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映画のプロローグ(序章・導入部分=イントロ)とエピローグ(終幕=フィナーレ)は、モノクロで本編はカラー

悲しみよこんにちは

フランスの女流作家、フランソワーズ・サガンが1954年に18歳の時に書いたベストセラー小説(22カ国語に翻訳)をアーサー・ローレンツが脚色して映画化。日本では1958年に公開

Bonjour Tristesse (ボンジュール・トゥリステス)
Produced and Directed by Otto Preminger

 

芸術の国、フランスには世界的な小説家や詩人、画家や彫刻家がいて、日本でもよく知られている。
その中でも、ヴィクトル・ユーゴーとか、エミール・ゾラ、モーパッサン、プロスペル・メリメ、SF小説のジュール・ベルヌ・・・という男性の小説家が書いた作品は、ユーゴーの「レ・ミゼラブル」と、ゾラの「ジェルベーズ(居酒屋)」と、メリメの「カルメン」は映画化され、DVDも販売されているので、当サイトにも紹介している。

フランスで女性の小説家と言えば、真っ先にぼくの頭に浮かぶのは、フランソワーズ・サガンだ。
サガンという姓はペンネームらしいが、 「悲しみよこんにちは」、「ある微笑」、「さようならをもう一度(原題は、ブラームスはお好き?)」の小説は、それぞれ脚色されて映画になり、日本でも公開された。昨今ではDVDも販売(ある微笑は、未定)されている。

当サイトでは、サガンが18歳の時に書いた「悲しみよこんにちは」を今回紹介する。
この映画は過去に二度製作されており、一回目はサガンの同名の小説をアーサー・ローレンツが脚色して映画にした作品で、二回目はサガンの自伝を映画にしたものらしいが、一回目のオットー・プレミンジャー監督によって、映画化された作品を紹介しょう。

この映画は、パリの社交界や南仏のリゾート地・カンヌでの上流社会(貴族の晩餐会やブルジョワの懇親会)に見受けられるデカダンス(退廃的な暮らし)をモチーフにしているが、演じている俳優のジーン・セバーグがスウェーデン系のアメリカ人、デヴィッド・ニーブンとデボラー・カーは、バリバリのイギリス人で、フランスの上流社会の人々を演じるキャスティングにちょっと違和感がした。ミレーヌ・ドモンジョはOKだ。

この映画が公開された1958年に、デヴィッド・ニーブンとデボラー・カーは、「旅路」という別の映画に主役で共演し、二人はアカデミー主演男優賞と主演女優賞にノミネートされ、デヴィッド・ニーヴンが「オスカー」を獲得した。
デボラ・カーは、1956年にミュージカル映画の「王様と私」にユル・ブリンナーと共演し、シャム王室の英語教師「アンナ」役に扮し、アカデミー賞にノミネートされたが、王様役のユル・ブリンナーがオスカーを獲得した。そういう経緯からハリウッドは、アカデミー賞には無冠のデボラ・カーに、アカデミー名誉賞を贈っている。

この映画は、日本女性に大きな影響を与えた。それは、サガンの原作からではない。意外な面で注目された。
それは、パリの裕福な資産家の家庭で育った、セシールを演じたジーン・セバーグのヘヤースタイルだった。
セシールのボーイシュなショートヘヤー・スタイルが「セシールカット」と呼ばれて、日本で大流行し、日本全国の美容室に、その髪型が定着したのである。

一本の映画が、日本女性のファッション・トレンドに大きな影響を与えたのは、サガンの「悲しみよこんにちは」と、トルーマン・カポーティ原作の 「ティファニーで朝食を」だろうと思う。

ヘンリー・マンシーニーの作曲した、華麗なテーマ曲「ムーン・リヴァー」をバックに、ジヴァンシー(Givenchy)のオートクチュールを着こなしたオードリー・ヘプバーンの若かりし頃のエレガントなファッションは、憧れのマト。
しかも、ティファニーのニューヨーク本店でエンゲージリングを特別に注文するというワクワクするようなストーリの映画だった。
実は、サガンとカポーティは友人だったらしい。

この映画も、セシールと、継母になるアンヌが着るパーティドレスの衣裳は、ジヴァンシーが担当し、映画では判りにくいが、宝石はカルティエ、アクセサリーはエルメスが協力している。
DVDのカバーや映画のタイトルバックの絵は、1952年に阪急電鉄の宣伝部から独立して渡仏し、パリの美術界で活躍した日本人の版画家、スガイ・クミ(菅井 汲)さんの作品だ。
菅井さんの版画を活かしたタイトルのアニメーションは、アメリカの有名なグラフィックデザイナーのソール・バス氏が担当している。つまり、映画俳優にはファッション、映画のタイトルにもデザインに拘った映画なのだ。

