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波止場

(和訳は "波止場にて" 1954年公開)

On the Waterfront
Directed by Elia Kazan

波止場という映画は、1954年頃のニューヨーク市を流れるハドソン川の対岸にある、ニュー・ジャージー州ホーボーケン(Hoboken)港の貨物船埠頭を背景にした、港湾労働者(沖仲仕)たちの厳しい就労の実態をマルコム・ジョンソンという雑誌のルポライターが、「Crime on the Waterfront”波止場の犯罪”」を執筆し、それがニューヨーク市の出版社・サン誌に掲載されて高い評価を受け、ピューリッツア賞を獲得したことが切っ掛けで、この映画が生まれた。

マルコム・ジョンソンのルポルタージュ(記録記事)に興味を持った、スクリーン・ライター(映画脚本家)のバッド・シュールバーグが、これを映画にしたくて、ホーボーケン市内に家を借りて自ら住み込み、港湾労働者である沖仲仕たちの生活や過酷な労働実態の聞き取りやマフィアのリサーチに本腰を入れ、日払いの日当から"カスリ(ピンハネ)"をする、コーサ・ノストラ(※ニューヨーク市やその周辺都市のマフィアの呼称)と言う、組織犯罪集団の不正を暴いた港湾労働者のトニー・マイクという実在の人物を取材して、彼の体験談を聞き、それを基本に映画ドラマに脚色し、テネシー・ウィリアムズの戯曲「欲望という名の電車」を演劇と映画で演出したエリア・カザンが映画化したものであるが、映画の製作過程はカンタンではなかった。

バッド・シュールバーグはシノプシスを書いて、映画監督のエリア・カザンに見せたところ、監督は乗り気になって、20世紀フォックス代表者のダリル・F・ザナックら、各映画会社の代表者と出資交渉に入ったが、思惑外れだったのだ。

当時のハリウッドは、マッカーシズムの赤狩り旋風が吹き荒れる時期だったので、港湾労働者VSコーサ・ノストラ(ニューヨークのマフィア)との対決映画に、アメリカの資本主義と相容れない”社会主義的”なテーマの上に、さらにアメリカの政財界まで浸食しはじめた組織犯罪集団の犯罪を暴いた作品に勇気を持って手を挙げる映画会社はなかった。

波止場の映画化は、独立プロのホライゾン・ピクチャーを主宰するサム・スピーゲルが手を挙げ、彼は製作費をケチって100万ドル以内に抑え・・・監督のエリア・カザンと主役のマーロン・ブランドのギャラを各々10万ドルにすることで、配給元になるコロムビア映画が出資するという話がまとまって映画化が決まった。
監督のギャラを値切られ、製作費を圧縮され、バッドの台本を何度も書き直されたエリア・カザンは、最悪のプロデューサーと一緒に仕事することになった。

エリア・カザンは、この映画の主役に、イタリア出身でホーボーケン市のヒーローである、フランク・シナトラを主役のテリー役に押したが、サム・スピーゲル(後に戦場に架ける橋、アラビアのロレンスをプロデュース)は、新人で売出し中のマーロン・ブランドを押して、真冬にクランクインになったが、ホーボーケン市のヒーローを主役に起用しなかったことなどで、埠頭での映画ロケ中に撮影隊は、強面(こわもて)の男たちに囲まれて監視され、エリア・カザン監督はホーボーケン市警の署長の弟をボディーガードに雇って撮影することになった。

エリア・カザンは、イタリア映画のように、リアリズムを追及して、エキストラに現役の港湾労働者を大勢雇って出演させたので、港湾組合と映画プロダクションとの間で人夫の取り合いが起きて、ロケ撮影が時々、コーサ・ノストラのファミリーに妨害されたこともあったらしい。

1954年当時のホーボーケン市の港湾労働者(沖仲仕)集めは、ニューヨークやホーボーケンを縄張りとする組織犯罪集団のコーサ・ノストラが運営する、沖仲仕の就労管理をビジネスにした「港湾組合」が荷主から委託されて行っており、ここで働く沖仲仕たちは年会費を払って港湾組合に登録して割札を貰い、割札を持参して仕事前の朝礼に集合した。

ここの港湾組合は、年会費の他に、日雇いの斡旋手数料(世話代)として日当から2〜3ドルも天引していたらしい。
港湾組合による違法なカスリ(ピンハネ)をアメリカ議会上院の組織犯罪調査委員会(通称キーフォーヴァー委員会)からの召喚に応じ、マスコミも参列する公聴会の席で真実を証言しょうとした沖仲仕は、証言台に立つ前に、口封じに殺されていたという実話に基づいて、フィクションドラマに脚色されたものである。

