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ライアンの娘


(1970年公開)

Ryan's Daughter
Directed by Sir David Lean

第一次世界大戦中に起きたアラブ独立戦争の英雄、実在したT.E.ロレンスの功罪を描いた「アラビアのロレンス(1962年公開)」で、作品的にも興行的にも大成功を収めたデヴィッド・リーン監督は、1966年公開の、ロシア革命を背景に、医師のユーリー・ジバゴ(実はロシア詩人のボリス・パステルナーク)とユーリーの愛人ララ(実はボリスの恋人のオリガ・イビンスカヤ)の運命を描いた「ドクトル・ジバゴ」でも大成功した。

ハリウッドの映画界から、大作映画のヒットメーカーの巨匠として注目されて、1968年に巨額の製作予算(1500万ドル:当時は1ドル360円)を計上した次作製作のオファーが、アメリカのMGM社(Metro-Goldwyn-Mayer)から来ていた。
しかし、監督の頭にはドクトル・ジバゴの次に、どんなテーマの映画を作るかは迷っていた。

迷っていた理由の一つに、1963年に、20世紀フォックス社が4400万ドルの巨費を投じて製作した、エリザベス・テーラー主演の「クレオパトラ」が興行不振で転けて、ダリル・F・ザナックが経営する20世紀フォックス社が経営危機に見舞われたことだった。
クレオパトラ不振の窮地を救ったのは、ジュリー・アンドリュースが主演したミュージカル映画の「サウンド・オブ・ミュージック(1965年公開)」の各国での大ヒットだった。

デヴィッド・リーンという映画作家は、「旅情」以降の作品を観ると、民族独立戦争や革命運動によって、民衆を争乱に巻き込んだ不安定な世相を背景にして、他人にどう言われようとも、自分の生き方に信念を貫く人間をヒーローやヒロインにして描くのが好きな作家である。

デヴィッド・リーンと馬が合う脚本家のロバート・ボルトは、フランスの小説家ギュウスターヴ・フロベール(Gustave Flaubert)作のボヴァリー夫人(Madame BOVARY)を翻案して、ボヴァリー夫人こと、エマ・ボヴァリー役をボルトの妻で女優のサラ・マイルズに置き換えた不倫妻のシノプシス(台本の粗筋)を書いて、イタリアで休養中のデヴィッド・リーンにそれを送った。

デヴィッド・リーンは、ボルトの新しいシノプシスに、最初は興味が無かったらしいが、時代背景をアイルランドのイースター蜂起(1916年4月24日〜4月30日)前後の、アイルランド国民の反英感情がピークに達した時代背景に絡ませて、70mmキャメラで壮大な不倫映画を作ることで、二人の意見は一致し、映画の準備がスタートした。

ディレクターのデヴィッド・リーン、スクリーンライターのロバート・ボルト、キャメラディレクターのフレディー・ヤングの3人は、スコットランドとアイルランドの沿岸を観て回り、同じ宿に泊まって、映画の構想を1カ月間で練り上げた。

アイルランドはイギリス(グレート・ブリテン島)よりも雨の日が多いらしい。一日の天候が不安定で、北大西洋沿岸は、晴れたり曇ったり所によっては雨。アイルランド島はアイルランド共和国とイギリス領の北アイルランド王国を含めると、北海道ぐらいの大きさである。

この映画の最大のハイライト・シーンは、村人が総出で、猛烈な嵐が襲う大シケの浜辺で、難破した密輸船の積荷(武器)に銛を引っ掛けて、海上から回収するシーンだ。その嵐待ちのため、約1000名のエキストラを10日間も待機させたそうだ。日当と食費だけでも大変な金額になる。

ロケ場所は、アイルランド南西部のケリー州ディングル(Dingle)半島のダンキン(Dunquin)という村外れに、台本に書かれた「キラリー村」のオープンセットの石造りの住宅と石畳の道路が映画撮影用に建設された。
カメラの写らない所は手を抜く、ハリボテの住宅ではなく、部屋の中も撮るので、本格的な住宅の街並みや小学校校舎、英軍駐屯基地の兵舎などの施設を9カ月かけて建設されることになった。映画撮影後は保存されず解体され、ロケ地に石碑が建てられている。