 

ソール・バスが1964年頃に来日して、本町の大阪ガスのホールで、彼のグラフィックデザインや映画タイトルの制作に関する講演会が行われて、ぼくは講演を視聴しに行った。グラフィックデザインの講習会に、ウィリアム・ワイラー監督の「大いなる西部」のタイトル部分が35mmフィルムのシネスコ画面で、しかもステレオサウンド付きで上映されたのには驚いた。

 

この映画は、パート・カラー作品である。
洋画のパート・カラー作品は、古くはミュージカル映画の「オズの魔法使」に使われた映画手法で、現実のシーンはモノクロ映像で、夢の中のシーンはカラー映像になる映画である。

「悲しみよこんにちは」では、
パリでのセシール(ジーン・セバーグ)の日常生活を描写したプロローグとエピローグはモノクロ映像で、夏休みで南仏のコート・ダジュール(紺碧海岸)にあるカンヌの別荘で過ごす回想シーンは、鮮やかなカラー映像にモンタージュされている。

リセという大学進学を目指す高校に通う17歳のセシールは、母を亡くした父のレイモン( デヴィッド・ニーヴン)と一緒にパリのアパート(日本では高級分譲マンションに相当)で、何不自由なく贅沢な暮らしているが、父親が一人娘のセシールを溺愛して甘やかすので、セシールは17歳からタバコや飲酒はへちゃら。クルマの運転もする。

セシールは16歳まで体を許した男性経験はないものの、一日も早く少女(処女)をおさらばして、好きな男と愛し合って、早く結婚したいと願っているので、高校の勉強なんかに身が入らない。
「私は将来、お金持ちの男性に養って貰うつもりだから、学歴はいらないわ」。

17歳の夏、セシールの一番の楽しみは、早く夏休みになって、父の別荘で好き勝手に「羽目を外して」遊ぶことだった。
というのは、若い女性好みの熟年の父には、セシールと年齢が少ししか変わらない20代の愛人、エルザ (ミレーヌ・ドモンジョ)がいて、二年前にカンヌの別荘で、父とエルザが愛し合うのを見ていたからで、セシールも今年こそはカンヌの保養地でイケメンを見つけて、一夏の火遊びのアヴァンチュールを楽しみたいと密かに思っていた。

ところが、別荘に到着してから、父は亡くなった母の友人である熟年女性のインテリ女、アンヌ(デボラ・カー)を招待したのだ。
父は、まだ幼さが残る愛人のエルザと別れ、父の配偶者に相応しい、落ち着いた雰囲気の熟女のアンヌにプロポーズし、婚約したのだ。

セシールは、配偶者がいなくなった寂しさから若い女と遊び呆ける父親を心配して、再婚には同意していたが、父のプロポーズをアンヌが承諾すると、婚約した日からアンヌの態度は、よそよそしさから一変して、母親気取りになって、だらしないセシールの生活態度に、教育指導を始めるようになった。

アンヌが来てから数日後、セシールは新恋人のフィリップ(ジェフリー・ホーン)と、水泳のあとで、バンガローで抱き合っていると、アンヌは、別荘内からフィリップを追い返し、セシールのプライバシーに干渉してきた。

腹が立ったセシールは、新恋人のフィリップ、父の愛人であったエルザと3人が共謀して、「芝居」を演じ、父の別荘からアンヌの「追い出し作戦」を計画し、実行する・・・そしてその顛末(てんまつ)を回想する。

主なキャスト

レイモン(セシールの父)・・・David Niven(デヴィッド・ニーヴン)
セシール(レイモンの一人娘)・・・Jean Seberg(ジーン・セバーグ、発音は、ジーン・スィバーグ)
アンヌ(レイモンの婚約者)・・・Deborah Kerr(デボラ・カー)
エルザ(レイモンの愛人)・・・Mylene Demongeotミレーヌ・ドモンジョ)
フィリップ(カンヌの別荘近くで知り合ったセシールの恋人)・・・Geoffrey Horne(ジェフリー・ホーン)
ダンスパーティの会場で歌うシャンソン歌手・・・Juliette Greco(ジュリエット・グレコ)