因みに、2013年現在の世界の主要港に於ける貨物船埠頭の船荷の扱いは、コンテナ貨物が主流になっている。
通称「キリン」と呼ぶ、レールの上を自走するのっぽの起重機が世界規格のコンテナを貨物船から降ろして、埠頭で待機しているコンテナ専用の大型トレーラーに積んで物流倉庫や鉄道の貨物ターミナル構内へ運ぶので、沖仲仕の仕事は殆ど機械化された。しかし、荷主が払う、積荷100ポンド当たり6セントの手数料が、現在は誰の手に入るのかは、明らかにされていない。

この映画は、二つの「仲間への裏切り」が、隠れたテーマになっている。
その一つ目は、恋人の兄の殺害計画に加担し、伝書鳩仲間を裏切ったこと。そしてギャングに入ったものの、実兄を裏切って組織犯罪の不正を暴いた人物・トニー・マイク(映画ではテリー・マロイ役)に対する仲間からの非難と軽蔑...。

二つ目は、映画監督のエリア・カザンは、元アメリカ共産党員だったが、下院の非米活動委員会からの召喚に出席して、司法取引に応じて、証言台で自分を含む11名の赤い映画人(共産主義者の監督・脚本家・俳優)の名を挙げて、仲間を裏切ったことで、ハリウッド・テンと呼ばれた映画人(監督・脚本家・俳優)は、ハリウッドから追放され、ある者は刑務所に収監され、彼等からはもちろん、彼等を同情する人たちからもエリア・カザンは非難とバッシングを受けた。

非難轟轟のエリア・カザンはそれにめげず、蔑視と脅迫に遇いながら、この映画を完成させ、試写会で映画評論家たちから絶賛され、88万ドルの製作費で、960万ドルの興行収入を得て、波止場は大ヒットした。しかも、1954年度のアカデミー賞8部門でオスカーを獲得する名作になったのである。

だから、エリア・カザン監督は、波止場という映画を「テリー・マロイの償い=裏切り者の償い=エリア・カザンの償い」として、観て欲しいと自虐的に述べている。

波止場のラストシーンでは、 テリー(エリア・カザンの分身)は、組織のボスや幹部から袋叩きにされ、半死の血だるまになっても立ち上がり、仲間の沖仲仕から無視されても、いつもの沖仲仕の仕事に就くエピローグの演出がある。 自分の映画界に於ける状況を映画を借りて、モンタージュしたわけである。

「波止場」は、罪悪感に駆られた男が、仲間を裏切った償いを求める・・・代償は高く付いたが、それを少女が愛で助ける。普通の男のドラマで、この作品自体を”償い”をテーマにしたと、エリア・カザンは語っている。社会悪のギャングたちの犯罪を暴く映画ではない。

でも、主役のマーロン・ブランドは、仲間を売ったエリア・カザン監督を嫌って、「波止場」には出演したが、夕方4時には帰らせて欲しいと、拘束時間の条件をつけたり、次作の「エデンの東」の主役のオファーを蹴ってしまったのだ。

主なキャスト

Terry Malloy(テリー・マロイ:ボクサー崩れのゴロツキだが、レース鳩を飼育する優しさも)・・・Marlon Brando(マーロン・ブランド)
Edie Doyle(イディ・ドイル:ミッション系の女学生で、兄を殺した犯人捜しに奔走)・・・Eva Marie Saint(エヴァ・マリー・セイント)
Johnny Friendly(ジョニー・フレンドリー:ギャングのボス、邪魔者は部下に命じて殺させる)・・・Lee J.Cobb(リー・J・コッブ)
Father Barry(バリー神父:教区の教徒が殺されたことに憤り、真実の証言をテリーに託す)・・・Karl Malden(カール・マルデン)
Charley Malloy(チャーリー:テリーの兄。大学出の法学士だが、悪人のジョニーの参謀になる)・・・Rod Steiger(ロッド・スタイガー)
Pop Doyle(ポップ・ドイル:イディの父。イディが暴力団員のテリーを好きになって悩む)・・・John Hamilton(ジョン・ハミルトン)
K.O.Dugan(K・O・デューガン:沖仲仕で人望が厚い。暴徒の襲撃に遭い、組合の不正を告発)・・・Pat Henning(パット・ヘンニング)
主なスタッフ