そして、南アフリカのケープタウンの浜辺でも、ロケ撮影(夕陽のシーンや、マイケルと少佐が一緒に登場するシーン)が行われた。

この作品では、デヴィッド・リーンが初めて撮った、ヌードのラブシーンがある。
映画館の大スクリーンで観たラブシーン(森の中の撮影だが、アップは温室の中で撮影された)には、70mm映画の迫力があって、不倫妻ロージーと心に傷を負うランドルフの激しい愛欲を間接的に表現する、二本の草木が風で揺れて、粘液のような二本の糸が揺れるエロチックなシーンには監督のデリカシーなセンスを感じた。

因みに、可愛らしい顔で、色っぽい女優のサラ・マイルズは、濡れ場の演技が大胆で、ジョセフ・ロージーの「召使(1963年)」、M.アントニオーニの「欲望(1966年)」、ルイス・ジョン・カリーノの「午後の曳航(1976年)」、にも濡れ場を演じている。
サラ・マイルズは1970年度のアカデミー主演女優賞にノミネートされたが、惜しくもオスカー像を逃した。

ロージー・ライアンの夫になる、小学校教師のチャールズ・ショーネシー役に、ロバート・ミッチャムが好演している。
ロバート・ミッチャムは、元はプロボクサーで、腫れぼったい顔はボクシングの試合でパンチを浴びたもの。ニックネームは、Sleeping Eye(眠そうな目)。体格はマッチョな男で、マリリン・モンローと一緒に「帰らざる河(1954年)」に出演している。今回は、感情を抑えた渋めの演技が良い。

この映画で一番の名優は、ジョン・ミルズである。
ジョン・ミルズ本人は健常者なのだが、役作りで特殊メイクを施し、身体障害者をリアルに演じている。顔を特殊メイクで引きつらせ、擬歯を填めて、マイケルと言う、ろうあ者(言語障害者)の役をこなし、アカデミー助演男優賞を実力で獲得した。

コリンズ神父役には、アレック・ギネスが決まっていたが、台本に書かれた神父の演出が気に入らず降板し、トレヴァー・ハワードが熱演した。
彼はデヴィッド・リーン監督の「逢いびき」にも出演している。

ロージーの不倫の相手は、英軍駐屯地に赴任してきた戦争神経症という心の病に罹ったランドルフ・ドリアン少佐役に、クリストファー・ジョーンズが起用された。陰気な男を演じ、台詞が殆ど無い。

ところが、この映画は、試写会で名立たる映画評論家たちから酷評され、興行成績が心配されたが、監督の思い過ごしだった。
映画界を代表する、粗探しの批評家たちから、批判の毒矢が一斉に放たれ、巨匠が受けた毒矢の傷口が完治して、念願の「インドへの道(1984年)」を撮るまで、14年間の歳月が掛かった。

アイルランドやイギリスの人は、「ライアンの娘」を観て、どう思ったかは知らないが、ぼくは、理窟無しに素晴らしい映画だと思う。
MGMの重役は、試写を観た後で、米英関係に配慮して、英軍少佐の自殺を他の方法で死んだことにして、撮り直して欲しいと監督に頼んだが、巨匠は首を縦にふるようなことはしなかった。

主なキャスト

Rosy Ryan(ロージー・ライアン:歳の離れたチャールズと結婚するが、夫婦の営みが淡泊で満たされない愛欲に悩む)・・・Sarah Miles(サラ・マイルズ)
Charles Shaughnessy (チャールズ・ショーネシー:アイルランド寒村の小学校教師)・・・Robert Mitchum(ロバート・ミッチャム)
Thomas Ryan (トーマス・ライアン:ロージーの父親で、村人に言えない秘密を抱える)・・・Leo McKern(レオ・マッカーン)
Michael(マイケル:片足が不自由で言葉を喋れない障害者だが、村人が知らない真実を知る)・・・John Mills(ジョン・ミルズ)
Father Collins(コリンズ神父:ロージーの不倫を知って、ショーネシー夫婦を心配する)・・・Trevor Howard(トレヴァー・ハワード)
Major Randolph Doryan (ドリアン少佐;戦争で後遺症を患うが、愛欲に飢えたロージーと深い仲になる)・・・Christopher Jones(クリストファー・ジョーンズ)
Tim O'Leary(ティム・オレアリー:アイルランド独立運動の指導者)・・・Barry Foster(バリー・フォスター)
Moureen(モーリン:キラリー村の女番長で、お嬢様育ちのロージーを妬む)・・・Evin Crowley(エヴィン・クロゥリー)
Mrs.MaCadle(マカドール夫人 食料雑貨店の店長;英軍人と密通したロージーには売らない)・・・Marie Kean(マリー・ケーン)
Mr.MaCadle(マカドール主人 町の有力者で、ロージーを密告罪でリンチに掛ける)・・・Arthur O'Sullivan(アーサー・オサリヴァン)
村人・・・アイルランドのトラリー市に住む、凡そ1000人のジプシーたちが出演