主なスタッフ

監督:Otto Preminger(オットー・プレミンジャー)
原作:Francoise Sagan (フランソワーズ・サガン)
脚色:Arthur Laurents(アーサー・ローレンツ)
撮影:Georges Perinal(ジョルジュ・ペリナール)
音楽:Georges Auric(ジョルジュ・オーリック)
美術:Roger Furse(ロジャー・ファース)
編集:Helga Cranston(ヘルガ・クラントン)
衣裳:Hope Bryce(ホープ・ブライス)
タイトルアニメのデザイン:Saul Bass(ソール・バス)
制作:Otto Preminger(オットー・プレミンジャー)
制作会社 Columbia Poctures Corporation コロムビア映画
画面:CinemaScope(シネマスコープ作品。 アスペクト比 1:2.35 DVDでフルHDハイビジョンで鑑賞する時は、上下黒マスク)
カラーTechnicolor(テクニカラー作品だが、イントロとエンディングはモノクロ)
DVDの製作:DVDは、デジタル・リマスター版で、モノクロ・シーンもカラー・シーンも鮮明
DVDの発売元:(株)ソニー・ピクチャーズ・エンターテインメント

ストーリー

この映画は、セシールという、フランスでは、中等教育課程のリセ;Lysée)に通う女子高生が、17歳の去年の夏、南仏カンヌのリゾート(避暑地)にある父の別荘で起きた、"忘れられない悲しい出来事"をパーティーで社交ダンスをしながら回想する映画である。
この映画では、モノクロのシーンは18歳の様子が描かれ、カラーのシーンは17歳の時の避暑地での出来事を描写している。


上は、パリの中心、セーヌ川のシテ島に聳えるノートルダム大聖堂。
下は、バカロレア(フランスの国公立大学入学への資格試験)ための進級テストの勉強もせず、パーティーに明け暮れる、リセの高校に通う、ブルジョワ家庭育ちのセシール(ジーン・セバーグ)

冒頭は、パリの中心、セーヌ川左岸から見た、シテ島に建つノートルダム大聖堂のロングショットから始まる。
女子高生のセシールは行動的な女で、父からクルマを買って貰ってパリの中心街をドライブするのが好きで、助手席にボーイフレンドを乗せて青春をエンジョイしている。

セシールの父・レイモン(レイモンド)は、ビジネスで成功し、パリにアパート(日本では、高級分譲マンション)を持ち、南仏のコート・ダジュール(Côte d'Azur:紺碧海岸という、白砂の浜が多いセレブなリゾート地)のカンヌやイタリア側のリヴィエラ(コート・ダジュールのイタリア側の海岸で、リアス式で岩場が多い)に、別荘を持っている今時のブルジョワ(資産家)だ。

レイモンは、ビジネスの人脈を増やすため、様々な業種の人を呼び集めて、毎月、食事会やダンスパーティを開催するのが好きな男である。貴族の真似をするのが趣味である。
パーティ会場には、若くてハッとする美人が居ないと、男の客が集まらない。今年も去年の悲しい事を忘れて、相変わらず若い美女を呼んできてパーティーに明け暮れている。
そして、18歳になった今年の夏は、カンヌの別荘ではなく、イタリアのリヴィエラ(コート・ダジュールのイタリア側海岸のリゾート地)で過ごす予定になっている。

今日も宴がたけなわになって、セシールは父が招待した男性客とダンスを踊りながら、去年の夏のバカンスことを思い出していた。
ダンスミュージックは、シャンソン歌手のジュリエット・グレコが特別出演して歌っている。



パリでのダンスシーンは、やがて、去年のバカンスで行った、カンヌの別荘の風景にオーバーラップし、映画がカラーになる。

去年の夏は、別荘に到着すると、レイモンの若い愛人、エルザが先に到着していて、ビーチで背中を灼きすぎ、背中がヒリヒリするのでベッドに休んでいた。セシールはエルザを従姉(いとこ)だと思っていて、年齢が近いので、話が合う。
レイモンは、セシールとエルザに、母の友人のアンヌを別荘に招待したと、二人を驚かす。


上は、カンヌの別荘で、父の愛人・エルザが、数日先に到着し、浜辺で肌を焼きすぎてダウン。
中は、セシール(17歳)より数歳年上のレイモンの愛人・エルザ(ミレーヌ・ドモンジョ)と、父のレイモン(デヴィッド・ニーヴン)。熟年の父は、ピチピチした若い女性が大好き。
下は、カンヌのプライベートビーチで水泳を楽しむセシール。到着して間もなく、フィリップという青年と仲良しになる。

