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パッケージはカラーですが、映画はモノクロのビスタビジョン(1:1.66)です。


召使

1963年公開、(日本では1968年公開)

The Servant
Directed by Joseph Losey

召使(めしつかい)・・・個人的に興味の惹かれたタイトルだったので、通販サイトで本作を探し、注文して観ることにした。
親が貴族で「トニー」という青年実業家の新居に仕えるという、召使のバレットを演じるダーク・ボガードと、バレットの妹(実は婚約者)で、淫らなヴェラを演じるサラ・マイルズとの共演・・・それを監督がどのように演出するかを観たかったのだが、小悪魔的なサラの出番(濡れ場のシーン)は、意外に少なかった。その理由は、映画を観れば分かるようになっている。

現代の日本では、戦後の1947年に、公侯伯子男の爵位を持つ華族という身分制度は廃止され、「召使」と言うような、封建的な主従関係が臭う言葉を使わなくなったが、そういう職業は今でも存在するようだ。

召使とは、日本においては、旧華族や資産家の広い邸内で、日々の雑用に、住み込みで働かされている奉公人(下男や下女)を指している。通いの人は「お手伝いさん」と呼ばれている。

召使の仕事の内容は、炊事・洗濯・掃除・買物・暖房用の薪割り、庭の草木に水遣り、来客や電話の応対、戸締まりなどだが、賓客を招待した時の料理は、贔屓にしているレストランから調理師数人を呼んで調理をして貰ったりする。庭園の手入れは、素人では難しいので、庭師に依頼する。

1970年代に、京都府にあった旧華族の大邸宅へロケ撮影に行った時、召使と呼ばれる人が住み込みで、主人と家族に仕えていた。その主従関係を撮影の合間にチラッと見ていると、まるで、明治時代の日本に引き戻されたような印象を受けた。

この映画の背景は、イギリスの中流貴族社会を舞台にしている。イギリスは民主主義国家ではなく、立憲君主国家であり、エリザベス女王の領有地では、恩賞のあった公爵に女王の土地を与え、公爵は広大な不動産を有効利用して、リッチな暮らしをしているが、英国が戦争する場合は提督になって、国(女王)のために働かなければならない義務がある。

イギリス議会は貴族院(上院)と庶民院(下院)の2院制である。貴族院の議員は名誉職なので、議員活動の経費は支給されるが、議員報酬の支払いはないらしい。
21世紀現在のイギリスでも、伝統的な王室・五階級の貴族・庶民という身分制が明確に区別された階級社会なので、それを皮肉った小説が、ロビン・モーム(サマセット・モームと親戚らしい)によって書かれ、ハロルド・ピンターが脚色して、ジョゼフ・ロージーによって「召使」というタイトルで映画化された。

イギリスでは、育ちが庶民でも、産業界や芸能・スポーツ界で、イギリスの国益になる著しい業績を挙げれば、英王室の叙勲制度でナイトの称号が与えられ、貴族(上流社会)の仲間入りができるが、貴族でも公爵から男爵まで、五段階もある。 爵位に相応しい資産が充分にあり、貴族社会に必要な教養やマナーを知らないと、勲章を貰ってもパーティーで赤恥をかく。

オードリー・ヘプバーンが主演したミュージカル映画「マイ・フェア・レディ」を観れば、イギリスの上流社会が少し分かる。
貴族ばかりが集まる夜会には、主催者が指定したイヴニングドレス(色が指定される)やタキシードを着込んでパーティに出掛け、上品な英語を流暢に話さなければならない。

イギリスで本当の貴族というのは、アッパー・ミドル(中級以上の貴族・・・伯爵以上)を指し、中世からの先祖代々の不動産(お城や領地)や動産(宝飾品や絵画・彫刻・値打ちのある家具)を引き継いで、現在でも国内に広大な領地を数カ所、海外のリゾート地に別荘を数カ所も保有している富裕層のことである。

広い領地や観光資源を活用して、酒造事業や酪農事業、お城をリゾートホテルに改築して観光事業を始めて、それらの事業収入などから生活しているケースが多く、貴族のビジネスや資産運用は、信頼のおけるコンサルタント会社に任せ、貴族の夫婦はあくせく働かない。子育ても乳母に任す。夫婦は、夜な夜な開かれる、楽団付きの華やかなパーティー(ダンスと食事など)を通じて、マスコミでは報道されない上流社会の情報を交換しあうわけだ。

