彼が脇役で出てくると、映画がキリッと締まる。存在感のある脇役である。
ロベール・アンリコ監督の「冒険者たち」でも好演していた。

ところで、ルイという、最低のチンピラを演じたジョルジュ・プージュリーは、ルネ・クレマン監督の「禁じられた遊び」で、ミッシェル役をやった子役俳優であったが、「死刑台のエレベーター」では、凶悪な強盗殺人をやらかす役を演じている。
ルイ・マル監督は、ヴェロニク役に、ポーレットを演じたブリジット・フォッセーを起用したかったのではないだろうか?孤児(みなしご)になったポーレットが成長して花屋の店員ヴェロニクに・・・。

撮影監督にアンリ・ドカエ (アンリ・ドカ) 。彼の手持ち撮影を得意とするキャメラ・ワークには、映画ファンにも定評がある。
この映画では、アンリ・ドカエの手持ち撮影のシーンには、素晴らしい音楽が流れるのだ。
死刑台のエレベーターでは、ジャンヌ・モローが夜のパリ市内を彷徨う時に流れる、マイルス・デイヴィスのミュートの効いたトランペットが哀しい音色を奏でる・・・曲名は、"シャンゼリゼを彷徨うフロランス(Florence Sur Les Champs-Elysees)"。

アンリ・ドカエの手持ちのキャメラ・ワークは、主人公が動揺している時の心理描写の表現に効果的に使われ、ぼくの仕事にも参考になる。
ルイ・マル+ジャンヌ・モロー+アンリ・ドカエ+マイルス・デイヴィスの才能が、上手くコラボレーションして、映画史に光る名画になっていると思う。

「ジュリアン、何処へいったの?」パリの雨降る夜の街角を彷徨うフロランス(ジャンヌ・モロー)。
アンリ・ドカエの手持ちのキャメラ・ワークと、マイルス・デイヴィスのミュートの効いたトランペットが印象に残る名場面だ。

「ちくしょう、何で、こんな目に!」会社の終業後に、忘れ物を片付ける為に会社に戻って、守衛のモーリスにエレベーターの電源を切られ、エレベーターのカゴに閉じ込められるジュリアン(モーリス・ロネ)。


ストーリー

パリにエレベーター付きの自社オフィスがある、石油パイプライン開発などを事業とするカララ商会のシモン社長から情報収集能力の才能が認められて、社長の片腕として雇われた、元フランス軍の英雄だった技術顧問のジュリアン・タヴェルニエが、社長夫人のフロランスと深い不倫関係になった。
世界中を飛び回るビッグビジネスに多忙なシモンは、妻の不倫を知らない。

年齢(とし)の離れた、仕事優先の夫との冷えた夫婦生活に耐えられなくなった、女盛りのフロランスは、シモンの殺害を愛人のジュリアンに指図する。
それも、何と自殺に見せ掛けて殺すという、冷酷な犯罪である。その時がやってきた。

社長の自殺が発見されれば、当然、社長の片腕のジュリアンは、警察から何らかの事情聴取を受けることになる。
フロランスはジュリアンのアリバイを作る為、犯行直後にジュリアンの車に自分も同乗して、パリから遠く離れた別荘に脱出する手筈になっていた。別荘には自分の愛車を事前に置いてきた。

自宅の電話を使うと通話記録が電話局に残るので、アリバイがばれる。フロランスは会社から歩いて15分ほど離れた公衆電話ボックスの中から、夫も出社しているカララ社のジュリアンの執務室に、午後6時55分頃に電話を掛ける。(当時の電話はダイアル式の電話機で、ケータイなんて無かった時代だ)
「ジュテーム(愛しているわ)、ジュテーム、もう、耐えられないわ。だから、やるのよ。
7時30分に、カフェのロイヤル・カメで待っているわ。( 私のクルマは別荘だから ) 車で来てね。私も一緒に乗るから。ジュリアン、(電話に)キスして」。

ジュリアンは、社内の人目を避ける為、階段やエレベーターを使わず、フック付きのロープを使って、社長室のある1階上のバルコニー(屋根のない出っ張り)に登り、社長室で執務中のシモン社長を社長愛用のピストルで殺し、自殺に見せ掛ける計画は上手く行ったのだが、7時半前に退社して、車でフロランスを迎えに行こうとした時、犯行現場に社長の自殺が疑われるロープを残してきたのに気付く。

