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蛇皮の服を着た男

(1960年公開:英語の原題は、流れ者
1858年のパリで初公演のオペレッタ「地獄のオルフェ」の映画化)

The Fugitive Kind
Directed by Sidney Lumet

日本公開時のタイトルが「蛇皮の服を着た男」という映画は、アメリカの戯曲作家、テネシー・ウィリアムズが1957年に書いた戯曲(演劇用台本)の「The Fugitive Kind」をハリウッドの中では数少ない社会派映画監督のシドニー・ルメットによって1960年に映画化したものである。
映画の内容に相応しい直訳をすると「流れ者」という意味だ。
同作の演劇では「地獄のオルフュウス」という邦題で上演されている。そうすれば、入手困難で高価なアミメニシキヘビの皮で作った「蛇皮の服」を探さ無くて済む。

この映画のシノプシス(あらすじ)の元ネタは、ギリシャ悲劇を下敷きにした19世紀中期(1858年)に、パリで初公演された、ジャック・オッフェンバック作のオペレッタ「地獄のオルフェ(Orpheé aux Enfers)」に登場する人物の設定を百年後の1957年に、アメリカ南部の閉鎖的な風土に暮らす人間関係に置き変えてドラマにしたものである。
雑貨店店主の夫人レディは、ユーディリス、雑貨店店主の夫ジェーブはオルフェ、流れ者のヴァルはアリステに当てはまると思う。

この映画で重要なのは、一見して長閑で平和そうなアメリカ南部諸州の片田舎に、"目障りな人間や町の秩序を乱す余所者”への殺意が充満していて、気に食わない者を町の自警団の男たちが巧妙に拉致して、正当に葬る為の恐ろしい罠が、所々に仕掛けられていることである。

つまり、現在でもアメリカ南部の一部のコミュニティーに根強く残る人種偏見と差別・・・いわゆる白人至上主義思想=旧約聖書の創世記に登場するエホバ神の直系をゲルマン人とサクソン人とし、人類の至上とする考えがあって、南北戦争の終った1865年に、南軍の退役軍人の有志たちが創立したクー・クラックス・クラン(KKK団)という極右の秘密結社が2013年にも、"奴隷解放で自由になった黒人を躾けるため"に現存するが、KKK団は自警団のような組織であって宗教団体ではない。

このようなKKK団と似た、排他的な自警団が暗躍するアメリカの闇社会が、「蛇皮の服を着た男」という映画の中で描かれている。
2013年にスティーヴン・スピルバーグ監督の「リンカーン」という映画が公開されたが、こういう作品を昨今になって製作するというのは、まだまだアメリカ社会には、人種差別の問題が解消されていない証左なのだろう。

当作品には、町の自警団長を兼任する保安官のタルボットが職権濫用して、独断で目障りな余所者に罠を仕掛けて拉致監禁し、激しいリンチを加え、牢屋からワザと逃がして逃亡犯として合法的に射殺したことが描かれている。
貧しい白人や目障りなヒッピーの白人に対しても、保安官の判断で罠を仕掛けてリンチの末に抹殺するのだから、有色人種であれば、もっと残酷だろうと凡その察しがつく。

因みに、人種偏見による殺人や殺人未遂を描いた他の作品は、デニス・ホッパー監督の"イージー・ライダー"、ノーマン・ジェイソン監督の"夜の大捜査線"などがある。 従来のアメリカ映画では隠蔽されていた、アメリカの恥部が露呈された戯曲として注目される作品で、元々、演劇用に作られた本なので、日本流にアレンジされて、日本の演劇界でもしばしば上演されている。当作品の演劇では、演出家が人種差別の問題に触れているかどうかは不明である。

