mail
Home Photo_essay Camera Photography sketch_osaka shigoto blog
 
お好きなムービーのボタンをプッシュ!
 
 

          
          

ヘッドライト

          

フランスのセルジュ・グルッサールの小説「しがない人々」をフランスで1955年に映画化.
日本では1956年に公開

          

DES GENS SANS IMPORTANCE
Un film de Henri Verneuil

          

原題のDES GENS SANS IMPORTANCE(フランス語)とは、
和訳すると、「しがない人々」になっているそうだが、昔も今も日本では「しがない」という言葉をあまり使わない。
しがないというのは、"シガー(シガレット)が無い"、つまり、煙草銭にも不自由してタバコを吸えず、親しい同僚に「タバコない?」って、いつも、シケモクをねだるような、大物にはなれそうにない人を表す言葉だと、ぼくはそのように解釈していたが、ま、それと似たような意味のようだ。

「ヘッドライト(しがない人々)」に登場する、ジャン・ヴィアールという初老の男は、5人家族の所帯持ちで、それなりの生活費が掛かるものの、仕事が安定した運送会社に勤め、給料がちょっと高い長距離定期便のトラックドライバーという定職に就いており、煙草銭にも不自由して同僚にシケモクをねだるような、しけた男ではない。

ジャンは根の優しい、気の利く男なので、後輩のドライバー仲間から尊敬されているのだが、長距離定期便のトラックドライバーの仕事は夜勤が当たり前で、泊まりの仕事が多く、家族サービスをおざなりになりがちだ。
だから、深夜に仕事する朝帰りの夫に、妻のソランジュは夫婦らしい生活のないのが不満で、自宅に帰った日には、妻と口喧嘩をすることが多くなったことから、ジャンは、馴染みのドライブインで見初めた若いウェイトレスのクロチルドとの「老いらくの恋」にはまってしまう。敢えて小説や映画に取り上げるほどでもない、よくある話だ。

もう一人の主要登場人物のクロチルドは、15才の時に両親が離婚し、2年後に母が再婚して17才で実家を追い出された。
身勝手な母親のもとで育ったせいで、気丈そうに見えるクロチルドは、実は寂しがりやで、自分に親切な人に依頼心が強く、その内に周囲の人間関係に翻弄されて、唯一の財産はスーツケース1個とハンドバックが一つだけ。それを持ち歩いて住所不定の行き当たりばったりの人生を送る。ジャンは、そんなクロチルドに同情して世話を焼いている内に深い関係になるワケだ。

ジャンは、やがて浮気がばれて、まだ幼児(おさなご)がいるのに、家族と離別する。凡そ三十才も離れた女に恋した"クレイジーな男"?は、勤めていた会社もクビになり、一緒に暮らそうと約束したクロチルドは、働き出したのは良いが、妊娠したのが雇用主に判って、解雇されそうになったので堕胎手術を受け、それが原因で衰弱死・・・。

人生って、一旦、落ち目になると、不運が連鎖して重なるものだ。
今日もどこかで、この映画のような新聞の三面記事にも載らないような、敢えてニュースとして、取り上げるほどでもない悲劇が、毎日どこかで起きている。
誰でも、長い人生のどこかで二度や三度は、バカなことをして反省するが、時が経つと人はすぐ忘れるから、また同じような過ちを繰り返す・・・これも人生。

「ヘッドライト」は、フランスのセルジュ・グルッサールの原作「しがない人々」を映画化したもので、「禁じられた遊び」の台詞(セリフ)を担当したフランソワ・ボワイエが、今作では脚本(シナリオ)と台詞を書き、監督のアンリ・ベルヌイユも脚本を共同執筆して、1955年にフランスで製作・公開されたが、日本では1956年に公開された。

なお、1986年に東映がセルジュ・グルッサールの原作の「しがない人々」の映画化権を取得し、何と、イタリアの名作にあやかって「道」という題名を付けて、「ヘッドライト」のリメイク版を日本で製作・公開しているらしいが、それは観ていない。

1956年、まだ空襲の痕跡が大都市の所々に残る敗戦色の拭えない日本で、「しがない人々」というような、後ろ向きなタイトルを付けたら、誰も映画館にやって来ないので、「ヘッドライト」という原作からかけ離れた、ハイカラな題名が付けられたが、DVD化された映画を見終わった印象では、的外れではなく、ドラマにピッタリ合った良い題名だと思う。

ぼくが、この映画を知ったのは中学生の頃で、馴染みの散髪屋さんに洋画が中心の映画雑誌も置いてあって、映画好きなぼくは、順番待ちの退屈凌ぎで映画雑誌をパラパラと捲って、「ヘッドライト」という映画のフォトジェニックなモノクロのワンシーンが載っていたのを観て、強烈な印象に残っている。