(※ジュリアンは社長を殺害した後、ロープで一階下のバルコニーへ降下中に、自分の部屋で電話が鳴った。
ジュリアンの頼みで残業している電話交換手のジュヌヴェーヴからの退社時間確認の電話なので、早く出なければならないと思って、バルコニーに引っ掛けたロープを外すのを後回しにしたので、電話が終った時は、うっかりロープを片付けるのを忘れてしまったのだ)

バルコニーに取り付けたロープを取り除く為に、ジュリアンは駆け足で帰社し、慌てて7時30分にエレベーターに乗ると、守衛のモーリスが全員退社したと思って、配電盤にあるエレベーターの電源を切ってしまい、ジュリアンは、エレベーターの中に閉じこめられてしまう。

ここで、大声を出して助けを求めると、会社へ戻ってきたことがモーリスにばれて、社長の自殺が発見された時に怪しまれるので、救助を求められなかったのだ。だから、エレベータに閉じこめられたジュリアンは翌朝まで、脱出出来なくなってしまう。

カララ社の向い側の路上には、エンジンキーが付いたままのジュリアンの車が花屋の前に放置されている。
元兵器商人だったシモン社長は、内務省にも顔が利き、社員のジュリアンの車は、駐車違反が免除されている。
だから、ジュリアンは、カララ商会へ出勤する日は、いつも花屋の前に愛車を長時間停めている。当時はレッカー移動なんてない。
さらに、ジュリアンは車の管理には無神経な男だ。元空挺部隊の大尉だったので、軍用車は、常にエンジン・キーを付けたままなので、それが身に付いているのだ。

ジュリアンの車に興味を持ったのが、花屋で働くヴェロニクと同棲しているルイというチンピラ青年で、バイク窃盗の常習犯である。非常に短気。この不良が、職にも就かず怠惰な日々を送っている。

花屋も定時になって店終い。
ルイとヴェロニクは、土曜の夜のデートに出掛ける約束をしていて、ルイは路上に駐車されたキー付きのジュリアンの車を見つけ、このクルマに乗って、高速道路で走り回ろうと言い出す。
ヴェロニクは、「タヴェルニエさんは、フランス軍の英雄だから、この車を盗んだことがばれたら、後が怖いわ」って、ルイを引き留める。

ルイは、「どこが英雄なんじゃ!」と、ヴェロニクの忠告を無視して、タヴェルニエのクルマを盗んで、助手席にヴェロニクを乗せてドライブに向かう。
ロイヤル・カメの前に立っていたフロランスは、見慣れたタヴァルニエのクルマがサーッと通り過ぎるので、助手席のヴェロニクを見て、フロランスは、愛人のジュリアンは小娘と一緒にドライブしていると勘違いしてしまう。

店先で、今か今かとジュリアンを待っていたフロランスは、大きなショックを受ける。
「ジュリアンは、結局怖くて、やらなかったんだわ。意気地無しね。あんな小娘を乗せて一体何処へ・・・?
あの子はたしか、花屋の店員だわ。・・・私がここで待っているのに、ジュリアンは、なぜ...? 馬鹿げているわ」。

それでも、フロランスは、ロイヤル・カメを出ると、ジュリアンが立ち寄りそうな店を探して、イルミネーションが点滅する夜のパリの街を歩き続ける。 この映画でフロランスを演じた、ジャンヌ・モローは、彼女が一番、女の色香が輝いていた三十代の時だった。

土曜日の夜、恋人達が行き交うパリの光と影・・・。
街灯りの中を相手を探して彷徨う蛾のような、フロランスの切ない表情を見事に捉えた、アンリ・ドカエの適度に揺れるキャメラワーク。

フロランスを見事に演じた、ジャンヌ・モローの心が揺れる演技も良いが、フロランスの切ない心情を表現しているのが、マイルス・デイヴィスのミュート(抑え)の効いたトランペットの音色である。
結局フロランスは夜通し歩き、街娼と間違われてパリ警察の護送車に放り込まれる。

ジュリアンの車を盗んでドライブするルイとヴェロニクの二人は、高速道路でスピード競争した、ベンツ300SLガルウィング・クーペを所有するドイツ人の観光客のベンカー夫妻と知り合い、二組一緒にモーテルに泊まる。
ヴェロニクは、車の持ち主がジュリアン・タヴェルニエなので、ジュリアン・タヴェルニエ夫妻と偽って宿泊する。