監督:Elia Kazan(エリア・カザン)
制作:Sam Spiegel(サム・スピーゲル)
原作:Malcolm Johnson(マルコム・ジョンソン)
脚本:Badd Schulberg(バッド・シュールベルグ)
撮影:Boris Kaufman(ボリス・カウフマン)
音楽:Leonard Bernstein(レナード・バーンスタイン)
編集:Gene Milford(ジーン・ミルフォード)
ヘヤー:Mary Roche(メアリー・ロシェ)
メイク:Fred Ryle(フレッド・ライル)
画面とカラー;スタンダード1:1.33、モノクローム
製作会社;ホライゾン・ピクチャーズ
配給会社:Columbia Pictures Corporation(コロムビア・ピクチャーズ)
DVD販売:(株)ソニー ピクチャーズ エンタテインメント

ストーリー

この映画の主人公のテリー・マロイ(映画上の架空の人物:演じるのはマーロン・ブランド)は、前途有望な元スーパーミドル級のプロボクサーであった。

ところが、チャンピオンのウィルソン(映画上のボクサー)との世界戦に、弟を陰から金銭的に支えていたニューヨークのマフィアである「コーサ・ノストラ」組員の兄のチャーリー・マロイ(ロッド・スタイガー)が、ボスのジョニー(リー・J・コッブ)の命令で、八百長話を持ちかけたので、兄思いのテリーは、チャンピオンになる夢を棄てて、試合に負けた。

その結果、勝者のウィルソンはますます有名になったが、敗者のテリーは落ちぶれて誰にも相手にされず、賭け金の分け前は貰ったが、将来が空しくなって愚れ出し、町内のゴロツキになって、ニュー・ジャージ州を縄張りにする、コーサ・ノストラ(ニューヨークのマフィア)という組織犯罪集団)に「血の誓い」をして、見習いになる。

波止場の映画は、ニューヨーク市の対岸、ニュージャージー州ホーボーケンの埠頭で撮影。
岸壁に固定したボートハウスが「組合事務所」で、荷主に任されて、会員沖仲仕の就労を斡旋する。


テリーは、二十代半ばでプロボクサーを引退し、ホーボーケンを縄張りにする犯罪組織のジョニー・フレンドリー(リー・J・コッブ)の参謀で、大学出の法学博士で兄のチャーリー(ロッド・スタイガー)の使い走りになって、ボスの通称ジョニーからも小遣い銭を貰って可愛がられるが、ある日、やりたくない仕事を兄から命じられる。

テリーの住んでいるアパートのすぐ近くには、沖仲仕仲間では人望の厚かったジョーイ・ドイルが住んでいて、レース鳩の調教を趣味にし、アパートの陸屋根に鳩小屋を持っていた。テリーも同じ趣味を持っていてアパートの屋上で鳩を飼っていた。
テリーはジョーイのアパートに向かって大声で叫んだ:「ジョーイ!」
ジョーイは、部屋の電気を点け、窓を開け身を乗り出した:「誰だ。テリーか?」
テリー:「君の鳩が、俺の小屋へ迷い込んで来たんだ。受け取りに来い」。
ジョーイ:「そいつは、レースに出していた、ダニーボーイだ。今は、外に出るとヤバイんだ」。
テリー:「じゃあ、今からそっちにいく。君の鳩小屋の前で会おう」。

ボクサーを辞めたテリーは沖仲仕になり、ギャングに入って犯罪の手伝いもする。



その仕事というのは、テリーがジョーイの飼っていたレース鳩を事前に一羽こっそりとかっぱらって、鳩が俺の小屋へ迷い込んだとウソを吐(つ)いて、ジョニーの手下の殺し屋から、逃げ隠れているジョーイをアパートの屋上へ誘き出すカンタンな仕事であった。

しかし、屋上には殺し屋が数名待ち伏せし、ジョーイが屋上の鳩小屋へ伝書鳩のダニーボーイを受取に行ったところを襲い、ジョーイは、テリーから鳩を受け取る前に、地上へ突き落とされて転落死した。

ジョーイは、ギャングのジョニー・フレンドリーが運営する港湾組合の会員で、近々公聴会の証言台に立つ予定だったのだ。
沖仲仕のジョーイが、口封じに殺された理由(わけ)は、港湾組合の不当なカスリ(ピンハネ)を下院の組織犯罪調査委員会の公聴会で真実を証言すると、組合委員長のジョニー・フレンドリーの事務所へは、当局のガサが入り、帳簿でカスリの実態がばれると、荷主から契約解除、行政から港湾組合の免許が取り消されるので、ジョーイの召喚前日に、ジョニーが手下に命じて、口を封じたワケであった。死人に口無しということだ。