でも、その頃のぼくは12歳で、中学生になったばかりで、夫の不倫で妻が悲しむメロドラマとか、激しい恋愛の映画を観たくなるほど増せていなかったので、内外の恋愛映画やメロドラマ映画をスルーしていた。高校生ぐらいに「ヘッドライト」のようなフランスの恋愛映画を沢山観ておれば、・・・女性に対して、もう少し積極的な男になっていたかも知れない。

この映画は、長距離輸送の定期便トラックがメインで登場する。
現在では、日本でもトラック輸送の会社は全国に沢山あって、全日本トラック協会という社団法人があるほど、メジャーな職業になっている。個人的にも引越の時や物品の配達を電話でお願いすることが多い。

この映画が作られた時代のトラック輸送は、第二次世界大戦の戦後間もない頃の設定なので、現在と比べて、トラックの性能が劣り、運送中にエンストのトラブルもあって、トラックドライバーは、単にトラックの運転だけではなく、クルマの異常(クラッチの滑りとか、ブレーキ摩耗が原因の鳴り、ラジエーターの冷却水の沸騰、燃料噴射装置の異常、バッテリー上がり、タイヤのパンクなど)を早期発見する能力と、道具を使って応急修理ができる簡単な自動車整備士の技術も必要だった。因みにぼくが自分でできるのは、バッテリーの交換と、タイヤの交換、タイヤチェーンの装着ぐらいだ。

夜のパリで荷主から預かった大切な荷物を大型トラックに積み込み、パリから南西の大西洋岸にあるボルドー港まで、フランス国道A10号線経由で、片道凡そ700kmを12時間かけて徹夜で走ることが、プロのトラックドライバー、ジャン・ヴィアール(ジャン・ギャバン)の仕事で、彼の目は夜に光る。

クルマの長距離運転で疲れやすいのは、両目と両足で、膝から下の関節に疲れが来る。また、ハンドル操作で両肩も凝る。運転中の睡気覚ましには、ブラックコーヒーがベストだが、ロッテのブラックガムも重宝する。かなり前に、オールPという睡気覚ましのドリンクがあったが、クスリの効き目が切れた途端に、睡眠薬になってしまって、車を空き地に停めて朝まで寝てしまったことがある。
とくに、ディーゼルエンジンの大型トラックは、オートマ車が無いので、クラッチペダルを踏んでギアチェンジする。

徹夜で長時間連続で運転すると、夜が白む朝方は、目が疲れてショボ付き、両膝は三つのペダル操作(アクセル、ブレーキ、クラッチ)で、運転席を降りても、自分の体がチャップリンのモダンタイムスのように、両足もディーゼリング(※2)状態になって、ガクガク震える。

数年前まで、一日に700Km(大阪市〜九州の佐賀市)ぐらいの運転は平ちゃらだった。昨今は過労運転は交通違反なので、無理をしなくなったが、長距離を運転するトラックには交代ドライバーと一緒に乗務し、スピードが出せる真夜中に、運転を交代しながら国道を走るのだ。

(※2:ディーゼリングとは、トラックのエンジンキーを抜いてもエンジンがしばらく回転する現象で、最近ではディーゼルエンジンが改良されてディーゼリング現象が起きないようになった)

真夜中に働く男達をシンボライズしているのが、トラックのヘッドライトなのだ。
暗闇を切り裂くヘッドライトのハイ・ビーム・・・一般の人が気にしない孤独な光だ。
歴史は夜に作られる・・・まさにその通りで、殆どの人々が寝静まった深夜に、名を知られぬ人々が夜を徹して一生懸命働いておられるお陰で、我々にとっては便利な社会が成り立っているのを忘れてはならない。

主なキャスト

ジャン・ヴィアール(長距離定期便トラックのドライバー)・・・JEAN GABIN(ジャン・ギャバン)
クロチルド(ドライブインのラ・キャラバンで働く二十歳のウェイトレス)・・・FRANÇOIS ARNOUR(フランソワーズ・アルヌール)
ベルティ(ジャンの相棒で、アシスタントドライバー)・・・Pierre Mondy(ピエール・モンディ)
ソランジュ・ヴィアール(ジャンの妻、3人の子供がいる)・・・Yvette Etiévant(イヴェット・エティエヴァン)
エミール(ドライブインのラ・キャラバン支配人)・・・Paul Frankeur(ポール・フランカール)
ヴァコー夫人(ラブホテル経営の女将・ヴァコプーロス)・・・Lila Kedrova(リラ・ケトロヴァ)
ジャクリーヌ・ヴィアール(ジャンの17才のお転婆娘)・・・Dany Carrel(ダニー・カレル)