主なスタッフ

製作:Anthony Haverlock-Allan(アンソニー・ハヴェロック・アラン)
監督:David Lean(デヴィッド・リーン)
脚本:Robert Bolt(ロバート・ボルト)
撮影:Freddie Young,B.S.C(フレディー・ヤング)
音楽:Maurice Jarre(モーリス・ジャール)
美術:Roy Walker(ロイ・ウォーカー)
編集:Norman Savege(ノーマン・サベージ)
衣裳:Jocelyn Rickards(ジョスリン・リッカーズ)
画面と色: SUPER PANAVISION70 アスペクト比1:2.2 撮影は65mmカメラで、70mm専用館以外の上映プリントは35mmフィルムに縮小プリント
製作配給会社:Metro-Goldwyn-Mayer DAVID LEAN'S Film
DVD製作・販売:ワーナー・ホーム・ビデオ

ストーリー(Overture〜前篇〜ENTR'ACTE〜後篇)

アイルランド島南西端ケリー州にあるディングル半島は、寒冷な荒れ地で、険しい断崖の下はコバルト・ブルーの北大西洋が拡がっている。
モーリス・ジャール作曲の美しいメロディーが風のように流れる中、 年頃の美しい娘、19歳のロージー・ライアンは、Slea Head(スレア岬)の突端で海を眺めていた。
ロージーが少女時代に憧れていた恩師のチャールズ先生が、首都ダブリンから帰ってくる日が近づいていた。



突風が吹いて、ロージーが持っていたお気に入りの日傘は、スレア岬の崖下に向かって飛ばされていく。
それを崖下の海上で拾ったのは、マイケルという片足が不自由で、さらに喋れないハンディキャップを負った男で、マイケルは不具をものともせず、ロージーに片思いの恋をしていた。好きだと口で言えないので、身振り手振りで意思表示するしかない。

この日のマイケルは、コリンズ神父と一緒に、手漕ぎのボートで漁に出掛け、大きなロブスターを捕まえ、傘を拾いに浜辺に降りてきたロージーにプレゼントしょうとするが、ロージーはマイケルが大嫌い。マイケルが拾った傘を礼も言わずに、「返してよ!」といって奪い取る。



その様子を見た、躾に厳しいコリンズ神父がロージーに注意する。
コリンズ神父:「そう、マイケルを邪険にするな。子供の頃はおんぶして貰ってたじゃないか?」
ロージー:「私の近くに寄ってくるのが、我慢にならないの。今の私は子供じゃないわ」。
コリンズ神父「ところで、今日は、粧し込んで何処にいくんだ?」
ロージー「読書よ」。
ロージーは神父に本をチラッと見せる。タイトルが「王様の愛人」だった。
コリンズ神父「お前の頭の中は、男しか考えてないんだろう。困ったもんだ」。

マイケルは、キラリー村(映画上の村名)の集落へ戻ると、ヒマな村人が表に出てきて、村の若者から一目置かれている女番長のモーリンにからかわれる。
ここの若者たちはマイケルの持ってきた大きなロブスターを取上げ、ロブスターを振り回して、集団でマイケルを苛める。

神父がやってきて皆逃げると、ハサミが取れた哀れなロブスターが道端に転がって死んでいた。
このように、映画の出だしは暗い。キラリー村(ディングル半島のダンキン)には、英軍駐屯地(映画上の設定)があって、反英感情が根強い住民の憂さ晴らしの矛先は、不具者のマイケルをからかうことだった。