アンヌを呼んだ理由は、
「お前を上流社会に相応しい女性として育てるには、父親だけでは心許無い。女性の助けが要る。 俺もいい歳だから、そろそろ家庭を守ってくれるパートナーが欲しい」と、突然に言い出す。

セシールは父の話に驚くが、心配事がある。
父の恋愛は、いつも熱しやすく冷めやすい。美しい女に目移りしやすい。そこが心配だ。

案の定、レイモンは、別荘にアンヌが来ることを電話で確認すると、こっそりとエルザに別れ話を切り出す。アンヌが来なかったら、そんな話はしない。エルザは不安になる。
アンヌはクルマを運転してカンヌの別荘にやってきた。大きなトランクの数からして、別荘に長居するつもりだ。
クルマから降りたアンヌは、出迎えたセシールと抱擁し、「大きくなったわね」と、アンヌは幼い頃のセシールを想像していたので、セシールが大人びていることに驚く。別荘からの海の眺めは素晴らしく、アンヌは凄く気に入る。


上は、父のレイモンは、娘のセシールに「ママの友人、アンヌと再婚する」と言い出す。
中は、アンヌ(デボラ・カー)を迎えるセシール。父の再婚に、女子高生のセシールは複雑な心境になる。
下は、左のエルザは笑っているが、このあとで、レイモンから別れ話が...。

プライドがお高いインテリ女のアンヌは、レイモンが別荘やパーティで若い女に囲まれて鼻の下を伸ばしている様子に、内心は不快だったが、レイモンから真剣に愛を告白され、娘のセシールには、まともな女性の助けが必要だという言葉を聞いて、もやもやしながらも、自分の歳も考えて婚約を承諾する。

セシールは、別荘の下にある海岸で水泳中に、イケメンのフィリップに出会い、一目惚れ。
夏休みのバカンスという開放感も手伝って、毎日一緒に水泳している内に、若さの勢いで深い仲になる。

フランスでは、リセ(フランスでは中等教育:日本の高校に相当)に進学にすると、上の学年へランクアップする度に進級試験が段階的に難しくなって、落第が当たり前。
しかし、何回も進級試験に落ちて留年していては、バカロレア(大学入学資格試験)が受けられない。
バカロレアに合格すれば、希望する国立大学へ入学できる。日本と全然違う。


上は、アンヌはレイモンのプロポーズに承諾し婚約する。アンヌはセシールの義理の母になった。
中は、17歳のセシールは、若さと成り行きに任せてフィリップと深い関係になる。
下は、アンヌは母親気取りになって、恋愛は禁止と言ったので、セシールは義母に牙を剥いた...。

フランスの中等教育の学校「リセ」に通う生徒は、大学進学コースと就職コースがあって、勉強か、職業訓練か、どちらかを選ぶ。好きな大学へ進学するためには、ナポレオン1世が創設した国家試験のバカロレアの認定を取得しなければならず、勉強を選ぶか、恋愛を選ぶかのどちらかになる。フランスでは日本のように大学が行う入試はないようだ。

アンヌは、亡くなったセシールの母と友人でもあり、レイモンと結婚すると義理の母になる。だから、彼女を大学へ行かせたいので、別荘下のバンガローでフィリップといちゃついていると、
「セシール、あなたの年頃は勉強に忙しくて、男友達と遊んでいるヒマは無い筈よ」と忠告され、勉強嫌いのセシールは、アンヌに牙を剥いた。


一番上は、楽しいバカンスが台無しにされたので、座禅の真似をしてアンヌに反抗するセシール。
二番目は、カジノ・バーで、アンヌ追い出し作戦を計画する、被害者3人。首謀者はセシール。
三番目、レイモンから縁を切られたエルザは、若いフィリップとダンスして、レイモンを挑発...。
四番目、エルザが楽しくダンスしているのを見て、レイモンは落ち込む。アンヌはレイモンを睨む。
五番目、別荘の庭で、エルザとフィリップのラブラブシーンをレイモンに見せつける。

セシールは自分のプライバシーに干渉してくる、母親気取りのアンヌに嫌悪感を持つようになり、アンヌのせいで御祓箱になった、エルザを巻き込んで、アンヌを別荘から追い出す一芝居を練る。

父と婚約したアンヌを、どのようにして別荘から追い出すか・・・それは、アンヌが最も嫌がることをすればいいワケだ。
アンヌの売り言葉に、セシールが買い言葉で口喧嘩をすれば、後味が悪くて、いつまでも尾を引く。スマートに嫌がらせをすることにした。