主なスタッフ

監督:HENRI VERNEUIL (アンリ・ヴェルヌイユ)
脚本:HENRI VERNEUIL,FRANÇOIS BOYER(アンリ・ヴェルヌイユとフランソワ・ボワイエ)
台詞:FRANÇOIS BOYER (フランソワ・ボワイエ)
原作:SERGE GROUSSARD(セルジュ・グルッサール)
撮影:LOUIS PAGE(ルイ・パージェ)
音楽:JOSEPH KOSMA(ジョゼフ・コスマ)
美術:ROBERT CLAVEL(ロベール・クラベル)
編集:CHRIETIAN GAUDIN(クリスチャン・ゴーダン)
製作:GEORGES CHARLOT(ジョルジュ・シャルロ)
製作会社:COCINOR
     CHAILLOT FILMS,ARDENNES-FILMS de René Lafuite
製作年と製作国:1955年、フランス
画面サイズ:スタンダード(4:3)、カラー:モノクロ(DVD版はデジタル・リマスター仕上げで画質良し)
日本版DVD製作・発売:株式会社 IMAGICA TV:DVD販売:紀伊國屋書店

ストーリー

時は、1945年〜1950年頃のアメリカ軍がフランスに進駐していた頃のドラマである。
原作は実話ではないようだが、トラック輸送業界の様子(トラックにタコグラフという運行記録計の取付義務やトラック業界の懇親会パーティなど)がリアルに描かれて、トラック協会の広報関係の仕事を一時期に関わっていたぼくも、「ヘッドライト」のリアリズムに、引き込まれた。

因みにぼくは、普通自動車の運転免許証を取得しているが、前回の免許更新で、昨今の法改正により普通免許で8トンの中型トラックまで運転できるようになったが、8トン車のトラックを運転した経験はない。この業界の要望で、少子高齢化によって若年層のドライバーが不足しており、普通自動車の運転免許証でも、中型トラックを運転できるように規制緩和したのだろうと思う。ま、この映画には関係のない無駄話だが...。
この映画を製作した時代の証拠映像として、蒸気機関車が煙を吐いてパリの街中を走っているシーンが3回ほど効果的にインサートされている。

           
           

           

上のシーンは、フランスの大西洋沿岸にあるボルドー港から内陸にある、映画上のドライブイン「ラ・キャラバン」。
フランス国道のA10号線に面した、ガソリンスタンドを兼ねた仮眠宿付きのレストランで、トラックドライバーの休憩所になっている。

フランスワインの産地・ボルドー (Bordeaux)港から60 kmも北東に離れた田舎の、フランス国道A10号線沿いに、広大な平原の中に一軒の「ラ・キャラバン」という簡易宿泊所とガソリンスタンドを兼ねた、30名ぐらいが食事できるドライブイン・レストランがある。
料理に出す野菜は店の裏の畑で栽培し、料理に使うウサギや鶏などは店の裏の小屋で飼っている。日本ではウサギを食べる習慣は街の中ではないが、パリの市場では丸ごと売られている。ぼくも、パリのレストランで、ウサギの肉を食べたかも知れない。

トラックドライバー達に人気のあるドライブインは、料理が安くて、ボリュームがあって、おいしい、というのが、どの国でも共通しているようだ。

「ラ・キャラバン」のオーナーであるエミールは、ジャンと仲良しの右足に義足を履いた熟年の男で、コックやウェイトレスを雇って、店を切り盛りしている。
田舎にしては、かなり繁盛している店である。

ところが、大都市のボルドーから60 kmも離れた、店の周りが野原の田舎なので、雇ったウェイトレスは、客層が所帯持ちの中年男のトラックドライバーばかりなので、恋愛の対象にはならず、仕事が1ヶ月も続かない。雇ったウェイトレスが次々に辞めていく・・・これが店主の頭痛の種になっていた。

今日はクリスマスの日だ。エミールが雇った新人のウェイトレスが、スポーツカーに乗ったイケメンの若い米兵に、クリスマスのダンスパーティに誘われて駆け落ち、ガソリン代と一緒に未払いのまま、国道の彼方に連れ去られてしまう有様・・・頭にきたエミールは、警察に電話して「誘拐事件」として、捜査を頼み込む。

そんな、店がザワザワした中に、熟年のトラックドライバーのジャン・ヴィアール(ジャン・ギャバン)は、長距離運転で疲れた体を休めるために、「ラ・キャラバン」の駐車場に大型トラックを停め、2階にある個室の仮眠室に入ってベッドに潜り込んで体を休める。
だが、今夜のジャンは、寝付かれない・・・脳裏には、2年前のクリスマスの夜にあった出来事をベッドの中で思い出すのだった 。

           
           