テネシー・ウィリアムズは、自らゲイ(男の同性愛者)いう性的指向であることを公表し、彼の戯曲の中では、ゲイの夫を持ち、夫婦生活のない妻の苦悩を描いた「熱いトタン屋根の猫(Cat on a Hot Tin Roof:ピューリッツア賞受賞)」を発表している。
この作品はリチャード・ブルックスが監督したが、映画を観ると同性愛の描写より、父の重病によって兄夫婦と弟夫婦が父の遺産相続を巡って醜い争いになる描写の方に力点が置かれ、個人的な印象では、同性愛を描いているような作品には見えなかった。

テネシー・ウィリアムズは、複雑な家庭環境で育ち、精神障害者の実姉(ローズ)をイメージした「欲望という名の電車(A Streetcar Named Desire)」の戯曲に登場する虚言癖のブランチ(ヴィヴィアン・リー)に投影させ、ブランチの妹の夫で粗野なスタンレー(マーロン・ブランド)との鬼気迫る確執を描いた作品に、ピューリッツア賞が贈られた。

この映画は、1957年のアーカンソー州リトルロックセントラル公立高校(白人専用)にも、白人生徒と黒人生徒の融合教育化が進められることになり、9名の黒人生徒が通学が許可されたことに対して、州知事や白人父兄が融合化教育に反対して、州兵が黒人生徒の通学を妨害した時代である。
その頃のアメリカ社会が、「The Fugitive Kind」の時代背景になっている。

この映画の主役には、1954年公開の「波止場(On the Waterfront)」で、アカデミー主演男優賞を受賞して、一躍有名スターになったマーロン・ブランドに、1953年公開のジャン・ルノワール監督の「黄金の馬車(Le Carrosse d'Or)」で、旅芸人一座の主役カミーラを演じたイタリアの名女優、アンナ・マニャーニが共演している。
アンナ・マニヤーニは、ロベルト・ロッセリーニ監督の「無防備都市」で、ゲシュタポに背後から銃撃され、舗装道路上を走りながら転倒するシーンの演技が凄い。(多分、撮影で、両膝に大怪我したように思う)

二人とも、風貌と、仕草、喋り方に強烈な個性を持つ俳優で、二人の演技力には見応えがある。
なお、白人と有色人種の差別が顕著であった1957年当時のアメリカ社会と、56年後の2013年のアメリカ社会は同じではないことを念頭に置いて、この映画をご覧頂きたい。

主なキャスト

Valentine Xavier(ヴァレンタイン・ゼーヴィア:通称ヴァル。渾名はスネークスキン。酒場でギターの流しをするが、堅気になるため旅に出る)・・・Marlon Brando(マーロン・ブランド)
Lady Torrance(レディ・トーランス:ケチで嫉妬深いジェーブと再婚し、雑貨店を任せられ、面接に来たヴァルを雇う)・・・Anna Magnani(アンナ・マニャーニ)
Carol Cutrere(キャロル・クートレール:短気な色情狂の女で町の鼻摘み者だが、それは周囲に対するカモフラージュだった)・・・Joanne Woodward(ジョアン・ウッドワード)
Jabe Torrance(レディの亭主ジェーブ;癌で寝たきりで、店を妻のレディに任す。レディと結婚する前は自警団にいた秘密を隠す)・・・Victor Jory(ヴィクター・ジョリー)
Sheriff Talbott(保安官のタルボット:放浪者を拉致し、ワザと逃がして"脱獄犯”として射殺する恐ろしい保安官・・・R.G.Armstrong(R・G・アームストロング)
Vee Talbott(保安官の妻ヴィー:優しい女性だが、夫の仕事を残酷に感じ、罪滅ぼしに教会の絵を描くことが趣味)・・・Maureen Stapleton(モーリン・ステプルトン)
David Cutrere(デヴィッド・クートレール:キャロルの義理の兄で、元レディの夫。資産家クートレール家の長女と再婚して裕福な暮らし)・・・John Baragrey(ジョン・バラグレイ)