ジュリアンの車のダッシュボードの中には、ピストルとポケットカメラが入っていた。
ピストルはルイのポケットに、カメラはヴェロニクが自分のバッグに仕舞った。
このカメラは西ドイツ製のMinoxで、16mmフィルムのカートリッジを装填して撮影する。諜報活動にも使われる高級スパイカメラなので、ヴェロニクにはMinoxの使い方が分からない。ドイツ人のベンカー夫人に訊くと、
「あら、まだ3枚も残っているわ。一緒に記念写真撮りましょ」。

撮った写真は、ホテル内に「写真専用の夜間ポスト」があって、ポスト横の受付袋に氏名とルームナンバーを備え付けの鉛筆で書いておけば、DPE(ディー・ピー・イー:写真ネガフィルムの現像と同時プリント)をやってくれる。
ヴェロニクは、ポストにフィルムカートリッジの入った封筒を入れ、引き換え券を財布に入れた。

日曜早朝の午前4時、ルイはヴェロニクを起こし、「ずらかるぞ!あいつらを出し抜くんだ」といって、今度はドイツ人夫妻のベンツ300SLガルウィング・クーペを盗んで逃げようとすると、エンジンが掛かってもロー・ギアが入らない。

「君は、ベンツ300SLの走らせ方を知らないんだな。盗まれないように、ギアはロックして置いた。解除には、これが必要だよ」。
と言って、ベンカー夫妻が出てくると、立腹したルイはジュリアンのピストルでドイツ人夫妻を射殺。ギアロックを外す鍵を奪って、ベンツ300SLで逃亡する。
そして、パリ市内に入る前にベンツを乗り捨てる。

この二人は、パリ市19区グレネル街にある、みすぼらしい安アパートに住んでいる。
モーテルから戻った二人は、疲れ果てて、ベッドにへたり込んだ。
ヴェロニク:「ピストルって、怖いわ」
ルイ:「だって、奴が俺に近寄って来たんで、撃つしか仕方が無かったんだ」。
ヴェロニク:「今は、医学が進んでいるから、撃たれても手術で治るよね。ルイ」。
ルイ:「頭に当たった・・・ダメかも」。
ヴェロニク:「あと2時間ほどしたら、今朝(けさ)の新聞で、私たちのことが載るわね。二人が並んだ新聞写真」。
ルイ:「そうかもな。何もかも。俺は成人だから、死刑は確実だ」。
ヴェロニク:「ルイが、死刑になるの・・・そんなことはさせない」。
ルイ:「南米へ一緒に逃げよう」。
ヴェロニク:「そんなお金はないわ。あーぁ、新聞に出るわ・・・悲劇の恋人達って」。
ルイ:「ヴェロは未成年だし、俺だけが監獄行きだ。警察は俺とヴェロを一緒にするのを許さないよ」。
ヴェロニク:「私たちの方が強いわ。ルイと離れ離れになるのは絶対厭よ。捕まる前に、一緒に死にましょ」。
ヴェロニクは、「きっと、私たちのことを見習う恋人が出るわ」とつぶやきながら、睡眠薬の瓶をキャビネットから取り出し、数粒ルイに飲ませ、自分も飲んで眠ってしまう。 ところが、予想外のことが起きる。

日曜の朝刊トップは、「ドイツ人観光客が殺害される!犯人はタヴェルニエで現在逃亡中」 と、デカデカと書き立てられた。
これは、ドイツ人観光客殺人現場のモーテルのガレージに、ジュリアンの車、ジュリアンが着ていたコート、ジュリアン愛用のピストル、宿帳にジュリアンの名前が残っていって、ジュリアンを犯人と断定する証拠が充分に残されていたからである。

モーテルからの急報で真っ先に駆け付けたのが、外国人観光客の殺害事件なので、警察ではなく検事局が先に動いた。担当検事の現場検証では、「これは、ラシーヌの悲劇的な事件である」と、見立てた。

つまり、現場に残された証拠品の身元が割れ、落下傘部隊の大尉であったタヴェルニエは、酒飲みで喧嘩早く、ベンカー夫人が大変な美人なので、男女関係のもつれが元で、トラブルが起きたものと考えられる。今夜にもタヴェルニエを逮捕して、自白でその真相が明らかになるだろうと、駆け付けた新聞記者達に発表した。