           

仮眠室で思い出す人生...
ドライブイン「ラ・キャラバン」のベッドで、2年前のクリスマスの夜の出来事を回想する、トラックドライバーの、ジャン・ヴィアール(ジャン・ギャバン)。

ジャンの仕事は、相棒のベルティと一緒に、パリ市内のO.G.T.という運送会社の本店から荷物を満載して、ボルドー港の船着き場まで、国道10号線で凡そ700kmを走り、さらにボルドー港で陸揚げされた荷物を満載してパリへ戻り、又700kmのトンボ返り。一往復で1400〜1500キロぐらいは走る。
当時は高速道路が無いので、昼間の国道は渋滞するので、いつも道路の空いた深夜に走るワケだ。ジャンは、5人家族の所帯主で間もなく50歳になる熟年だ。深夜1時からの運転前に途中で一時仮眠するため、給油と仮眠と食事ができる「ラ・キャラバン」を定宿(じょうやど)にしていた。

ジャンは、ボルドーからのパリ行きの帰りで積荷が少ない場合は、荷物が溜まるまで、ボルドー〜バイヨンヌの往復輸送を命じられる事もあって、帰宅しない日が多い。だから、 自宅に帰ればクタクタに疲れ果て、家族との会話のコミュニケーションが図れず、次第に孤立し、妻のソランジュとは些細なことで口喧嘩するようになり、何時の間にか月給配達人扱いにされてしまった。ジャンも現状の冷え切った家庭生活に不満が募って行く。

           
 
  

朝帰り...長距離定期便トラックドライバーの宿命か?
パリ〜ボルドー〜パリの間を往復1500kmを運転し、朝帰りのジャン。家に帰れば、普通のサラリーマンが出勤する時間にベッドに入り、普通のサラリーマンが帰宅する時間に、ジャンは運送会社に出勤し、溜まった荷物をトラックに積み込みボルドー港に向かう。

その内に妻のソランジュは、夫が帰る日時を知っているのに食事を作らなくなった。
というのは、その日はたまたまクリスマスの日で、ジャンがサンタクロースの格好をして、幼い次男にクリスマスプレゼントを渡すことになっていて、ソランジュはサンタクロースの衣裳とお面を次男に見つからないようにダイニングルームで仕上げていたのだ。

食事の支度がまだで、腹を空かしたジャンはブツブツ独り言を言いながら、自分で食器棚からバゲット(baguette:70cmぐらいの棒状のフランスパン)を取り出し、ナイフで長いパンを3分の1ぐらいにカットし、サンドイッチ状に切り目を入れてパテ(練ったコンビーフのようなもの)を塗り、テーブルに上にワインとワイングラスを置くと、ようやくソランジュは赤ワインを注ぎ、ジャンは一人で侘びしい食事を取る。フランスの一般家庭では、日本よりも食事が質素なようだ。

パリに住む庶民的なフランス人は、家庭でフランス料理を食べていないと思う。
理由は、古いアパートでは、台所(キッチン)が狭くて、主婦にとっては、食事の準備をしたり、料理を数種類も作ったり、油モンの食器やフライパンを洗ったり、後片付けするのが面倒臭いから。
給料日でお金が入った日に、ちゃんとしたフランス料理を食べたい時は、家族揃ってこぎれいな服を着てレストランへ行く。

そのうちに、17歳の娘・ジャクリーヌが女優になりたくて、父親に内緒でオーディションを受けてCMの出演が決まり、娘をスカウトした男と朝帰りの夜遊びをするようになり・・・アパートの一階入口でジャクリーヌがその男とキスしているのを2階の自室から見る。

それを事後報告として妻と娘から聞かされたジャンは、父親としての威厳に傷がつき、年頃の娘に、「お前は、ふしだらだ」と、厳しく注意。
妻のソランジュは、「クリスマスの日ぐらいはいいでしょう。17歳の女の子は、もう子供じゃないの。それに、働いているし」と、娘の肩を持つ。

  
 
           
           

           

17歳のお転婆娘、ジャックリーヌも朝帰り...
朝帰りの父と娘。どこの家庭でも十代の娘にボーイフレンドが出来、朝帰りすると、父親は激怒する。そして日頃の意思疎通が高じて、娘と口論になる。

ダイニングで父母や姉の会話が騒々しいので、次男坊がベッドから起きてきて、食卓に置かれたサンタクロースの衣裳とサンタのお面を見て、
「サンタクロースって、ウソじゃん。それ、パパが着るんでしょ。なーんだ、つまんない」とガッカリ。
ジャンが一番可愛がっている次男坊の夢をクリスマスの晩に壊してしまった。
それも、2年前の忘れられないクリスマスの夜の思い出なのだ。