この映画では、主役になる召使の男、ヒューゴ・バレット役を、ルキーノ・ヴィスコンティの作品「ベニスに死す」などで、同性愛者的な役柄が多いダーク・ボガードが演じていて、雇用主の主人、トニー(ジェイムズ・フォックス)との主従の関係が、召使が仕組む色仕掛けのトリックに幻惑されて罠に嵌り、次第に主従の立場が逆転していく様子が冷徹に描かれている。

これと少し似た映画には、ルイス・ブニュエルが監督した「小間使いの日記(Le Journar D'une Femme Chambre:1964年) 」という映画があるが、こちらは主役の家政婦セレスティーヌ役をフランスの名女優、ジャンヌ・モローがメイド服を着て演じている。二本の映画の結末は違うが、両作共、ブルジョワ階級に批判的な内容だ。

「召使」を監督したジョゼフ・ロージーは、アメリカ生まれの映画作家であったが、第二次世界大戦後に始まった東西冷戦(米ソ対立)という当時のギスギスした世相の影響を諸に受けた。 それは、1950年2月〜1954年12月に、アメリカ合衆国で吹き荒れたマッカーシズム旋風(McCarthyism:徹底した反共活動)のことである。

イデオロギーの違いで、アメリカの資本主義と対立する共産主義国(ソビエト連邦と中華人民共和国)の脅威によって、当時のアメリカでは、親ソ・親中の共産主義者を排除する国策が施行され、レッドパージ(Red Purge)と言って、公安警察から赤狩りが行われ、共産主義者と同調者を公職や企業から追放された。

それが、米映画界の中心地であるハリウッドにも飛び火し、最初の標的は、映画製作の天才であったチャールズ・チャップリンに向けられ、「殺人狂時代」が米大統領の逆鱗に触れ、1952年〜1972年まで、アメリカから国外追放になった。チャップリンは20年間もアメリカへの入国を禁じられた。 とくに、1936年に公開された「モダンタイムス」は、労働者の立場から資本主義社会を批判して茶化しており、資本家を守るアメリカの公安当局は、チャップリンの映画は、資本主義を愚弄して、けしからんというワケである。

ジョゼフ・ロージーは、ハリウッドの右派反共勢力から元共産党員だと密告されて、米映画界における要注意人物のブラックリストに挙げられ、米議会下院に設置された非米活動委員会から召喚を受ける前の1953年に、アメリカからイギリスへ亡命した。

1954年に赤狩りの先鋒、マッカーシー上院議員が政治失脚し、米国内の赤狩り旋風は急速に弱まったが、取締り自体は1975年まで続いた。ハリウッドを追われたジョゼフ・ロージーは英国に定住し、二度と母国へ帰ることは無かったらしい。ロスで暮らすより、ロンドンで暮らす方が居心地が良かったのだろう。

ジョゼフ・ロージーは、イタリアやイギリスで、親しい仲間と一緒に、テレビコマーシャルや劇場映画を製作したが、イギリスへ亡命後の5年間は、実名を明らかにして映画を製作することが配給会社から許されず、四名のペンネーム(一例を挙げれば、アンドレア・フォルツァーノ名義)を使っていたそうだ。 世の中に出回っている本の著者は、自分で書かず、ゴーストライターやテープライターが書いているケースも多いと思われるが、ゴースト・ディレクターというのは殆ど聞かない。

さて、ジョゼフ・ロージーの作品で観たのは、1962年公開の「エヴァの匂い(EVA)」、1963年の「召使(The Servant)」、1966年の「唇からナイフ(Modesty Plaise) 」、1967年の「できごと(Accident)」までの4本を観たが、1964年公開の「銃殺(King and Country)」は未だ観ていない。1982年公開の「鱒」は、日本の東京・京都でもロケ撮影されたそうだが、この2作品は、ぜひ観ておきたいと思っている。

当サイトでは、「エヴァの匂い」をすでに紹介している。 「召使」でも、曇りや雨の日を選んで撮影した、ダグラス・スローカムのモノクロームの湿り気のある映像が、フォトジェニックだ。
「エヴァの匂い」で多用された鏡の中に写り込んだ映像が、「召使」でも効果的に使われている。