コリンズ神父は教会の礼拝だけでなく、自主的に外出して、村人の不正な行為 (客引き売春など)を止めさせに行く、キラリー村の良識者で、神父に逆らう住民はいない。

この村で人が集まる場所は、パブのトーマス・ライアンの店だった。この店は、イギリス人にも酒を提供するパブだ。
神父は店内に入ってカウンター席に座る。カトリックの神父や聖職者は、妻帯を禁じられているが、適度な飲酒は認められている。

神父:「ここの若者は、どうなっているんだ?淫らな話はするし、弱い者いじめをするし」。
トーマス:「ここでは仕事が無いからだ。イギリスがアイルランドを骨抜きにしょうという魂胆さ。(ろくでなしが多いのは)狙い通りさ」。
神父:「お前の娘が、また浜にいたぞ。あの傘はいくらしたんだ?」
トーマス:「3ポンド6シリングだ」
神父:「君は、ロージーを甘やかし過ぎだ。早く堅気の男を見つけ、家を持たすことだ」。
トーマス:「うちのプリンセス(ロージー)は、ここの男などには、眼中に無い」。
神父:「いや、毎日、男のことばかり考えておる。頭の中の王子様は、酔っ払いより始末が悪い」。


一方のロージーは、恩師の帰郷の報せを聞いて、美しい砂浜を歩いてチャールズを迎えに行き、旧交を温める。チャールズは、小学生だったロージーが、美しい娘に成長していて驚く。
ロージーは、チャールズが赴任する校舎内で、愛を告白するのだった。


チャールズは、妻に先立たれて独身だった。
チャールズ:「ロージー、私を迎えに来たのは、開校の手伝いに来てくれたのか?そうなら、有難い。早速お湯を沸かして欲しい」。
ロージー:「先生に、お話があるの。私はここで勉強したけれど、もう、私は子供じゃないわ」。
チャールズ:「そうか、君が言おうとしていることは、察している。生徒が先生を好きになることは、よくあるケースだ。心の迷いだよ。安物の鏡を、太陽と思い込むようなもんだ」。
ロージー:「先生は、すぐにご自分を卑下なさる」。
チャールズ:「君は若くて貴い。中年の男が、その若さを奪うのは許されない。君のようなお嬢さんは、この村には向かない。私は田舎教師だ。釣り合う筈がない」。
ロージー:「先生は、何やかやと理由をつけて・・・結局、私の事が嫌いなのね」と泣いたフリをする。
チャールズ:「そんなことはない。君のような若くて美しい女性から告白されたら、男としてこれ以上の嬉しいものはない」と言って、ロージーを優しく抱きしめる。



チャールズは、妻のデボラに先立たれてやもめ暮らしが長い。再婚の意志はあるが、二回り(24年)近く歳の離れすぎた教え子との再婚には、世間体を考えて躊躇っていた。 でも、ロージーは読書好きで家事もこなし、村で一番の美貌なので、再婚を決意した。
キラリー村には、チャールズに比肩するような教養ある男が他に居らず、ダブリンでバレエやピアノを習ったロージーは、自分に相応しい配偶者はチャールズしかいないと思っていた。
二人は相思相愛で結婚するが、結婚式の初夜から二人は躓いた。



二人の新婚生活は始まるが、二人の住居は校舎に隣接していて、毎日が同じ生活リズムの繰り返しだった。
夫の趣味は、押し花とレコード鑑賞。 アイルランドの僻地でも、週末にはダンスパーティを主催するような華やかな生活を夢見ていたロージーは、子供たちが帰ると、夫以外に人の気配がなくて落ち込む。

しかも、夫の好きな音楽は、ベートーヴェンだけ。毎日、ジャジャジャ、ジャーンと、「運命」ばかり聴かさられていたらウンザリするだろう。

ロージーはチャールズとの結婚前に、コリンズ神父から「結婚とはなんぞや」を聞かされていた。
神父は、結婚の三つの義務を教えた。

「1、生涯、長い単調な日々も、暮らしが苦しい時も、お互いにいたわり合うこと。2、子供を産み、良い信徒に育て上げること。3、肉欲を満足させること。」と話すと、ロージーは、初めて聞く、肉欲を満足させる義務に目を輝かせて、