ジャンにとっては、もう一つ忘れられない、二度と取り戻すことのできない哀しい想い出がある。
それは、「ラ・キャラバン」にウェイトレスとしてやってきた、美人で愛嬌のあるクロチルド(フランソワーズ・アルヌール)と愛し合った空しい想い出だ。

           
           

2年前のクリスマスの夜に、クロチルドと出会う。
ジャンと助手のベルティは「ラ・キャラバン」に立ち寄って、ささやかなクリスマスパーティーをやった。

2年前のクリスマスの日、いつも通りに定宿の「ラ・キャラバン」にやってきたジャンと相棒ベルティの二人は、ここで泊まるが、ジャンは新入りのウェイトレスが働いてのを知る。
今までのウェイトレス嬢と違って、ジャン好みのタイプだ。 ジャンは新入りの笑顔と話し方に好感を持てた。

この日は、店主のエミールが、焼いた七面鳥を用意していて、ジャンやベルティが来るのを待っていて、男3人でクリスマスパーティをやることになっていたが、二人は眠くてクタクタ。
食事を少し摂ったあとで仮眠室に行く。

           
           

目覚し時計を持ってきた運命の女...クロチルドがドアをノックした。
鏡を使った2ショットの演出がいい。

クロチルドが真夜中にジャンの寝室のドアを開けて入ってきた。
ジャン:「誰だ?今頃」。
クロチルド:「目覚まし時計よ。時間をセットしておいたわ。そうした方が、私が起こさなくてもいいから」。
ジャン:「・・・それだけか、真夜中に若い女が男のベッドに来るって、他の用事もあったんだろ?」
クロチルド:「他のって?お客さんは、眠たいのでしょう・・・時計を持って来ただけよ」。
ジャン:「起こしといて、すぐに帰るのか?今日はクリスマスの晩だ。若い娘なら今頃は踊りに行っているのが当たり前。ここの親父が行かしてくれなかったのか?」
クロチルド:「私が断ったの」。
ジャン:「ダンスが嫌いか?」
クロチルド:「ここは、ボルドーから60キロも離れた辺鄙な田舎よ。こんな所では相手もいないわ」。
ジャン:「ボルドーか・・・俺らはその帰りだ。ボルドーに知り合いがいるのか?」
クロチルド:「母がいるわ。義理の父と一緒に・・・」。
ジャン:「君の名前は?」
クロチルド:「クロチルドよ。”クロー”って、呼んでね。おやすみなさい」。
ジャン:「俺はジャン・ヴィアールだ。ジャンと呼んでくれ」。
クローは、自分の部屋に戻っていった。

妻のソランジュと不仲になっていたジャンは、仕事の休憩で定宿に立ち寄って、クロチルドと会っている内にヒビの入った家庭の不満が紛れ、二人はお互いに惹かれ合う。
しかし、不便な田舎の居酒屋での仕事は面白くないクロチルドは、ボルドーにいる母の自宅に里帰りして、ボルドーで働き口を探すという口実で、キャラバンを辞め、ジャンのトラックでボルドーまで送って貰う。

           

           
           

           

ボルドーにいる冷たい母...
クロチルドは実家の母を訪ねて、ボルドーで仕事が見つかるまで同居させて欲しいと頼む。

母親は出戻った娘には冷淡だった。
クローの母は自宅におらず、義父のアルマンが出演している野外コンサートに出掛けていた。コンサートと云っても観客が10名ぐらい。
クローの母:「まぁ、あんたなの。田舎の居酒屋に働き口見つけてやったの、満足してる?」
クロチルド:「辞めて満足しているわ。田舎じゃなく、町(ボルドー)で働きたいの。母さん、力になってくれるわね?」
クローの母:「・・・」。
クロチルド:「これから、どうすればいいの?頼みがあるのよ」。
クローの母:「私を当てにして訪ねて来たの?私は相変わらず貧乏暮らしでね」。
クロチルド:「お金じゃないの。しばらく、居させて」。
クローの母:「しばらくって、どのくらい?」
クロチルド:「仕事が見つかるまでよ」。
クローの母:「お前が出て行ってからも、うちは一つも変わっていないし、私より若い(再婚相手の)アルマンがいるわ。男だからね。バカなこと言わないでよ」。
クロチルド:「バカなことじゃないわ」。
クローの母:「何言ってんのよ。ウチの家、二間で狭いのよ。あんた分かっているでしょ。
若い夫が、母娘と一緒だったら、夜中に間違いが起きるわ。そんなの、私は厭よ。
これからは私の人生。あなたは、あなたの人生を歩んでね。もう、あんたは大人でしょ。いつまでも当てにしないで」。
クロチルド:「15の時から当てにしてないわ」
個人主義のフランス人の考え方である。