主なキャスト

Hugo Barrett(ヒューゴ・バレット:ロンドンの高級住宅街で貴族の御曹司トニーの屋敷に仕える召使)・・・Dirk Bogarde(ダーク・ボガード)
Vera(ヴェラ:召使バレットの愛人だが、妹としてトニーの屋敷でメイドとして働く)・・・Sarah Miles(サラ・マイルズ)
Susan(スーザン:トニーの婚約者。トニーを自分好みの男にしょうとするが、胡散臭い召使に警戒する)・・・Wendy Craig(ウェンディ・クレイグ)
Tony(トニー;家事が全く出来ない坊ちゃん育ちの駄目な男。召使にバレットを雇って、罠に嵌められる)・・・James Fox(ジェームズ・フォックス)
Lady Mounset(マウンゼット卿夫人)・・・Catherine Lasey(キャサリン・レイシー)
Lord Mounset(マウンゼット卿)・・・Richard Vernon (リチャード・ヴァーノン)

主なスタッフ

監督:Joseph Losey(ジョゼフ・ロージー)
製作:Joseph Losey and Norman Priggen(ジョゼフ・ロージー、ノーマン・プリッゲン)
原作:Robin Maugham(ロビン・モーム)
脚本:Harold Pinter(ハロルド・ピンター)
撮影:Douglas Slocombe(ダグラス・スローカム)
音楽:John Dankworth(ジョン・ダンクワース;イギリスジャズ界のトップサックス奏者)
美術:Ted Clements(テッド・クレメンツ)
プロダクション・デザイナー:Richard Macdonald(リチャード・マクドナルド)
録音:John Cox(ジョン・コックス)
衣裳:Beatrice Dawson(ベアトリス・ドーソン)
ヘヤー;Joyce James(ジョイス・ジェイムズ)
メイク:Bob Lawrence(ボブ・ローレンス)
編集:Reginald Mills(レジナルド・ミルズ)
画面と色調:ヨーロッパ・ビスタ(1:1.66)モノクローム
製作会社:ELSTREE DISTRIBUTORS LIMITED(エルストリー・ディストリビューターズ・リミティッド)
A SPRINGBOK Production(スプリングボク・プロダクション)

ストーリー

ロンドンの高級住宅街のキングスロードにある、中古の分譲マンション(3階建てだが、階上の部屋があるメゾネットタイプ)が売れた。この家を買ったのは、マウンゼット卿の親戚に当る貴族の御曹司トニーである。
トニーは、ブラジルのジャングルを開発して、三つの都市を建設して、そこにアジアの農民を移民させて、ブラジルでプランテーション事業の計画を考えていた。
そのための連絡事務所として買ったワケである。但し、トニーは考えるだけで、あとの実務は丸投げの他人任せなので、事業が上手く行くかどうかは分からない。


身形(みなり)を整えた一人の男が、トニーが入居したマンション1階のドアのインターフォンを押す。しかし、誰も出ない。
召使のプロフェッショナル、ヒューゴ・バレットは、トニーが召使を探しているのを知って手紙を書き、指定された日時に面接にやってきたのである。

入口には鍵が掛かっておらず、バレットは扉を開いて部屋に入っていく。
日本の場合は、中古の分譲マンションを販売する場合は、高く売るために、汚れた部屋を小綺麗にリフォームして(洗って)から、販売するケースが多いのだが、イギリスでは現況の状態で販売するらしい。従って部屋の中は、前の人が引っ越した後の不要品が散乱し、壁紙が破れたままになっている。
陽当たりの良い南側のリビングで、ソファーに座って転(うた)た寝している青年が居た。