仕事仲間のジョーイがアパートから突き落とされたので、約束が違うと、テリーは兄を責める。


ボスのジョニー(リー・J・コッブ)と、ボスの参謀・チャーリー(ロッド・スタイガー)は、
テリーの手柄で主任に昇格させたのに、テリー(マーロン・ブランド)が喜ばないので不満顔。


テリーは、表の仕事は組合加入の沖仲仕なのだが、裏の仕事はコーサ・ノストラの人殺しの手伝いだった。ジョーイを鳩で誘き出し、口封じが成功したので、ボスのジョニーはテリーの初手柄に大喜びだった。

ジョニー:「皆、よく聞け!ここの労働者は、5組合に2,000人だ。港湾組合費だけで1年に72,000ドルだ。人夫から毎日の世話代を2ドルずつ取れば、トータル(総額)で、いくらになると思う?その手数料をガッポリ頂く・・・ここの港は貨物取扱が世界一なんだ」。
チャーリー:「ボス、遠慮することはないです」。
ジョニー:「ジョーイなんてチンピラに、証言などさせん。委員会なんぞ、俺の知ったことか。...マック(組合副委員長)、明日からの荷揚げの仕事は、テリーを一番(主任)に使え」。

沖仲仕一番(主任)の役は、船倉で、他の沖仲仕のサボりや荷抜きの見張りと、積荷の数を調べるだけで楽な仕事だ。しかし、テリーは嬉しくなかった。
自分が誘き出した、鳩仲間の知り合いをいきなり殺すなんて納得できなかった。
テリーは兄のチャーリーに訊いた:「チャーリー、俺は、ジョーイを殺すなんて聞いていなかった。話し合う為だと言ってたじゃないか」。
チャーリー:「きっと、屋上で揉めたんだろう。説得に行った奴とケンカになって落ちたんだ。ボスに楯突いていたしな。・・・あまり、気にするな。今から飲みに行こう。おごるよ」。
テリー:「後から行く」。

ジョーイの父も組合の沖仲仕だ。組合が犯罪組織なので、警察には真相を黙秘。


ジョーイの妹イディ(エヴァ・マリー・セイント)は、「誰が兄を殺したの?」と叫ぶ、
波止場の教区を預かるバリー神父(カール・マルデン)は、犯人捜しに乗り出す。


しかし、転落死したジョーイ・ドイルの遺体を見た、妹のイディは、「誰が兄を殺したの?」と泣き叫ぶ。
ホーボーケンを教区とするバリー神父(カール・マルデン)は、教区の浄化の為に、この地区の犯罪組織と闘うことを誓い、犯人捜しから始めるが、事件現場にやってきた、ベテラン沖仲仕のデューガン(パット・ヘンニング)は、港湾組合のことは、「見ざる、聞かざる、言わざる」だと言う。うっかりしゃべるとジョーイの二の舞になるといって、ジョニー一味の名前を神父に明かさなかった。

バリー神父は、「イエス・キリストは殺人犯を見逃さない・・・教会で話し合おう」と、ジョーイの仲間たちに提言し、ジョーイを殺した犯人捜しの会議を教会で行う。これがジョニーの耳に入った。ジョニーは参謀のチャーリーを呼んで、教会での会議の内偵を命じる。

チャーリーは、荷主の船倉で美女のグラビア雑誌を眺めてサボっていたテリーに第二の仕事を命じる。
チャーリー:「テリー、いくら荷揚げ主任だからといって、大っぴらにサボるな。皆の眼もあるので、主任らしく働いているフリをしろ。
ところで、他の仕事がある。ジョーイの妹が気が強くて、ジョーイの仕事仲間を集めてバリー神父の教会へ行って、神父と話し合うらしい。出席者の顔ぶれや話の内容を調べるんだ」。
テリー:「よしてくれ。そんな役はゴメンだ。沖仲仕仲間を偵察して密告しろなんて、味方を裏切ることだろ」。
チャーリー:「ボスが、この役はお前に適任だと白羽の矢を立てたんだ・・・断れないよ。さあ、早く教会へ行け」。

バリー神父は教会を利用して、ジョーイの仲間を集めて、犯人捜しの相談をする。


兄のチャーリーの命令で、会議の途中からテリーが教会へ偵察にやってきたので誰も喋らない。


教会では、会議の時間がやってきた。
バリー神父:「もっと、集まると思っていたが・・・むしろ、少数の固い決心と団結こそ強力だ。私は部外者だが、ここで事態を整理してみよう。ここの沖仲仕の就業を阻害している犯罪組織の壁を破るには、殺人犯を捜し摘発することだ。私が質問したいのは、誰がジョーイを殺したか?君たちは沈黙しているが、誰がやったのかは知っている。教区のキリスト教徒が殺されたことを黙視していられるか・・・」と捲し立てる。