ロージー:「肉欲を満たすって・・・私は未だ未婚(カトリック信徒なので処女)だから、結婚が怖いわ」。
神父:「怖がることは無い。自然なことだ。女性経験のない男だって、実は怖いんだ」。
ロージー:「それで、人が変わるの?肉欲の満足で・・・」。
神父:「私には経験は無いが、別人になったりはせんさ」。
ロージー:「別人になりたい」。
神父:「こらこら、お前は、何を考えとる!」
結婚初夜から肉欲の満足に固執し、中年の夫に何度も夫婦の営みを求めたロージーは、草食男の夫との淡泊な性生活に悶々といていた。



結婚から暫く経って、結婚後のロージーが泣きながら浜を歩いているのを神父が見て心配になり、話を聞いてやる。

ロージー:「チャールズが、私に何を望んでいるのかが分からないの」。
神父:「ロージー、焦るな。夢を見るのは良いが、叶わぬ夢を育ててはいかん。身を滅ぼす」。



ある日、英軍駐屯地前で菜の花を摘んでいたマイケルは、一人の英軍将校がバスから降りて来たのを目撃する。
将校が左足を引き摺っていたので、足に障害を持つマイケルは、少佐に親近感を持つ。

将校の名前は、ランドルフ・ドリアン少佐で、1914年9月のマルヌの会戦でフランス軍を応援してドイツ軍と闘った。
仏独国境のマルヌ河を挟んでの塹壕戦だったので、ドイツ軍の砲撃が凄まじく、彼は右足の負傷と戦争神経症という、ケイレン発作の後遺症が残ったまま、任務の軽いアイルランドのケリー州の駐屯地へ転属された。
彼には美人の妻は居るが、実家に残したままだ。

ある日、ロージーは、馬の競りに出掛けた父に頼まれて、父のトーマスが経営するパブの留守番をしていた。
店にはマイケルも居たが、そこへ見知らぬドリアン少佐が、基地から徒歩で一杯飲みにやってきた。

当時のアイルランド国内では、反英的な人が多くて、外出するときは安心なパブで飲みたい。
英軍基地内のバーでも酒は飲めるが、ドリアン少佐には、医師から「毎日8km歩け」と、リハビリのトレーニングを命じられていた。
キラリー村の英軍駐屯地とトーマス・ライアンの居酒屋(階下には、アイルランド警官が常駐)の地下にある電話が、交換手不要の直通電話で繋がっていて、ドリアン少佐はトムのパブなら安心して飲めることを前任者から聞いていたからである。
それと、キラリー村の集落には、頑固な神父がいて売春を禁じ、「遊べる女」がいないと言う情報も知っていた・・・。



ランドルフは、パブに可愛くて美しいロージーが働いていて驚く。ロージーも、若くてハンサムな将校に一目惚れ。
ランドルフは、アイリッシュウィスキーの水割りを注文して、カウンター席で立って飲んでいると、何を思ったのか、マイケルが床を蹴りだし、その音が、ドイツ軍の爆撃音に変わり、戦争神経症に罹った少佐はケイレンの発作が出て床に崩れる。

マイケルが店を飛び出して音が止むと、ランドルフはロージーに優しく看護されているのに気付き、肉欲に飢えていた二人は、力を込めて抱擁し、激しいキスを交わす。しかし、真っ昼間の営業中のパブなので、ロージーは少佐に名前と住所を伝え、再会を約束する。少佐が帰ろうとすると、ロージーの父のトーマスが競り落とした馬を連れて戻ってきた。


ロージーのパパ、トーマス・ライアンは、ドリアン大佐を歓迎する。
トーマス:「初めまして、あなたが新しく赴任されたドリアン少佐ですか?これからも、よろしく。ウチの店はイギリス人O Kです。早速ですが、私が競り落とした馬を見て貰いますか?」
ドリアン少佐:「なかなか良い馬ですね」。

ロージーとランドルフの最初の密会は、数日後の夕方だった。若くてハンサムなランドルフに、強く抱きしめられた感触と、夫には無い、激しいキスが、体に記憶し、今夜も体が火照って落ち着かないロージーは、執務中のチャールズに気付かれないように、自宅の塀の向こうで待っているランドルフに会いに行く。
ロージーの自宅の庭には、満開の白ユリが群生していて、二人はデートの日時を決める。印象的なシーンである。
チャールズは、ロージーのガウンにユリの花粉が付いていたのを見つけ、「外に出てたのか?」と訊いた。
ロージーは、「本を読んでいたので、気分転換よ」と、言ってごまかす。