           
 
 
           

           

クロチルド:「ダメだったわ...キャラバンに戻るわ」。
鏡を使った2ショットの演出がいい。

しかし、クロチルドには、ボルドーに頼りになる友達がいなくて働き口がなく、再びジャンに頼んで元の「ラ・キャラバン」へ送って貰い、以前のようにウエイトレスとして働くことを決心した。その夜道のドライブ中に二人は結ばれる。


           

           
           

           

「なぜ、そう見つめるんだ...」

クロチルドは、恋人のトラックが来るのを待ち遠しい。お互いに勤務中で、限られた休憩時間内での逢瀬を重ねている内に、クロチルドはジャンの子を身籠もってしまう。生まれてくる子供のために、愛するジャンと一緒に暮らすしか、他に方法がない。
クロチルドは、ジャンの勤務先の運送会社に手紙を書いて送る。
           

           
           
           

           

お互いに勤務中しか会えないじれったい逢瀬。

ところで、運送会社の営業車ナンバーのトラックには、運転席のインパネにタコグラフ(エンジン回転計では無く、運行記録計)が装着されていて、運転時間と走行距離、運転停止時間記録が、詳細に折れ線グラフになって記録されている。
運送会社の運転管理者が、勤務を終えたトラックからデータシートを抜き取り、ドライバーの勤務評定を行い、経営者に報告するのだ。

ジャンは、パリ〜ボルドー〜パリ間の往復で、ボルドーから60km離れた「ラ・キャラバン」での停止時間が長くて、目立っていることから、経営者はジャンがトラックを私用に使っていると疑い出し、別路線のストラスブールへの交替を告げられる。パリからストラスブール行は、ボルドーと逆方向の北東で、ドイツとの国境の町である。もし、ずーっとそうなれば、ラ・キャラバンにいるクロチルドとは会われない。

怒ったジャンは運転管理者を殴って、永年勤めていた運送会社をクビ(解雇)になる。
一方、ジャンの子を宿し、ジャンの失業を知らないクロチルドは、ジャンがキャラバンにやってこなくなったので、恋人の心変わりを心配する。

運送会社にはクロチルドからの手紙が来ていたが、ジャンが突然解雇されたので、会社に保管されたままであったが、まもなくジャンの自宅に転送された。
その手紙は、ジャンの17才の娘が勝手に開封して読み、両親に隠していたのだ。これは、父親のジャンが、娘のボーイフレンドから来た手紙の封筒を勝手に破って、中身を読んでしまった仕返しであった。

クロチルドはジャンが店にやって来ないし、手紙を出しても返事がない。いてもたってもいられないのでパリに来て、ジャンが勤務していた会社にやってくる。
そして以前、ジャンとコンビを組んでいたベルティから、ジャンがトラック事業者組合の懇親会に出席すると聞いて、パーティー会場に会いに行く。

ジャンは久し振りにソランジュと踊って、家族サービスしている所に、クロチルドが立っていた。ジャンは驚く。しかし、ジャンはクロチルドを招いて一緒に踊り、踊りながら耳元で、事情を話す。

           
 
           
           
           
           

           

クロチルド:「どうして店に来ないの。手紙出したの読んでくれた?」
ジャン:「手紙?会社に送ったのか...実は、配置転換で揉めて、会社を辞めたんだ」。

ジャン:「どうして、ここへ?」
クロチルド:「久し振りね。これからは、パリで仕事を見つけて働きたいの。手紙を出したのに返事がないのが心配で、ここまでやって来たの」。
ジャン:「手紙って?俺は知らないよ」
クロチルド:「私が出した手紙よ」
ジャン:「手紙をくれたら、俺は返事を書くさ。どこへ出したの?」。
クロチルド:「教えてくれた宛先よ。」。
ジャン:「会社か?君をごまかしてないよ。困ったことがあったら、君をほっときゃしないよ。実はな、俺、会社をクビになったんだ。会社に手紙を出したなら、多分そこにあるはず。何かあったのか?」。
クロチルド「えぇーっ、会社を辞めたの!」。
ジャン「今日はな、ここのパーティにやってきた仕事仲間に頼んで、別の会社でトラックドライバーの仕事を探して貰っているところなんだ。君は、パリで働くって、何かアテでもあるの?」。
クロチルド「アテなんて無いわ」。