テリーは、教会へやってきた。そして数列後方に座った。
デューガン:「誰がテリーを呼んだんだ。神父さん、波止場の話は聞かざる、言わざるでね」。
結局、誰も口を閉ざして、真犯人を言わないまま閉会になった時、教会の窓ガラスが投石で破られ、ジョニーに雇われた暴徒が教会へ乱入してきた。テリーはイディを護衛して教会の裏口から逃げた。しかし、逃げ遅れたデューガンは、暴徒に頭を野球のバットで殴られ血塗れになった。

教会に暴徒が侵入したので、ジョーイの妹・イディを守ったテリーは機転を利かせて家まで送る。



テリーは、ジョーイの妹・イディと幼馴染みであったが、今まで話したことは無かった。
教会からの帰り道、テリーは並んで歩いているイディに話し掛けた。イディは、ポケットから出した手袋の片方を偶然に落とし、テリーが拾って土を払い、自分の手にはめた。これは、マーロン・ブランドお得意の思わせ振りな演技だ。

テリー:「君は、尼さん学校(ミッションスクール)へ通っているんだって?尼さん学校は、デート禁止か?」
イディ:「いいえ、普通の短大よ」。
テリー:「でも、怖い尼さんになるんだろ?」
イディ:「卒業したら、小学校の先生になるの」。
テリー:「へーぇ、偉いなぁ・・・でも、君がガキの頃は、頭は三つ編みで、歯には矯正金具、・・・(ださい)メガネも掛けていただろ」。
イディ:「それが、どうしたのよ?」
テリー:「怒るなよ。今は、びっくりするぐらいの美人じゃないか。きれいになって驚いているんだ。この辺はゴロツキが多いから、美女の独り歩きはヤバイ。家まで送るよ」。
テリーは別れ際に、イディを次のデートに誘う。

「俺は、波止場で懸命に働いてきた。お前が短大を出て一人前の先生になって欲しいからだ。
教会からの帰りに、ヤクザのテリーと一緒だって?一体、何を考えているんだ」と、叱るパパ


後日に二人は、テリーの鳩小屋で待ち合わせし、それから大衆酒場(パブ)でデートして軽く飲み、成り行きでほろ酔いになって、フォークダンスを踊る。
イディ:「この前、あなたは私のことを訊いたけど、あなたの事は、どうなのよ?」
テリー:「俺か、ちょっと前までは、プロボクサーだったんだ。・・・暫くは暮らしも良かったけど、・・・そんなことはどうでもいいだろ」。
イディ:「他人のことも、どうでもいいの?」
テリー:「君って、考えが甘っちょろいな」。
イディ:「他人の悩みは、自分の悩みでもあるわ」。
テリー:「本気で、そう思うのか?」
イディ:「そうよ」。
テリー:「俺の主義を言おうか。やられる前にやれだ」。テリーは、両拳でファイティングポーズを構える。
イディ:「まぁー、あなたみたいな人、初めてよ。一欠片(ひとかけら)もないのね。優しい感情とか、人間らしい思いやりが・・・」。
テリー:「そんなの、損するだけだ」。
イディ:「つまり、邪魔者は殺せって言うこと?」イディの顔が怒りに変わる。
テリー:「よせよ、ジョーイの事で、俺を責めるなよ。俺は関係ない。一体、あの神父の狙う企みはなんなんだ?誰にでも企みはある。」
イディ:「あなたは、人を信じないのね」。
テリー:「ここでは自分だけだ。生きるためにはな。食うには、活きの良い奴と組むんだ。組まなきゃ沈んじまう」。
イディ:「けだものの生活だわ」。
テリー:「けだものの生活で結構さ」。それを聞いたイディは失望して泣き出す。
イディ:「(ジョーイを殺しの犯人を捜す)私を助けて、お願い」。
テリー:「泣くなよ。そら、(惚れた女の頼みに)何とかしたいさ。したいけど、(今の俺の立場では)出来ないんだ」。
イディ:「いいわ。助けてって、あなたに言うんじゃなかった」。
テリー:「怒っているのか?」
イディ:「なぜ、私が怒るの?」
テリー:「つまり、・・・俺は君の助けにはならなかったし、役立たずだから」。
イディ:「じゃ、助けてくれる気持ちはチョットはあるのね」。イディは、テリーの本音を知った。