父のトムは、娘の誕生日祝いに、競り落とした馬を贈った。
ランドルフも褒めた馬で、彼と一緒に遠乗りが出来る。人目のつかない所へ・・・。
ロージーはランドルフが休みになる日に、自宅の近くにある灯台下で待ち合わせをして、一緒に美しい森へ遠乗りを楽しむ。
そして白昼の森の中で馬から降りて、二人は草むらをベッドにして、陽が傾くまで全裸で激しく愛し合った。

乗馬で外出したロージーの服が土で汚れているので、
チャールズが「どうした?」と訊く。
ロージー:「馬が倒れて転んだの。そこへ通り掛かったドリアン少佐に助けて貰ったの」と、尤もらしい言い逃れをする。
チャールズ:「馬が倒れた。あの馬は未だ調教が充分ではない。ロージー、怪我は大丈夫か?」
ロージー:「心配しないで。歩けるから」。
チャールズ:「馬の方は、どうなんだ?」
ロージー:「少佐が起こしてくれたの」。
チャールズは妻のウソに直ぐに気付いた。足の悪い少佐が、400〜500キロの馬体を起こせるワケがない。
チャールズは、最近のロージーがソワソワしているので、男の影がちらついていたが、証拠を掴むまで口に出すのを我慢することにした。
ここで前篇が終わる。

ENTR'ACTE

後篇の始まりは、遠浅の海岸の砂浜に穏やかな波が打ち寄せている美しいシーンから始まる。
チャールズは、30数名の生徒を引率して、海岸で貝拾いの校外実習に来ていた。
そこの浜辺には、男と女が歩いた靴の足跡がくっきりと残っていた。
チャールズは、授業そっちのけで、足跡を追っていく。
そして、チャールズの目の前を、粧し込んだロージーと正装のドリアン少佐が腕を組んで歩く姿を妄想する。巻き貝を拾った場所も分かってしまう。
このシーンは、妄想の世界と現実の世界を一つの画面で表現した、新しい映画手法であった。

チャールズは、渚に付いた足跡を辿っていくと、洞窟に導かれていた。

常にロージーの近くにいたいマイケルも、少佐とロージーが入っていた洞窟の中を見ており、後から洞窟の中に入って、少佐の制服から千切れたボタンを拾って、英軍少佐の階級章と組み合わせて胸に付け、村人に見せつけに行く。




集まってきた村人が、「マイケル少佐」、「マイケル少佐」と、囃し立てていでいると、それを見た神父は不吉なことを予感する。

そこへ、遠乗り帰途中のロージーが、一騎で通り、マイケルは、ロージーの馬を停めて、胸に付けた少佐のバッジをアピールした。
ロージーはむかついて村人の前でマイケルを叱ったので、アイルランドの人妻ロージーと英少佐の不倫関係が村人に疑われ、非国民にされてしまう。

カトリックの戒律が禁じる不倫云々よりも、アイルランド女性が英軍人と深い関係になるなんて、許せない事だと云われた時代だったのだ。

神父は怒って、ロージーの家に行く。
神父:「聞こう。どういうことなんだ」。
ロージー:「ドリアン少佐と遠乗りよ」。
神父:「言語道断だ。君はアイルランド人で、しかも人妻だぞ。チャールズは、知っているのか?彼は、君の言いなりだ。それほど、お前を愛しとる。それで、少佐との関係は?」。
ロージー:「何もありません」。
神父:「ワシの顔をよく見ろ。何て、酷い顔なんだ。ここで言えないのなら、懺悔室で聞いてやる」。
ロージー:「懺悔するようなことをしていません」。
神父:「お前は、駄駄っ児だ」。

さて、この映画の最大のクライマックスが訪れる。嵐のシーンである。嵐の海の撮影は、特撮を得意とするセカンドチームが担当した。
アイルランドの僻地、ディングル半島には緊張感が漂っていた。
それは、アイルランド独立の指導者ティム・オレアリー(映画上の人物)が武装蜂起の為、同志と一緒にキラリー村のライアンのパブに戻って来たのだ。