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すぐに起きないので、バレットが咳払いすると、青年は目を覚ました。
トニー:「済まないね。眠ってしまったよ」。
バレット:「ヒューゴ・バレットと申します。約束の3時に参りました」。
トニー:「私がこの家のオーナー、トニーだ。(ランチタイムに)ビールを飲み過ぎたよ。君は、いける方か?」
バレット:「私は、お酒を嗜みません」。
トニー:「ぼくは、アフリカから帰ってきたばかりでね。この家はどう思う?」。
バレット:「素晴らしいと思います」。
トニーは、階上の2階3階の部屋も一通り案内しながら、再び1階に降りて、
トニー:「良い家に巡り会えたよ。傷みも少ないし。さぁ、そこに座って、仕事の話をしょうか」。
バレット:「どうぞ、承ります」。
トニー:「三週間後には、ここへ引っ越したいんだが、僕は独り者でね・・・それで、召使が必要なんだ。何人か面接したけど、ピーンとくるような人がいなかったんだ。君は召使の経験はあるの?」
バレット:「13年になります。ここ数年は貴族のお屋敷にお仕えしていました。5週間前にはバーンズ子爵邸に・・・」。
トニー:「おーっ、バーンズ子爵か!父はバーンズ卿と親しかった。二人が亡くなったのも同じ頃だよ。・・・では、今は無職なんだな。召使の仕事は好きか?」
バレット:「えぇ、とても好きです」。
トニー:「料理はできるのか?」
バレット:「自分で言うのは烏滸がましいですが、かなり自信があります。スフレ(フランス料理の一つ)は、いつもお褒めの言葉を頂きます」。
トニー:「じゃ、料理も作ってくれる?」
バレット:「はい、喜んで、お作りします」。
トニー:「女中を雇っても良かったんだが、口煩い婆さんには苦手でね」。
バレット:「確かに」。
トニー:「よし、君に家事全般を頼みたい」。
バレット:「仰せの通りに、しっかり務めさせて頂きます」。
召使の仕事って、住み込みだと生活費(家賃や光熱費・住民税)が不要で、食費も浮く。給料もそこそこなので、案外、おいしい職業なのである。この映画を観てから分かった。


綺麗好きなバレットのお陰で部屋が片付き、トニーはブルー系が好きなのだが、バレットは今年の流行色だからと言って、赤系の壁紙に張り替えてしまう。モノクロ映画なので、壁の色まで分からないが・・・。
内装も仕上がり、引越も終って、トニーの恋人スーザンがやってきた。

スーザンは、人見知りで嫉妬深く、将来の夫になる恋人のトニーを自分の意のままにコントロールしょうと思っているので、トニーが、自分に何の相談せずに勝手に召使を雇ったことには不満だった。


トニーは、バレットにスーザンを紹介した。
トニー:「バレット、ぼくの婚約者スーザンだよ」。
バレット:「召使のバレットと申します。コートをお持ちします」。
スーザン:「いえ、結構よ」と、御機嫌斜め。
トニー:「部屋のリフォーム、気に入ったかい?」
スーザン:「美しいわ」。
バレット:「貴族のお屋敷の内装は、伝統的(トラディショナル)なのが、一番です」。
スーザン:「伝統的ですって?どこが・・・むしろ、古典的(クラシック)だわ」と、貶す。
トニー:「スーザン、ぼくは気に入っているから、これで良いだろう。バレット、酒を持ってきてよ」
バレット:「かしこ参りました」。
スーザン:「私は、ウォッカよ」。イギリス人なのにスコッチを頼まず、召使に家に置いていないウォッカを頼むのは、目障りな召使を買物に行かせて、恋人と二人きりになりたいサインなのだろう。


そして、夕食の時間。
スーザンは給仕するバレットを見て、
スーザン:「あなた、ワインを注ぐ時に、なぜ手袋をするの?」
バレット:「これは、イタリア式です」。
トニー:「このワイン、旨い」。
バレット:「厳選銘柄のボジョレーワイン(フランス産)です」。
スーザンは、隙を見せない召使のプロに、突っ込みを言えなかった。


ある日、トニーは雨に濡れて帰ってくる。ずぶ濡れだ。
バレットは予めお湯を沸かし、大きな鉢にお湯を入れ、帰宅したトニーの両足をお湯で温めてやる。
こうしたバレットの心遣いが、トニーの気持ちをがっちり掴んでいく。
週末にはスーザンがやって来るようになった。スーザンは、匂いの強い香水を付けていて、バレットはスーザンが帰るときに、消臭スプレーでスーザンの匂いを消していた。
女性は自分の付けている香水の匂いや、女の痕跡(リップスティックやマスカラのブラシ)を男の家や男の車にワザと残す、マーキング本能が備わっているようだ。