ジャンとクロチルドがダンスしているときに、他の運送会社のボスが女とダンスしながら、
「君は、仕事を探しているんだって?・・・ヴィルデュ(ヴィルデュは映画上の架空の町・ランス市の南、マルヌ ヴェルテュのことらしい)から、ボルドーに家畜を運ぶ仕事があるのだが、やってみる?運転手が病気で代わりがいないんだ。」と言われ、
ジャン:「じゃあ、一回きりか」。
運送会社のボス:「でも、手当が付くぞ」。
ジャン:「気持ちには感謝するが、俺はまだまだ、レギュラー(現役)でやりたいんだ。俺の気持ちを解ってくれ」と、その場では一旦断ったが、後で思い直して電話を掛け、家畜運びの仕事を承諾した。

この仕事なら、キャラバンに立ち寄れる。ダンスは続く。
ジャン:「クロー、手紙に何て書いたんだ?」
クロチルド:「あなたも、大変なのね。何でもないの。ヴィアールさんは、家族のことで大変なのね」と、急に余所余所しい。
クロチルドは、ジャンに別れ話を持ち掛けるが、ジャンは一緒に暮らそうと言い出す。
自分も失業中のジャンは、その日にモンマルトルのラブホテル街でクロチルドと一緒に、住み込み女中の働き口を探してあげる。そして、ヴァコー女将の経営するラブホテルの女中に採用が決まる。

           
           

           

あなたも大変ね。別れましょ

その夜、ジャンの家は修羅場になった。
17歳のお転婆娘・ジャクリーヌがふざけて、クロチルドの手紙を両親の前で大声で読んだのだ。
娘のジャクリーヌ:「わたしの愛するジャンへ、あなたが来るのをお店で待っているけど、どうして来ないの?こんなこと書いて、あなたはどう思うかしら・・・
ママ、この意味判る?ウワーッ、私に弟が出来るのね・・・まだ、確定したわけではないけど、妊娠したみたい」。
母のソランジュ:「ジャクリーヌ、止めなさい。それ以上読まないで!」。
娘のジャクリーヌ:「パパだって、私の大事な人からの手紙を勝手に破いて、読んだじゃない」。
ジャンは怒り、家を飛び出し家族と決別する。

その一方で、クロチルドは、街娼が指定区域の通りで客を引く、パリのモンマルトルに近い「ルピック街」周辺のラブホテルで、客室清掃とベッドメイクの女中として働くことになった。固定給とアベック客から貰うチップ収入であったが、クロチルドは女中部屋に住み込みなので、家賃と食事代は天引きされる。
厭な仕事だが、しがない女一人が食べていくには卑しい仕事でも断れない。

 
 

フランスは、カトリックの国なので、離婚や堕胎は禁止されている。
ベッドを鉄格子を監獄に見せた違法行為のヤバイ相談...演出にドキッとした。

パリのアパートは古い建築が多く、築100年以上経っているところも珍しくはない。古いマンションを改装したラブホテルには、エスカレーターやエレベーターはない。
客の多い週末は、アベック客に部屋を案内してチップを貰うため、螺旋階段を上ったり下ったりで忙しい。
そして、日増しにだんだん大きくなっていくお腹・・・。
ヴァコー女将:「クロー、あんた、このぐらいの仕事でハアハアしていては、この仕事は務まらないわよ。ひょっとしたら、妊娠しているんでしょ 。どうなの?」
クロチルド:「はい、そうです」。
ヴァコー女将:「やっぱりねぇー。あんた、父親が分かっているの?・・・この先、子供産んで、ちゃんと育てる自信がお有り?・・・今、何ヶ月なの?」
クロチルド:「3カ月よ。でも、最近失業しちゃって。自信って?・・・どうなるか分からないわ」。
ヴァコー女将:「父親が失業?バカねえ・・・そんな人の子、産んじゃ駄目よ。後悔するわよ」。
クロチルド:「じゃ、どうすればいいの?」
ヴァコー女将:「あんたが腹ボテで働けないなら、ウチも困るし。あんた、ウチの他に働き口がないんでしょ。3カ月なら間に合うし、わたしに任せて。誰にも秘密よ。いい所があるの。それが済んでしばらく休めば元通りの体になって、今以上に働けるわ。そこに行ってみる?私からちゃんと電話しとくから」

翌日、クロチルドはヴァコー女将の薦めに従って、ジャンの子を堕ろしに「もぐりの堕胎医」のアパートに行って、フランスの法律で禁止された堕胎手術を受ける。
フランスは、国教がカトリックなので「離婚」と「堕胎」は、禁止されている。
離婚に関しては、役所への離婚届けの他に、カトリック教会で神父の前で結婚の誓いをした時と同じ神父(又は司教)の許可が要るし、とくに、流産を除く堕胎手術は犯罪行為として裁判を受け、執刀した医師は医師免許が剥奪される。