テリーの人生論を聞いて、「あなたの生き方は、けだものだわ」と、驚くイディ。



そこへジョニーの手下がやってくる。
手下A:「テリー、ボスが直ぐに来いって呼んでいるぞ。バー(ジョニー・フレンドリー経営の酒場)に早く行け」。
イディ:「あの人たち、誰なの?」
テリー:「この辺の地回り(縄張りを見張るヤクザ)さ」。
さらに、続いて刑事もやってきた。
刑事A:「君への召喚状だ。指定日時に必ず組織犯罪調査委員会へ出頭するように。黙秘権は認められている」。
刑事が去った後、テリーは召喚状を破り捨てた。

なかなかバーにやって来ないテリーに業を煮やした、ボスとチャーリーは、車でテリーの居場所にやってきた。
ジョニー:「お前は、あの日、教会で何をしてたんだ?」
テリー:「チャーリーに言われた通り、神父や仲間の話を聞いていました」。
ジョニー:「その中にデューガンもいただろう?」
テリー:「居たけど、俺が後ろに居たんで無口でした」。
ジョニー:「ふざけるな!奴はあの後、警察にたれ込んで、39ページ分もべらべらと喋りやがった。その時、お前はどこにいたんだ」。
テリー:「ビビリのデューガンなんかに、そんな根性はないですよ。教会で俺の顔見て、びくびくしてたし。相談が終った後は、俺は女といたんです」。
チャーリー:「お前は、ジョーイの妹と付き合いだしたな。止めとけ。危険だ」。
ジョニー:「チャーリー、何とか、デューガンって奴の口を召喚日までに封じるんだ。テリー、お前は船倉に戻れ。もう、今までみたいな楽な仕事はさせんからな」。

ボスの呼び出しに事務所に行かなかったテリーは、ボスと兄に絞られる。


その数日後、船倉での荷揚げ作業で、アイリッシュ・ウィスキーの1ダース入りカートンを十数箱を天井から荷揚げ中に、クレーンのオペレーターが故意にパレットを荷室天井の開口部の角にぶつけたので、ケースが次々に落下して、クレーンの真下にいたデューガンの頭上に落ちて彼は即死した。事故ではなく計画殺人だった。

船倉で事故を見たテリーは、デューガンの死にショックを受けた。

組織犯罪調査委員会の刑事は、何度もハト小屋に通い、テリーを辛抱強く説得し、
公聴会で、ジョニーがボスになっている港湾組合の実態を証言させる気にさせる。


その後、テリーは、屋上で鳩の世話をしていた。そこへテリーをマークしていた刑事Aが一人でやってきた。
刑事:「君が鳩の世話をするなんて意外だな。なぜ、鳩を飼うんだ?」
テリー:「可愛いから。この辺は、鷹が多いんでね。誰かが鳩を守ってやらねば」。
刑事:「ジョーイも鳩を飼っていたそうだな。知り合いだったのか?」
テリー:「また、その話か。俺は関係ないし、奴とは親密な友達ではなかった」。
刑事:「聞いたところによると、君はプロボクサーだったんだろ」。
テリー:「そうだ。スーパーミドル級だ」。
刑事:「ランキングは?」
テリー:「あのウィルソンと王座決定戦をやったんだ。けどな、あの試合は、賭け屋の圧力で最初から勝負が決まっていたんだ」。
刑事:「八百長か?」
テリー:「そうだ。あの時の俺にとっては、勝つことよりも、奴の効かないパンチを効いたように試合する方が難しかったんだ。本当は奴を俺の得意のショートパンチで、リングで半殺しにできた。今思うと、やはりチャンピオンになりたかった。チャンピオンになれば、ちょっとは、世間にでかい面(つら)ができるからな。今は指図されるままだ」。
刑事:「プロボクサーになった理由は?」
テリー:「ケンカして金儲けできるから」。
刑事:「君は、今は指図されたままの状態だと言っただろ。君は今の所にいたら、ボスの顔色ばかり見て生きなければならん。少しは将来の事を考えろ」。刑事は帰っていった。