ある週末、
トニー:「スーザン、うちで暮らさないか?」
スーザン:「それは、週末の時だけ?それとも二三週間?」
トニー:「スーザン、結婚しょう」と、熱いキスを交わした瞬間に、バレットが入って来た。
スーザン:「部屋に入る時は、ノックしなさい。失礼だわ」と、怒り出す。
トニー:「単なる不注意だ。気にするな」。
スーザン:「トニー、バレットをうろつかかせないでよ。気味が悪いわ。勤務を通いに出来ないの?」
トニー:「そんなの無理だよ」。
スーザン:「でも、夜の食事が終ったら、もう用無しでしょ」。
トニー:「戸締まりがある」。
スーザン:「もう・・・、帰るわ」。
バレットが見送りに来る。
スーザン:「こんな時間までお仕事なの?もう、あなたは寝たら」。
トニー:「バレット、下がっていい。スーザン、車で送るよ」。

バレットは、トニーとスーザンが結婚すれば、スーザンのせいで、自分が御祓箱になると思い、二人が結婚出来ないように策略を練る。
男女の愛情は、熱しやすく冷めやすいが、男同士の友情は冷めない。


さらに数日経って、スーザンは花束とソファーのクッションを持ってやってきた。
スーザン:「今日は、お花を持ってきたの」。
トニー:「キレイだ。ありがとう」。
スーザン:「彼は、いつもドアの外にいるわ。ピーピング・トム(覗き魔)だわ。トニーは、あまり花を飾らないわね」。
トニー:「病気になりやすいには人には良くないと言われたんだ。スーザン、バレットにガミガミ言うな。辞められたら困る」。
スーザン:「どうして、困るのよ。私がいるのに」。
トニー:「彼のような、良く働いて気が利く召使は他にいない。召使だって人間なんだ」。
スーザンは、トニーがバレットを庇うのを見て、厭な気分になる。
さて、これからがこの映画の核心に入っていく。

バレットは、トニーの家の近くにある公衆電話から妹役のヴェラに電話して、ヴェラをロンドンに呼ぶ。
妹というのは実はウソで、バレットの愛人である。愛人とばれたら、トニーに雇って貰えない。ヴェラのヘヤースタイルは、クリームパフェのような天こ盛り。ヘヤードレッサーの美的センスに笑ってしまった。


ロンドンにヴェラがやってくる前日に、
バレット:「この頃、スーザンさんは来られませんね。明日、妹が来ます。ここに雇って欲しいと言ってました」。
トニー:「そうか、有能なら雇っても良い」。
そう、言っていると、バレットの留守中にスーザンがやってくる。
スーザン:「彼は胡散臭いわ。気になるの」。
トニー「直に慣れるよ。彼は魚のような顔をしているけど、胡散臭くは無い。君はバレットを気にし過ぎだ。馬鹿げているよ」。
スーザン:「そうかもね。でも、クビにして欲しいのよ」。
トニー「君は、ぼくの決めたことが、ただ気に入らないだけなんだろ。意地が悪いぞ」と、言い合いになる。
スーザンは、また怒って帰った。

ヴェラを駅まで迎えに行ったバレットは、帰宅した。
トニー:「バレット、こっちへ」。
バレット:「お呼びで。何か?」
トニー「今日は酷い昼食だった。ちょっとスーザンと揉めてな。口直しにブランデーを頼む」。
バレット:「お召しのスーツ、良い仕立てですね。妹が来ましたので会って頂けますか?ぜひ、メイドとして働きたいと」。

亡くなった父と親しかった、マウンゼット卿夫妻がやってきた。トニーの近況を知るためである。
マウンゼット卿夫人:「ブラジルへ行けば、きっと魅了されるわよ」。
マウンゼット卿:「そうとも」。
マウンゼット卿夫人:「私は子供の頃に、アルゼンチンにも居たのよ」。
マウンゼット卿:「君は、ブラジルで事業を興すんだろ・・・いくつ都市を造るんだ?」
スーザン:「三つですわ」。
トニー:「大開発なんです」。
マウンゼット卿:「ジャングルの中にかい?」
トニー:「いや、平原の中にです」。
スーザン:「あなた、ジャングルを伐採するって、言ってたんじゃないの?」
トニー:「一部のジャングルだよ」。
マウンゼット卿夫人:「平原には、ポンチョが要るわ」。
スーザン:「ポンチョ?」
マウンゼット卿:「南米のカーボーイのファッションだよ」。
しかし、トニーの自宅には、ブラジルで事業を興す現地スタッフからは、何の連絡もない。青年実業家のトニーは顔が立たず、少し苛立っていたが、スーザンが居ると落ち着いた。