しかし、検事の新聞記者会見を傍で聞いていた、パリ警察のシェリエ警部は、犯人が殺人現場に証拠品を多数残して逃げるようなことは有り得ないし、女の連れの男に目撃者が誰もいないので、事件現場を調査した検事の拙速な容疑者の断定に疑問を抱くようになる。

刑事二人が、カララ社の守衛モーリスを日曜日の朝に起こして、カララ社のシャッターを開けさせ、ジュリアンの部屋を家宅捜索に来た。
保安室にある配電盤の電源が入ったので、停まっていたエレベーターが動き出し、ジュリアンはエレベーターを操作して、2階に停め、こっそりと階段を降りて社外に出る。 花屋の前に停めてあった車は無い。 念のために、フロランスが待っているかも知れない「ロイヤル・カメ」へ朝食に行く。

カフェの店員達や店内の客は、新聞で殺人犯にされたジュリアンが、のこのこと店内に入ってきて、店員がビックリ。店主は急いで警察へ電話する。
ジュリアンも、注文したクロワッサンを頬張りながら、カフェオーレを飲んで朝刊をみると、「ドイツ人観光客が殺害される。犯人はタヴェルニエで現在逃亡中」の記事を見てビックリ仰天。
間もなくパリ警察のパトカーがサイレンを鳴らして現れて、ジュリアンは手錠をはめられた。そして、警察へ連行され、二人の刑事から容赦のない追及を受ける。

「土曜の夜の7時半から今朝まで、どこにいた?」
「酒を飲み過ぎ、酔っ払ってしまって、夕べから今朝までのことはよく憶えていません」。
「酒を飲んだのは、どこの店だ?」
「わかりません」。

本音は「エレベーターの中にいました」と、言いたいところだが、シモン社長の自殺が嘘になるので、そんな事は言えない。
家宅捜索の最中に、守衛のモーリスが出張中の社長室に入ろうとしたら、中から鍵が掛かっており、鍵穴から覗くと、シモン社長は自殺していた。

社長夫人のフロランスは、警察署内でシェリエ警部からジュリアンの逮捕を聞かされて、ドイツ人観光客殺害の容疑者になった愛人の不可解な行為に失望するが、帰宅後、電話でシモン社長の自殺の報せを聞き、ジュリアンは約束を守ってくれたのだと喜び、顔に生気が戻り「私がジュリアンを助けてあげる」といって、花屋に行き、ヴェロニクの住まいを聞き出す。

フロランスは、自分の車を運転し、ヴェロニクのアパートに行くと、睡眠薬を飲んだ二人は生きていた。服用量が足りなかったのである。 フロランスは、二人に新聞を差しだし、
「ドイツ人夫妻を殺したのは、本当はアンタ達でしょ。今、アンタ達に死んで貰っちゃ困るのよ。アンタ達がジュリアンの車に乗っているところを見たわ。観念しなさい」と、ヴェロニクの部屋の鍵を外から掛けて二人を閉じ込め出て行く。そして、近くの公衆電話から、警察へ電話する。

自殺し損なった二人は、
ルイ:「ヴェロ、この新聞を見てみろよ。あの女、騙しやがって。犯人の写真は俺たちじゃないぜ。犯人はタヴェルニエになっているじゃん。パリ警察は俺たちことは、ぜんぜん知らないよ。ヴェロはモーテルの受付に顔を知られているから、どこかへ隠れよう」 。
ヴェロニク:「でも、ルイの写真を残してきたわ」。
ルイ:「えーっ、写真って、どこの?」
ヴェロニク:「モーテルで、ドイツ人と記念写真撮ったでしょ」
ルイ:「しまった!ちくしょう、早く写真を取り戻そう。証拠を燃やしてしまえば、ヴェロ、俺たちは無罪だぜ」。
ヴェロニク:「写真の引換券はこれよ」。

ルイはバイクに乗って、モーテルへ急ぐ。それを追うフロランスの車。
昼間はモーテル併設の写真屋は開業している。 ルイが店内に入ると、ネガを印画紙に焼き付ける”皿現像”の褐色のセーフティライトが灯る暗室に案内された。そこにはシェリエ警部が待っていた。
定着液のバットの中には、ベンカー夫人がモーテルで写した記念写真が浸かっている。
「君が来るのを待っていた。この写真の男は、君だね」。
ルイはうなだれて、他の刑事に連行されていった。