ボスのジョニーは、「お前の弟は、デカと会ってたな。証言台に立つ前に説得しろ」。


会計主任のチャーリーは、「弟は今、女にイカれて、ぐらついているだけだ」と反論。


刑事とテリーが会って、長く話していたのは、テリーの家来である二人の少年によって、港湾組合のボス・ジョニーの耳に入った。
ジョニー:「お前の弟が、デカと会って何やら話していたそうだな」。
チャーリー:「弟がデカと話していたって、証言台に立つとは限らん」。
ジョニー;「さすが、法学博士さんだ。だから、雇っているんだ。だがな、テリーが証言しないっていう保証はあるのか?」
マック:「そら、そうだ」。
チャーリー:「マックは黙ってろ。弟はあの娘と神父に言い包められているだけなんだ・・・」。
ジョニー;「それは、構わん。問題はテリーが証人になるかどうかだ。チャーリー、確かめろ!呼び出して言い聞かせろ。ダメなら、例の所へ送れ」。
チャーリー:「そりゃ、ひどい!弟は、女にイカれてぐらついているだけだ」。
ジョニー;「ぐらついている?奴らに勝手なことをされたら、俺らも沈むんだぞ」。
チャーリー:「私には出来ない。ジョニー、テリーは俺の大切な弟なんだ」。
ジョニー;「考えろ、自分が大事か?弟が大事か?」
チャーリーは窮地に立たされた。

チャーリーは、テリーに会いたいと連絡した。テリーも兄に会いたかった。
話はタクシーの中で行われた。このシーンは、実際の車の中でロケが行われることになっていたが、マーロン・ブランドの撮影中の早退や予算の都合で、撮影用のカット車(車の後部座席だけを撮影用に造ったもの)が利用された。
走行シーンの背景を後部席の窓から隠す為にキャメラマンのアイディアで、ブラインドがセットされ、カメラマンの合図に従って、ライトマンがスポットライトの向きを器用に操作し、3〜4人のカメラアシスタントが、車の外から車体を揺らして、車が恰も走っているように演出された。

ジョニーから特命を受けたチャーリーは、テリーを説得するが・・・。


テリー:「チャーリー会えて良かった。これからボクシングの賭け屋に行くんだろ?予想を聞きたいな」。
チャーリー:「予想のことより、先に話したいことがあるんだ。ウワサでは、お前に召喚状が来たらしいな。みんなは、お前に目を掛けているんだ。いずれは、この波止場の顔役にしょうとな」。
テリー:「俺はそんなにビッグに成れなくても、毎日の仕事と多少の金があれば充分さ」。
チャーリー:「若い内はそれでもいいさ。だがな、お前はもうすぐ30になる。結婚したい女も出来る・・・少しは野心を持てよ」。
テリー:「どうかな?まだ、そんな気持ちはないね」。
チャーリー:「そうか・・・。ところで、今度の新しい桟橋の荷役主任の話だが、貨物100ポンド当たり6セントの手数料が入る。輸出入共にだ。何もしないで週に300ドル、或いは400ドルにもなる。それも、手始めの金額だ。どうだ、いい話だろ。だから、主任になりたいなら、(召喚されても)何も喋るな。分かったか」。
テリー:「今、初めてチャーリーが俺を呼んだワケが分かったよ」。
チャーリー:「テリー、お前はうちの組合を調べる委員会の召喚で証言する気か?」
テリー:「どうしていいか、分からないんだ・・・。だから、今日はそのことを話そうと思ったんだ」。

チャーリーは、ポケットから拳銃(ハジキ)を出して、銃口をテリーに向ける。
「お前にこんなことをしたくないんだ。召喚日まで、もう時間がない。決めてくれ。437番地まで着くまでにな」。
テリー:「437番地って、何があるんだ?」
チャーリー:「お前は、知らなくていい。お前は黙って、そこの桟橋の主任になってくれ。それで丸く収まる・・・テリーお願いだ。頼む」。
テリー:「チャーリー、よせよ」。テリーは、兄が向けた銃口を優しく下げた。

その瞬間に、チャーリーは自分が組織から殺される覚悟を決めた。
チャーリー:「OK、OK,分かったよ。皆には、お前と会えなかったと言っておくよ。どうせ、疑われる。このハジキ、お前にやるよ。後で必要になるからな・・・」。
タクシーは途中で停車した。テリーはタクシーを降りて、イディのアパートに向かった。イディに自分の決心(証言台で真実を話す事)を伝えるためだった。

テリーの説得に失敗したチャーリーは銃殺され、テリーも口封じに狙われる。


冷酷なジョニーはマロイ兄弟を抹殺(このシーンはマーロン・ブランドでなく、代役に吹き替え)


イディと話していると、前の道から大声がする。
「テリー、お前の兄貴が会いたがっているぞ。降りて来い」という声がする。テリーは不吉な予感がした。イディも追い掛けてきた。
すると、トラックがイディの後から迫ってきた。二人は命辛々に助かるが、近くの家の外壁にチャーリーが死体で吊されていた。