数日経ったある日、バレットは実家の母親が急病になったので、妹と一緒に故郷に帰りたいと申し出て、休暇を取ることになった。
しかし、妹が駅で気分が悪くなったといって、トニーの屋敷に帰ってきた。これは、バレットが考えた色仕掛けのシナリオだった。
トニーは、食事を作るバレットが不在なので、スーザンを誘って外で食事をしょうとしたが、スーザンと会えなかったので一人で帰って来た。



その夜は、お屋敷でヴェラとトニーが二人きりになった。ヴェラを演じるサラ・マイルズは、淫らな女を演じるのが得意。
ヴェラ:「1階に明かりが点いたので、誰かと思いましたわ」。
トニー:「君は里帰りしなかったのか?」
ヴェラ:「ちょっと、駅で気分が悪くなって・・・兄のヒューゴが、無理して付いて来なくていいと言われたの」。
トニー:「彼は、一人で実家に帰ったのか?」
ヴェラ:「えぇ、行きました」。
トニー:「それで、今の気分は、どうなの?」
ヴェラ:「少し休んでいたら、良くなりました。何かお作りしましょうか?」
トニー:「今日は、無理しなくていいよ」。
ヴェラ:「この部屋・・・何だか暑いですね。体が火照りそう・・・」。
ヴェラは、テーブルの上に太股の奥が見えるように座り、パンチラでトニーを挑発した。(映画ではそのシーンはないが、台詞で分かる)
トニー:「君のスカートは短か過ぎる!」
ヴェラ:「今は、これぐらいの丈は普通ですわ」。(イギリスはミニスカの発祥地)
トニーは、ヴェラの淫らな挑発と、己の欲望に負けてヴェラに抱きつき、深い仲になる。(私生活でも、この映画を製作している時は、サラ・マイルズとジェイムズ・フォックスは同棲していたらしい)
そして、淫らなヴェラの体に、トニーは夢中になっていく。これは、バレットが仕組んだ罠だった。これで、トニーは、恋人であるスーザンに対する愛が、半減されることになる。


数日後、バレットが帰って来た。
トニー:「お母さんの容体は?」
バレット:「ご心配をお掛けしました。回復しています」。
トニー:「良かった。ヴェラは気分が悪くなって帰って来たが?」
バレット:「駅で、顔色が悪かったので帰らせました。ご迷惑でしたか?」
トニー:「いや、ちっとも」。
バレット:「お役に立ちましたか?」
トニー:「何だと?」
バレットはニタッとして、「お食事の事ですよ。ヴェラは食事の用意をしましたか?」。
トニー:「昼食を作ってくれたよ。あっ、そうだ。酒屋へ行ってくれないか?ビールが飲みたいんだ」。
バレット:「ビールなら、買い置きが・・・」。
トニー:「知っている。黒ビールが飲みたいんだ」。
バレット:「かしこ参りました」。
バレットは、買物に出掛けた。
トニー:「ヴェラ、降りて来い」
ヴェラ:「兄は?」
トニー:「買物に行かせた。今のうちに、エッチしょう」。
ヴェラ:「もう、兄さんにばれても、私は恥ずかしくないわ」。


その夜、トニーは、いつものようにヴェラの寝室に行く。ところが、ヴェラのベッドには、先約のバレットが横になっていた。ヴェラは、二人の掛け持ちだ。
ヴェラは、トニーのノックを聞いて、ドア越しに下で待っていてと言って誤魔化す。
ヴェラは1階に降りると、
トニー:「兄さんは寝たのか?」
ヴェラ:「部屋の明かりは消えていたわ」。

ヴェラの虜になったトニーは、スーザンに連絡しなかったので、スーザンは怒っていた。スーザンは、トニーの家にセクシーなメイドのヴェラが居る事は知らない。電話が鳴った。
スーザン:「手紙、読んでくれた?今度、いつ会えるの?」
トニー:「ごめん、ごめん。ちょっと忙しいんだ」。
スーザン:「今から、行くわ」。