そこで、第一ステップは、 父のレイモンに、別れを告げられたエルザに、もう一度振り向かせる心理的ショックを与える事だった。
先ず、ダンス パーティで、可愛いドレスを着たエルザがフィリップと親密にダンスして、レイモンに見せつける。そして、父の別荘の庭で、エルザがフィリップとキスしているシーンを見せつけることだった。
レイモンは、数日前までは自分の愛人だった女が、すぐに新しい男を見つけて親しくなっているのを見たら、エルザに嫉妬する筈だ。

続いて第二ステップは、 レイモンは若い女性に優しい男だから、必ずエルザに謝りの電話を入れる筈だ。
するとエルザは、「もう一度、別荘の庭で逢って、ゆっくりお話したいわ」と、いって、レイモンを誘い出す。

そして、別荘の庭で、アンヌがよく通る遊歩道近くの茂みで、エルザはレイモンと逢う約束をする。そこへ、アンヌが通れば、アンヌは父の女誑 (おんなたら)しに怒って、婚約は破談になる筈・・・女子高生のセシールが描いたシナリオだった。

上は、アンヌは絵を描くのが好き。肩が凝ったら遊歩道を通って散歩する幸せなアンヌ。
中は、セシールは、作戦が上手く行くかどうか...アンヌの様子を窺う。
下は、茂みの中から、レイモンとエルザの話し声が...。引きつるアンヌ...万事休す!

第三ステップは、 アンヌは趣味は、絵を描くことだ。
絵を描くのに疲れると、アンヌは一人で遊歩道から見えるコート・ダジュールの美しい夕景を見に散歩に出掛ける。セシールの指示通りに、エルザはそこに父を呼び出した。セシールの謀略に気付かない父は、のこのことエルザに逢いに行った。

散歩に出掛けたアンヌは、茂みの中から、レイモンの声とエルザの声がするのが聞こえた。二人の姿は見えないが、抱擁しているようだ。

レイモン:「やはり、若い女の肌は一番だよ」。
エルザ:「うふふ・・・」。
レイモン:「ああいう女を本気にさせるには、結婚話を持ち出さないとね・・・」。

レイモンの女誑しの素性を知ったアンヌは、遊歩道を駆け上がり、別荘まで乗ってきたクルマを急発進!
セシールの描いた、シナリオが効き過ぎて、取り返しの付かない事態になった。
レイモンはセシールからアンヌが去ったことを聞いてショックが隠せない。
「アンヌが傍にいるのに、エルザに未練たらしく、コソコソと逢おうとするなんて、俺は、バカなことをしてしまった」。

そこへ、警察から電話。 「自動車のナンバープレートから、あなたとご関係のある方が、交通事故に遭われました。ご本人の確認の為に事故現場に出頭して下さい」。
レイモンとセシールは、クルマに乗って事故現場へ急いだ。

崖からコート・ダジュールの海へ落ちてクラッシュしたアンヌのクルマがクレーンで引き揚げられようとていた。
即死だったらしい。事故現場は事故の起きやすい場所だった。 セシールは、自分を駆り立てた女の魔性に身震いした。

そして映画は今の生活に戻る。再び、モノクロシーンになる。
今日もパーティーを終えて、アパートに帰ってきたセシールはパーティドレスを脱ぎパジャマに着替える。

パーティの接待で疲れた父もセシールの部屋に入ってきた。
レイモン:「今日のパーティに、イボンヌが来てただろ?」
セシール:「知ってたわ。かなりの美人ね。・・・リヴィエラへ連れていくの?」
レイモン:「・・・」 父は、返答に詰まって部屋から出て行く。

セシールは鏡の中の自分を見詰め、クレンジングクリームで化粧を落とす。
「 アンヌは、自分が思っていたよりも、いい女(ひと)だったわ。
他の女なら、きっと、恨みの遺書を残し、父が死ぬまで苦しめただろう。

アンヌは、父と私に思いやりのプレゼントをしてくれた。
自分の死を、事故死に信じさせようとしたことだ。
フィリップとは、あれっきりだし、エルザは南米へ・・・。

忘れようにも、心に甦るあの夏のこと・・・。
今年も、父と一緒に避暑へ行く。今年はイタリアのリヴィエラだ。

去年の夏の事を言わないのが、二人の暗黙の了解になっている。
しかし、朝起きて、お互いにボンジュールと挨拶のキスをしても、 父も私も、去年の夏の深い悲しみからは、当分抜け出せないだろう。
今日も、「悲しみよ、こんにちは」。

FIN


2013年2月18日・尾林 正利

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