テリーは、兄から貰った拳銃を構えて、ジョニーの経営する酒場にへ復讐しに行くが、店内にはジョニーは居なかった。
イディから、テリーの仇討ちを知ったバリー神父もジョニーの酒場にやってくる。
神父:「人を拳銃で殺すことが勇気か?」
テリー:「余計なお世話だ」。
神父:「拳銃は卑怯者の武器だ。銃でジョニーの息の根を止めたいのか?
もし、お前から先に撃てば、ジョニーや手下は正当防衛という口実で仕返ししてくる。
ジョニーの思う壺になるんだ。兄さんの敵(かたき)を取るなら、言葉を武器にして闘うんだ!明日、法廷で真実を武器にして闘うのだ」。

テリーは、証言台で組合の真実を述べたが、公聴会後もジョニーは委員長のままだった。
だから、テリーはボスのジョニーと素手で格闘して、自分の権利を守ろうと決心する。



そして、テリーが証言台に立った。テリーは質問に関して真実を述べると、右手を挙げて宣誓した。
委員会の質問者:「ジョーイ・ドイルが死体で発見された晩、最後に会っているのは、あなたですか?」
テリー:「そうですが、でも、その後で、アパートの屋上から彼を突き落とした連中がいるんです」。
委員会の質問者:「ということは、ジョーイの転落死は事故じゃなく、事件だった。そのあとで、君はジョニーの仲間に、彼を殺したことに抗議したのですね?」
テリー:「そうです」。
この、テレビ中継をみていた、ジョニーの組合と関係のある警察のトップは、
「くそっ、テレビを切れ。もし、公聴会の後で、ジョニーから俺に電話が掛かってきても、居ないと言え」。

公聴会の後、テリーはイディに打ち明けた。
テリー:「委員会で証言したら、皆、俺を白い眼で見るんだ。子供までも・・・」。
イディ:「テリー、(私と一緒に)ここを離れましょ」。
テリー:「今まで、俺は皆からゴロツキと言われてきたんだが、今度は違うんだ。安心しろ、暴れない。波止場に行って俺の権利を守るだけだ」。
イディ:「波止場に行くって、兄さんが殺された復讐を考えているの?行くと危ないわ。私のことも考えて」。

テリーの表の仕事は沖仲仕だ。いつものように就業開始前に荷揚げの仕事へ行くが、ジョニーの右腕のマックは、テリーにだけ仕事を与えない。
「テリー、ボディ・ガードのポリがいないじゃないか?のこのこ来るなんて不用心だな。明日に来いよ。(生きてたらな)」。

テリーは怒った。公聴会で証言しても組合は、何も変わらない。正直者はバカにされた。世の中っていうものは、得てしてそういうもの・・・。
テリーは、海に浮かんだ艀船(はしけぶね;運搬船)をボートハウス改装した、ジョニーの事務所に行く。沖仲仕も仕事より、ケンカが見たくてテリーの後を付いてくる。

ジョニーの事務所には、ハジキ(拳銃)を構えた幹部たちが待ち構えていた。
ジョニー:「こらっ、お前らはサリバン法を知らんのか?お前らがハジキを使って丸腰のテリーに手を出すと、俺がムショ行きだ。皆のハジキを金庫に了うぞ」。

テリー:「出てこい、ジョニー!お前は、邪魔者を他人に殺させ、金庫の傍でぶるぶる震えている臆病ネズミだ」。
ジョニーは出で来て:「貴様こそ、おれらを裏切ったドブネズミ野郎だ!お前らは手出すな。俺がドブネズミを始末する!」
二人は殴り合いになる。やはり、元スーパーミドル級プロボクサーのテリーのパンチは凄く、ジョニーはボコボコにされたので、腕っ節の強い三人の手下がテリーを袋叩きにする。

イディから、テリーが波止場へ兄の仇討ちに行ったと聞いたバリー神父が、イディを連れてジョニーの事務所へ駆け付けると、テリーはノックアウトされていた。ジョニーも沖仲仕たちから真冬の海へ突き落とされていた。
バリー神父は、わざとウソを吐いて、「テリーよ、ジョニーはな、お前をKOしたと思っている。奴を見返してやれ。テリー、一人で立てるか?とにかく立って、仕事場に行け。そうすれば、お前の勝ちだ」。

組合の沖仲仕たちは、乱闘になったテリーの怪我の状態が気掛かりで、仕事に就かないので、荷主がいらいらして人集めする。しかし誰も船に入らない。テリーが一番で入場するのを待った。沖仲仕全員が勇気のあるテリーの行動に気遣って、「一番荷揚げ(主任)」にしたのだ。怪我したテリーは、初めて仲間の優しい人情が分かった。

2013年6月16日 尾林 正利

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