そこへ、ルイを車(ルノー製のbebe)で追い掛けてきたフロランスが現れる。
シェリエ警部:「カララ夫人もここへ来られましたか。今現像中ですが、ご覧になって下さい」。
四つ切ぐらいのバットに入った現像液に沈む、露光された印画紙の画像がジワジワと現れてくる。 ジュリアンとフロランスが抱き合う写真だった。
夫のシモン社長は自殺したのではなく、他殺であったことを雄弁に物語る写真だった。

シェリエ警部:「あなたは、(この事件の捜査担当を任せられた)私に感謝しなさい。ドイツ人観光客を殺害した犯人は、成人なので死刑がほぼ確実ですが、ご主人を殺したタヴェルニエは、10年か5年で出て来られるでしょう。自由になれます。
しかし、共犯者のあなたの場合は、陪審員の心証がよくありませんから、20年から10年の刑になるでしょう」。

フロランスは現像液に沈んだ、現像が次第に進んでいく印画紙プリントを撫でながら...、
「10年、20年も無意味な月日が続く。 私は眠り、目を覚ます。・・・たった独りで。
私は(ジュリアンに夫の殺害を指図して)冷酷だったわ。でも、愛していた。あなただけを。
私は年老いていく。でも、二人は一緒。どこかで結ばれている。誰も私達を離せないわ」。

FIN


あとがき

この映画の題名と映画音楽を知ったのは23歳の頃である。
ぼくが、広告写真のカメラマンになって一年目で、上司のライターさん影響でモダンジャズが好きになり、暗室兼用の自室に買ってきた、山水製のステレオ・レシーバー (FMチューナ+プリアンプ+メインアンプが一体型になった製品)と山水製の2wayスピーカー、パイオニアのレコードプレヤー ( カートリッジはシュア製に交換) を置いて、当時のモダンジャズの第一人者・マイルス・デイヴィスのLP盤(CBS SONYから販売されたもの)を多数聴くようになってからだった。

その、アメリカで大活躍していた、JAZZトランペッターの第一人者、マイルス・デイヴィスがフランスに呼ばれて、ルイ・マル監督の映画音楽を作曲・演奏することになった。
マイルスは、「My Funny Valentine」、「Stella by Starlight」、「Someday My Prince Will Come」のようなバラード曲を得意とし、トランペットにミュート奏法(ミュートは、弱音器で音色も変えられる)を採り入れ、その場の雰囲気でアドリブ演奏が得意なミュージシャンだった。
録音スタジオで、編集したプリント映写を見ながら、即興で10曲ほど吹いたそうだ。収録時間は4時間ほどだったらしい。

「死刑台のエレベータ」に編成された、マイルス・デイヴィス・カルテットのメンバー
トランペット(tp)・・・マイルス・デイヴィス(Miles Davis)
テナー・サックス(ts)・・・バルネ・ウィラン(Barney Wilen)
ピアノ(p)・・・ルネ・ウルトルジェ(Rene Ultreger)
ベース(bass)・・・ピエール・ミシュロ(Pierre Michelot)
ドラム(ds)・・・ケニー・クラーク(Kenny Clarke)
作曲は10曲

因みに、ルイ・マル監督は、アルト・サックス奏者のチャーリー・パーカーも好きらしく、1971製作の「好奇心」に、彼の演奏を採用している。
好奇心では、神学校に通う15歳のローラン(ブノア・フェルー)が、ディジョン市のレコードショップで、チャーリー・パーカーのLP盤を万引きして、自室のポータブル・プレヤーで聴き惚れるシーンがある。

「死刑台のエレベーター」には、この作品の後にルネ・クレマン監督の「太陽がいっぱい」を撮った、アンリ・ドカエがキャメラを回している。
とくに、夜のパリの街を恋人の居場所を探して彷徨うジャンヌ・モローの手持ち撮影が大変上手い。
ルイ・マル曰く、 「ジャンヌの凄いところは、たった数秒で表情を変えられることなんだ」。

魔性の女を演じたら天下一品!ジャンヌ・モローは、当作品に出演した時は30歳だった。映画が始まると、いきなり不倫相手の恋人に電話を掛ける、ジャンヌ・モローの大アップ。
いきなり、ジャンヌ・モローからカメラに向かって「ジュテーム」、「ジュテーム」なんて、連呼されたら、こっちもその気に吸い込まれてしまう。 思い切ったクローズアップが成功している。