オレアリーの同志が、ドイツから最新式の武器弾薬を手に入れ、密輸船でディングル半島の入り江に運び、陸揚げしてトラックで、ダブリンのアジトまで輸送するという計画が進められていたが、荷下ろしする前夜は、海上は大シケで、降ろした積み荷の一部は荒海に流された。
この武器輸送作戦の本部は、パブ(居酒屋)をやっているライアンの店の地下室だが、ここには英軍駐屯地と連絡しあうアイルランドの警官の駐在所になっていて、オレアリーたちは警官を縛って拘束する。


ライアンも荷揚げ作戦に関わる。
オレアリー;「この嵐では夜に積荷を回収するのは危険なので、明日の早朝からの引き揚げ作業にする。それまで休もう」。
ライアン:「積荷が岸に流れ着いてない場合はどうする?」
オレアリー;「1時間探しても見つからない場合は我々は引き揚げる。ライアン、お前はトラック一台と屈強な男12名を手配しろ」。
ライアン:「はいっ、閣下」。
オレアリー;「それから、お前は、ここの電話線をすぐに切断しろ」。

大シケでも、一部の積荷が海岸近くに岩場に打ち上げられているものもあり、凡そ千人の村人が日の出の早朝から総出で積荷の回収作業を手伝った。

英軍からお尋ね者オレアリーは、武器弾薬の荷揚げに無報酬で協力した村人に感激した。
ライアンはトラックを用意して、引き揚げた積荷をトラックで運送し、弾除けの村民(英軍は村民には発砲しない約束をしていた)に囲まれてキラリーの集落へ向かったが、途中でドリアン少佐が率いる英軍が機関銃を構えて、道路を封鎖していた。

オレアリーは、「俺は逃げるから後を頼む」と部下に頼み、車から降りて村人の中に紛れ込んで逃走する。
ドリアン少佐は、トラックの屋根に上ってライフル銃でオレアリーを撃ち倒すが、持病の発作が来て体が震える。
村人の中にいたロージーは、少佐のケイレンを介抱したことを思い出して、ドリアン少佐に近づく。

村人は一斉に、ロージーにブーイング。
住民の怒りは、アイルランドの英雄を撃ったドリアン少佐と、オレアリーの計画を密告したという疑いが、不倫女のロージーに向けられた。

(※ドリアン少佐に密告したのは、実はトーマス・ライアンだったのだ。彼は英軍駐屯地に、積荷の運搬日時を電話連絡してから、電話線を切断した)

ロージーとドリアン少佐の恋はますますヒートアップして、ロージーが夜中にベッドから抜け出して会うことが続いて、チャールズは、素肌が透けるネグリジェ姿のロージーが、少佐と抱擁してキスをしているのを目撃して、別れることを決心する。

ロージーが夜明け前に自宅へ帰ると、家を出る前に隣で寝ていたチャールズは居なかった。
生徒が登校してきたので、ロージーがチャールズに代わって教壇に立つが、生徒たちは帰宅しはじめる。父兄から、ロージーとは口を利くなと言われたからである。
チャールズが授業に出ない情報は、神父にも伝わった。

神父:「チャールズが居ないって、いつからだ?」
ロージー:「昨晩よ。帰ってきたら、居なかったの」。
神父:「どこに、行ってたんだ。・・・少佐のところか?困った奴だ」。
ロージー「パジャマだけで。出て行ったみたいだわ」。
神父:「上着と靴を持ってこい。わしが届けてやる」。

神父の親切で、自宅に帰ったチャールズは、ロージーの前で、
「君に言うべきか、どうか迷った。口に出せば余計辛い。君らの恋の炎が燃え尽きれば、君は戻ると思った。でも戻らなかった。二人の結婚は、初めから無理だった。別れよう」と話した。

ロージーと別れ話している最中に、学校の窓ガラスが割られる。
憎らしいロージーをリンチしに、村人が大勢やってきて、ロージーが逃げないように学校の出入口を固める。

村の有力者マカドール:「ロージー、お前は英軍少佐に密通し、オレアリーの計画を密告した。よって、有罪の刑が決まった」。
ロージー:「私は、密告なんかしてないわ」。
女番長のモーリン;「まぁ、白々しい。とぼけちゃってさ。男なら、アンタは銃殺刑だわ」。
チャールズ:「有罪の刑って、何の事だ?」
マカドール:「君は、おめでたい男だ。ワイフがイギリス軍人と密通しているのに、気付かない。あの朝、誰かがオレアリーを英軍兵舎に密告した。君の家が兵舎に一番近い」。
チャールズ:「密告する積もりなら、誰でもできた」。
マカドール:「その時間は、村人は全員、浜にいて荷揚げを手伝っていた。モーリン、ロージーを押さえつけろ」。