香水プンプンのスーザンがやってくる。
スーザン;「バレット、この花瓶に水を入れてきて」。
スーザン;「どう?この花キレイでしょ」。
バレット:「花瓶を替えた方が・・・」。
スーザン:「そう言うと思ってたわ。このクッションは?」。
バレット:「何とも言えません」。
スーザン:「本音を言っていい?あなたの感想なんてどうでもいいの。このソファー色彩感覚は何よ?」。
 バレット:「旦那様はご満足を・・・」。
スーザン:「あなたの狙いは、何なのよ?」。
バレット:「狙いって?・・・私はただの召使です」。

トニーはスーザンとの関係がぎくしゃくしてきたので、仲直りのため、夜にスーザンを呼びに車で迎えに行く。
スーザンを連れて帰ると、2階のトニーの部屋に明かりが灯っていた。
ドアを開けると、2階から下品な痴話が聞こえてきて、貴族出身のスーザンは凍り付いた。



ロージー監督が好きな、鏡の像を使った「切り返し」のカット。「エヴァの匂い」でも鏡が使われた。

トニーは慌てて、
トニー:「スーザン、外してくれ」。
スーザン;「なぜ?」
トニー:「バレット、降りて来い。説明してくれ。兄妹同士のセックスは、犯罪だぞ」。
バレット:「犯罪って?」
トニー:「ヴェラは、妹なんだろ?」
バレット:「妹ではありません。私とあなたは兄弟ですがね。どういうことか意味が分かる筈。あなたの寝室を使ったこと以外は悪いことをしていません。ヴェラは私の婚約者なんです」。
トニー:「何だと!」。




バレットは、ヴェラを呼ぶ。
バレット:「ヴェラ、降りといで。旦那様に秘密を話さなければ・・・お前から言うんだ」。
ヴェラ:「ヒューゴと私は結婚する予定です」。
トニー:「結婚する?バレットと」。
ヴェラ:「旦那様、私と充分に楽しんだでしょ。今更何よ。こんな関係は長続きしないわ」。
トニー:「二人とも出て行け!」
スーザンは呆れ、トニーに愛想が尽きてタクシーで帰った。

  

トニーは二兎を追って失敗したショックで、パブで酒浸りになり、お屋敷の部屋が散らかり放題になる。
ある日、バレットはパブで沈んでいるトニーを見つける。実は、クビになった後も、トニーの行動をウォッチング(観察)していたのだ。


バレットはトニーに近づいて謝る。
バレット:「・・・旦那様に会わせる顔がありません。
お屋敷に勤める前から、私はヴェラに夢中でした。二人で結婚資金も貯めました。ヴェラの父親から家庭内暴力に苦しむ彼女を助けたかった。
ヴェラの父から、結婚を承諾して貰うにはお金が必要でした。妹と偽ったのは、彼女の生活費を浮かす為だったのです。
ヴェラは誠実な女だと思っていました。あの夜まで、あなたとの関係を知りませんでした。
私と結婚する気なんか無かったのです。ヴェラは、私の金を持ち逃げして馬券屋と暮らしています。
・・・もう一度お世話させて下さい。私たちなら上手くやって行けます。今では、老婆の家で奴隷のように扱き使われています。
あなたを裏切ったのは認めます。でも、悪いのはヴェラです。ヴェラは二人を欺いた。どうか、もう一度、私をお側に・・・」と話す。これも、バレットの罠である。

トニーは、他人の世話で生きている人間なので、バレットがいないと、満足な生活ができない。
バレットの話を聞いて再び雇った。これが、トニーの運の尽きになってしまう。

バレットは久し振りにトニーのお屋敷に行った。床にはゴミが散乱し、使った食器や容器がダイニングルームに溢れていた。
トニー:「お前は召使なんだから、ここから何とかしろ」。
バレットは、トニーを主人だと思わなくなって、言葉遣いが粗くなり、「自分は散らかし放題で、掃除だけ人にやらせるのか?メイドを雇えよ。こんなに散らかっていては手の施しようがない。強力な電気掃除機があれば、真っ先に君を吸い取ってやる」と、本音を吐く。
トニー:「バレット、満ちて、すぐに欠けるものは何だと思う?」
バレット:「クイズなんか考えていないで、ちょっとは金稼ぎの仕事をしたらどうだ。物価が値上がりして、苦労して遣り繰りしても家計は苦しくなるばかりだ。まるで、他人事だな」。
トニー:「実は、近々人に会うんだ」
バレット:「ブラジルの奴か?そいつに会って、何の得があるんだ」。
トニー:「嫌みを言うな」。