この作品はミノックス(Minox)という、西ドイツ製の16mmサイズのロールフィルムを使うカメラが重要な役割をしている。
ミノックス判といって、日本でも愛用しているマニアもいた。昔は高性能なスパイカメラとして、東西冷戦時は、西側諜報員などに利用されたらしい。
ジュリアンは軍人だったということで、彼の愛機がミノックスになっている。ネガフィルムの画面サイズが、人差し指の「爪」ぐらいなので、キャビネ(5×7インチ=12.5×17.5cm)ぐらいしか引き伸ばせない。

さすがに、フランスは、フランス人のルイ・ダゲールが、銀塩写真を真っ先に発明した国なので、暗室での印画紙現像のシーンまで登場するが、モーテル室内の明るさで素人が手持ちで撮ったスナップは、ほとんどが手ブレで写真が呆けるので、素人がMinoxで撮った写真が六つ切サイズまで、シャープに伸ばせるのかについては、暗室でネガをプリントした経験の豊富なプロ写真家から見れば疑問に思うところだ。

1958年は、まだ自動露出のカメラは無いので、一発で適正露出の写真を撮るのはプロカメラマンでも難しかったのだ。今では小学生でもケータイのカメラで適正露光の写真がカンタンに撮れて、友達のケータイに転送できる時代だから、平成生まれの人が観ても違和感はないが、時代考証的には疑問符がつく。
現像液に浸かった印画紙から画像がジワジワと現れる表現は、ミケランジェロ・アントニオーニ監督も「欲望」でも採用しているが、欲望では、大伸ばしに耐えるNikon Fとニッコールレンズが使われていたので、納得はしたが。

ルイ・マル監督の観客サービスとして、1955年に製造された、ベンツ300SLのガルウイング・クーペ(日本では俳優の石原裕次郎が所有)が登場する。これが、フランス製のキャンバストップのスポーツ・カー(調べたが車種不明)と高速道路でカーチェイスするシーンがあって、迫力があった。
ルイ:「この車、最高速度145キロしかでねぇ。牛なみだな」。
ヴェロニク:「追いつけるわよ」と、ルイをけしかけ、「モーテルに泊まろうよ」と、大胆になる。
二人がモーテルに泊まらなければ、殺人事件は起きなかった。
ベンツ300SLのガルウイング・クーペは、発売当時は、6,800ドルだったが、現在は稀少価値が付いて40万ドル!

映画作家のルイ・マルは、観客心理を考えて巧みな演出をしている。
殆どの観客は、エレベーターに閉じこめられたジュリアンに同情して、早く会社から脱出して、カフェで待っているフロランスに出会って欲しい思わせ、ジュリアンの車を盗んだルイとヴェロニクには早く捕まって欲しいと、この二人を憎々しく思うような演出をしている。

でも、ジュリアンとルイがやった犯行は、同質なのである。
でかい面(つら)をしているシモン社長が自殺すれば、フロランスには莫大な遺産と利権が入り、フロランスの愛人・ジュリアンをシモン社長の後継者にして、幸せな生活ができる筈だった・・・。

チンピラのルイは、バイク窃盗などで小遣い銭を稼ぎ、花屋に勤める恋人のヴェロニクとボロアパートで同棲していた。
ルイは、金持ちや有名人に対しては、貧しさ故のひがみがある。自分がバカにされると、すぐに突っかかる若者だ。

ヴェロニクは、生活力があって、著名人で、イケメンのジュリアンを密かに好きになっていて、「タヴェルニエさんはフランスの英雄よ。車を盗んだ事がばれたら怖いわ」と言ったことが、ルイの自尊心を傷つけ嫉妬心を煽ったので、「ジュリアンのどこがフランスの英雄なんじゃ、でかい面しゃがって」と、敵愾心を燃やし、ジュリアンの車を嫉妬心で盗んでしまう。

さらに、モーテルで「君は、ベンツ300SLの走らせ方を知らないんだな。盗まれないように、ギアはロックして置いた」の一言に、短気なルイはぶちぎれて、ドイツ人夫妻を殺してしまう。
ジュリアンとフロランスのカップル、ルイとヴェロニクのカップルは、貧富の差はかなり違っても、同質の犯罪を犯したカップルだった。
この映画の切れ味鋭い演出は、とても25歳の映画作家が作った映画とは思われない。しかも、自分のお金を使って・・・。

2012年6月8日 尾林 正利

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