主なスタッフ

監督:Sidney Lumet(シドニー・ルメット)
製作:Martin Jurow and Richard A. Shepherd(マーティン・ジュロー、リチャード・A・シェファード)
原作:Tennessee Williams(テネシー・ウィリアムズ)
脚色:Tennessee Williams and Meade Roberts(テネシー・ウィリアムズ、ミード・ロバーツ)
撮影:Boris Kaufman(ボリス・カウフマン)
音楽:Kenyon Hopkins(ケニョン・ホプキンス)
美術:Richard Sylbert(リチャード・シルバート)
衣裳:Frank Thompson(フランク・トンプソン)
ヘヤー:Mary Rosche(メアリー・ローシェ)
メイク:Robert Jiras(ロバート・ジラス)
編集:Carl Lerner(カール・ラーナー)
画面と色:(ビスタサイズ1:1.66、モノクロ映画)
制作会社:(Jurow-Shepherd-Pennebaker Production)
配給:(United Artists
DVD製作:(20世紀 フォックス ホーム エンターテインメント ジャパン株式会社)

ストーリー

映画は、1957年頃のルイジアナ州ニューオーリンズ警察の留置所に拘留されていた、この映画の主人公、ヴァレンタイン・ゼーヴィア(ヴァル)が呼び出されて、取調室で警察官から逮捕される迄の経緯に付いての尋問を受けた。
それによって被疑者のヴァルが釈放か勾留延長かを決めるシーンからスタートする。

ニューオーリンズの繁華街で、スネークスキンと呼ばれた男が、酒場で暴れて警察に...。


尋問されている30歳のヴァルは、女が夢中になるセクシーなオーラを放つイケメンで、女にもてない男から嫉妬されるタイプだ。そんな男が、ニュー・オーリンズのバーで大暴れして、現行犯で捕まり、裁判まで拘留されていた。
バーで大暴れしたワケは、ソロのギター弾きで酒場を回る"流し"をやっていたヴァルは、食うのに困って、相棒にしているギターを質入れせざるを得なくなり、しばらくすると、それに値札が付いて売りに出され、腑甲斐無い自分にイライラして腹が立っていた。

ギターを取り戻す方法を遊び仲間のチャーリー・ファイヴ(チャーリーがボスの五人組)に話せば、「ギターが無くても、あるパーティーに出席するだけで金が貰える」というので、警察に検挙されるようなパーティーに行って、そこで暴れた。

ヴァルの言い分は、自分が店で暴れたのは悪意ではなく、商売道具のギターを質屋から取り戻したい一心だったので、仲間から貰った金で質屋からギターを取り戻せば、遊び仲間のチャーリーとは決別して、ニューオーリンズから立ち去り、堅気の仕事を探して定職に就く積もりだと取調官に話したら、情状酌量が認められ、ニューオーリンズから直ぐに出ることを条件に釈放されることになった。日米では、軽犯罪の刑事事件に関する司法制度が違うと思うが、この映画では、そのように描かれている。

チャーリーから貰った金で質入れしたギターを取り戻し、さらに、ポンコツ車も調達して、ニュー・オーリンズ市から出たヴァル(マーロン・ブランド)が、1957年当時は、人種偏見が根強いアメリカのミシシッピー州内陸部の小さな町にやってくる。
このシーンがタイトルロールのバックになる。
ミシシッピー州の入口には、「郷に入れば、郷に従え(ミシシッピー州に入れば、ミシシッピー州法に従え」と書いてある。

ヴァルがドライブしている中古車のエンジンの調子が悪く、しかも、雨漏りもする。
そこで、雨宿りさせて貰った家が、何と冷酷な極右の保安官、タルボットのオフィス兼住居で、妻のヴィーが一人で留守番していた。
夫のタルボットは、脱走した囚人のエディを捜索中だった。
この家の近くにはホテルやモーテルが無くて、寝る所がないので、留置所で寝泊まりした経験のあるヴァルは、平気でここの留置所に泊めて貰う。

ミシシッピー州の田舎でポンコツ車が故障して、保安官の家に宿泊するが...