このような宗教上の影響で、フランスでは、入籍せずに好きな男女が同棲生活し、夫婦別称の事実婚家庭が非常に多いのだ。日本の政党の中には夫婦別称を素晴らしいと声高に言う人もいるが、外国の実情を知らないのだと思う。
もぐりの医療行為は、清潔安全ではない場所で、医師免許の無い素人が行う手術なので、術後の感染症や後遺症が懸念され、しばらく休めば元通りの体に戻るとは限らない。母体にダメージを受けやすい。

クロチルドは術後の経過が芳しくなく、ジャンとの連絡の行き違いで、ジャンを信用出来なくなり、早く働きたいクロチルドは、堕胎手術を選択した。
しかし、パリで二人が再会した後に、ジャンが家族と決別して一人暮しを始め、新しい働き口も見つけたことをジャンの親友ベルティから聞いて、自分の為に本気になって愛してくれたジャンの優しさに気付いて、愛する人との子を裏切って堕ろしてしまった自分を責めて、もがき苦しむのだった。

家族と決別したジャンは、別の運送会社で長距離定期便のトラックドライバーの採用が決まり、クロチルドとの新生活に張り切り、クロチルドを幸せにする決意をしていた。
ジャンはラ・キャラバンの店主エミールに頼んで、ジャンとクロチルドが一緒に住む住所が決まるまで、クロチルドをウェイトレスとして雇って貰う手配もしていた。
そして、クロチルドの働いているホテルに電話するが、ヴァコー女将はバカな男の電話を取らない。これも行き違いである。

ジャンに頼まれた元同僚のベルティは、女将から「クロチルドは風邪で休んでいる」と聞いて、仮病だと思いホテルの女中部屋からクロチルドを連れだしジャンのトラックに乗せるが、後ろめたいクロチルドは一向に嬉しそうでは無いのだ。

ジャンは、クロチルドが身籠もっていたことは、ジャクリーヌの暴露で知ったが、それを堕ろしたことは知らない。
クロチルドは、最初の手紙では妊娠を報せたが、ジャンはその手紙を見ていないと言ったので、自分が原因で会社をクビになったと、ジャンに気兼ねして、トラック業界の懇親会パーティーで再会した時は妊娠した事を隠していたのだ。

           
           
           

誰からも祝福されない、ハネムーン

誰も祝福しない、文無し二人のハネムーンは、ヘッドライトを照らしても、行先が判らない濃い夜霧が立ちこめた夜だった。
いつも通っている道なのだが、ジャンは緊張して工事中迂回の標識を見落として、道路工事の現場で通行止め。迂回道が分からず、道に迷ってしまう。
当時は車載の無線電話などは無い。ケータイが無い時代だ。

           
           

濃霧に課すんだ道路標識が、ヘッドライトに反射して「十字架」に見える。

ジャンがクロチルドの額を触ると、酷い熱だったので、民家の電話を借りて救急車を呼んだ。
霧で救急車の到着が遅れ、翌朝にクロチルドをストレッチャーに乗せた時は、重体だった。救急車の後をトラックで追い掛け、 ドライブ・イン「ラ・キャラバン」に着いた時は、救急車に人集りで出来ていて、クロチルドは、神に召されていた。

エピローグの画面は、プロローグと同じ画面に戻り、薄幸のクロチルドを救って、幸せにしてやれなかった自分を責めて、眠れないクリスマスの夜を「ラ・キャラバン」のベッドの中で思い沈む、老け込んだジャンの姿があった。

その寝付かれなかった翌朝、「ラ・キャラバン」の駐車場に、見覚えのあるトラックが入ってきた。ジャンが以前に乗っていたトラックで、かっての相棒ベルティが運転していた。
ジャン:「やぁ元気か、ベルティ、君にはいろいろと、世話を掛けたな」。
ベルティ:「そんなこと気にせずに・・・ご家族の方は、お元気ですか?」
ジャン:「下のルルが百日咳になってなぁ・・・ジャクリーヌは、相変わらず俳優の夢をみているけど・・・」。
ベルティ:「今でも?・・・ソランジュは?」。
ジャン:「あんなことがあってから、俺と同じでソランジュも、ちょっと老けたよ。ベルティ、仕事うまくやれよ。・・・じゃあ、またな」。
ベルティ:「じゃあ、また」。二人はがっちりと握手。
今度、会うのは、いつになるだろうか・・・。

そして、ジャンはいつものようにエンジンを掛け、運転席の前方をしっかりと向いて、ラ・キャラバンの前を走り去る。
人それぞれの人生には、誰にも言えない、そして葬られない想い出がある。

2014年2月12日更新 尾林 正利

お好きなムービーのボタンをプッシュ!
 
Camera Photo_essay Camera Photograph sketch_osaka shigoto blog
mail

Film criticism by Masatoshi Obayashi
Copyright (C) 2012-2015 Maxim Photography.All Rights Reserved.