翌日は、トニーの方が早く起きた。
トニー:「バレット起きろ!いつまで寝ているんだ?」
バレット:「何で?」
トニー:「応接間に紅茶の茶滓が・・・」。
バレット:「俺が零したんじゃない。やったのは君だろ。君が掃除しろ」。
トニー:「俺に掃除しろって、庶民のくせに偉そうに・・・俺をバカにするな。もう、酒は止めたんだ。力ずくでも掃除させるからな」。
バレット:「じゃ、その前に散歩でも行くか。君が酒を止めた?三日、持つかな?」。
トニー:「バレット、お前は召使だということを忘れるな」。
バレット:「じゃあ聞くが、この家を改装したのは誰なんだ?料理も洗濯も掃除も全部やっている。それも無報酬でな」。
トニー:「もちろん、そのことには僕だって感謝しているさ。君が出て行ったら困る」。

トニーの家に再就職したバレットは、だらしのないトニーに、知らず識らずの内に、家事の仕事(召使の仕事)を教え、実習訓練だと称して炊事、洗濯、掃除をサディスティックに命令し、主従の立場が逆転していく。酔い潰れた主人のトニーは土足で歩く廊下に寝込み、召使のバレットは羽布団のベッドで寝る。
トニー:「何で、俺がこんなことに・・・バレット、俺が主人だということを忘れるな」。
バレット:「私が、ここで無報酬で働いていることを忘れないで頂きたい。だから、君にも私の仕事を手伝う義務がある。言ったろう。二人で生活すれば、全てが上手く行くって」。
トニー:「そうだったよな」。


主人のトニーに作らせた料理を試食する召使のバレット

やがてバレットは、トニーを酒浸りにして、自宅に如何わしい女(娼婦)を数人呼んで、毎日、酒と女色に溺れさせ、主人をどんどん堕落させる。
バレットは、お屋敷の家事全般だけの仕事だけではなく、トニー家のマネージメントもバレットが仕切るようになった。主人を廃人にして家を乗っ取ったワケである。

ある日、スーザンがやってきた。
金欠になったヴェラが、トニーからクビにされたので、スーザンの家に「トニーからセクハラを受けた慰謝料」の督促に行ったらしい。
スーザンは、自分の顔を見ても反応しない、淫らな女に囲まれ酒に溺れたトニーの顔を見て、ショックを受ける。
スーザン:「トニー、ヴェラが来たのよ。あなたに貸しがあるって。ヴェラに慰謝料を払うべきよ」。
トニー:「何が貸しだ。嘘つきめ。その話の為に来たのか?ヴェラに構うな。もう、済んだことだ。君はこの家に来ない方がいい」。
スーザン:「私は、あなたを愛しているのよ。ここに居る女の人たちは誰なの?」。
トニー:「友達さ」。
スーザン:「トニー、私がきらいなの?私の何がダメなの?」


スーザンは体を張って、婚約者のトニーを連れ戻しにやって来たのだ。

重要なのは、バレットにマインドコントロールされて、召使に隷属されたトニーと、罠に嵌めたバレットの二人の仲を裂くことだった。
お高いスーザンは、婚約者のトニーをバレットに盗られた(男女の愛の強さよりも、男同士の同性愛の方が強かった)のが悔しく、トニーを連れて帰るために、トニーの前で、ヴェラのような淫らな女を演じて、憎らしいバレットに抱かれようとしたが、その魂胆はバレットに見透かされて、相手にされなかった。

スーザンにとっては、最悪の日になった。
如何わしい女がうろつくトニーのお屋敷で、貴族育ちの女性として、入り込む余地を無くしたスーザンは、バレットの頬を右手で一発、思い切り叩いて、去っていく。召使を侮る勿れ。

2013年5月15日 尾林 正利。

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