村人はロージーの服を荒っぽく脱がせる。それを必死に止めるチャールズは大勢の男から袋叩きにされる。父のトーマスは、愛娘と教師の夫チャールズがリンチ(法に基づかない私的制裁)されるのを見ておられない。

マカドール夫人は、ロージーの美しい髪を植木ハサミで虎刈りにする。モーリンは、憎らしいロージーの左頬に引っ掻いた爪痕を付ける。
そこへ、神父がやってくる。神父が大声で「やめろ」と、叫ぶと、皆、帰っていった。

一方の、ドリアン少佐は、海岸に流れ着いた武器弾薬捜索で部下らと一緒に浜辺に来ていた。
仕事が終って、部下が浜から引き揚げた後に、マイケルが近づき、彼が集めた武器コレクションを見た。最新のドイツ爆薬だった。

でも、もう武器には興味が無い。マイケルが持っていた信管の一本を鉄板に向けて投げると爆発し、マイケルは怖くなって逃走した。
ドリアン少佐は、死と隣り合わせの激戦に疲れ果て、重度障害の後遺症が残った。また、軍人としての職務から隣国の英雄を撃ったことで村人から殺人犯として憎まれ、愛するロージーからも別れを告げられ、生きる気力を無くしていた。
美しい夕陽が水平線に沈むと、かって、ロージーと少佐が浜辺でデートした方角から、家が揺れるような爆発音が轟いた。

その夜、二人は暖炉の前で語り合った。
ロージー:「あの人たち、私が本当に密告したと思っているわ」。
チャールズ:「ロージー、誰も密告なんかしてないよ。だだ、キラリーの人たちは、そう思いたいんだよ。そして、君を犯人にしたいだけだ。 本当はお嬢様育ちの君が妬ましいんだ。そして、私を侮る気持ちもある。連中に負けてたまるか。一緒に毅然として村を出て行こう」。

翌朝、短い期間だったが、二人は故郷を去る。
コリンズ神父とマイケル、その後をロージーとチャールズが、仲の良い夫婦であったことを装うため、腕を組んで歩いていく。



4人が通り過ぎると、各家の扉が開いて、ロージーとチャールズを見送る。「二度と、戻ってくるな」の怒号が飛び交う。
ロージーは、父の店に立ち寄って、最後の別れをする。
トーマス(父);「ロージー、ワシは二人の結婚には反対だった。でも、今は違うって、チャールズに伝えてくれ。男同士では言い難い」。
ロージー:「分かった。新しい住所が決まったら、手紙を出すわ」。

バスに乗る前、ロージーの帽子が風に飛ばされる。この映画のプロローグで、風に飛ばされた傘のように・・・マイケルの方に花飾りの帽子が飛んだ。 マイケルは、虎刈りになったロージーのヘヤースタイルを見て驚く。

そして、ロージーは、あんなに嫌っていたマイケルの頬に"さよなら”のキスをした。 マイケルは、大人になったロージーから初めて頬にキスして貰った。マイケルの頬に涙が流れ落ちる。

神父:「ダブリンで住む所は、このご婦人のところへ行け。部屋は清潔だし部屋代も安い。二人で週6シリングは、ダブリンでも安い」。
ロージーはチラッとチャールズの顔を窺った。「助かりますわ」。神父の紹介状を手にしたロージーは、先にバスへ乗り込む。
神父:「チャールズ、ロージーと別れるつもりか?・・・だが、私には疑問だ。その疑問が餞(はなむけ)だよ」。 二人を乗せたバスは次第に遠ざかっていく。

二人の将来は、どうなるのか?そのヒントは、下記にある。

最後に、ロージーを演じた女優、サラ・マイルズ(今年72歳で、この映画の脚本を書いた故ロバート・ボルトと二回結婚した妻)のコメントによると、
「私が演じたロージーは、普通の女の子だと思うわ。でも、自分の現状に満足出来なくて、持てる以上のものを欲しがっているの。これは、夢と幻想の物語で、 この作品を観た人に、目の前にある(等身大の)幸せを気付かせる映画なの」。

THE END

2013年5月1日 尾林 正利

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