保安官タルボットの妻、ヴィー


保安官の妻、ヴィーは、親切な世話好き女で、ヴァルの為にコーヒーを沸かし、自分の描いた絵(教会をモチーフにした無気味な絵)をヴァルに見せ、ヴァルが職を探していると聞いて、友人のレディが店長をしているトーランス婦人雑貨店に店員の口利きしてあげると約束する。
表の方で数匹の犬が吠え、数発の銃声が聞こえると、タルボットら3人の自警団が帰ってきた。ヴィーは悲しそうな顔をする。「エディは天国に行ったのね」。実は、ヴィーは囚われたエディがリンチにされそうなので、食事の時に、こっそりと牢屋を開けて逃がしたのだった・・・。

「流れ者に世話焼くな」と、妻を叱る保安官兼自警団の夫、ジョーダン・タルボット。


タルボット:「ヴィー、牢屋で寝ている奴は誰だ?」
ヴィー;「音楽家よ。ゼーヴィアさんよ。車が故障したらしく、泊めてあげたの」。
タルボット:「俺に何回も言わすな。流れ者なんかに、余計な節介をやくのはいい加減にしろ!」
部下A:「検死報告書には、何と書けばいい?」
タルボット:「逃亡未遂により射殺」。
部下B:「逃げる前に"洗礼"って紳士的だろ。天国から表彰されるぜ」。
タルボット;「ヴィー、何時だ?」
ヴィー;「午前1時45分」。
タルボット;「ヴィー、奴の名前は?」
ヴィー;「ヴァレンタイン・ゼーヴィアよ」
タルボット;「バカ、脱走した奴の名だ」
この会話は、後々に予期せぬ事態になる。

翌朝、ヴァルは、保安官の妻ヴィーと一緒にレディの店へ行った。
この日は、片足の不自由な亭主のジェーブ・トーランスが、癌腫瘍の摘出手術が済んで傷口が治り、病院から退院する日で、夫人のレディは忙しく、ヴァルは面接を受けるどころでは無かった。(この映画では、ジェイブの片足が不自由になった理由は明かされていない)

近所のお手伝いの婦人たちが数人集まって、雑貨店の開店準備中で、ヴァルがヒマを持て余していると、町のトラブルメーカー(厄介者)のキャロル・クートレール(ジョアン・ウッドワード)も店内に入ってきて、見覚えのあるヴァルを見た。

けばい化粧のキャロルは、気に入った男を追いかけ回し、貪欲にセックスを求める色情狂で、町の人々から付けられた渾名は、「ただ乗り」である。
但し、気に入らない男には体を触れさせず、近寄ると物を投げつけ、下品な罵声を浴びせる。

ヴァルは、婦人物雑貨店の面接に行くが店主が不在...キャロルから声を掛けられる


 

保安官から退去命令が出ていても平ちゃらなキャロル。ヴィーは、自分が描いた絵をジェーブに...。

 

ヴァルは、キャロルを無視したので、
キャロル:「女が、朝に靴のカカトを壊すと、夜までに命がけの恋をするんだって」と言って、履いていた片方の靴を脱いで、ヴァルに投げつける」。
ヴァルは、それをワザと無視した。
キャロル:「蛇皮(スネークスキン)さん、あたしを何で知らんふりするの?」
ヴァル:「知らない人だから」。
キャロル:「もー、あたしを知ってるくせに。あんたの秘密、バラされるの、怖いんでしょ?」
ヴァル:「ばらすって、何を?」
キャロル:「ちょっと、その(あんたが盗んだ)腕時計を見せてよ。それ、いとこのパーティーの時のロレックス・クロノメーターと同じ型だわ。
お互いに旧知の間柄って言うことよ。去年の大晦日、ニューオーリンズのバーで、あんたギター弾いてたわ。あの後、あたしに喋ったでしょ...付き合っている指圧師のこと、憶えてないの?」
保安官の妻、ヴィーが、返答に困っているヴァルを見かねて、キャロルの話に割り込んだ。「キャロル、この人は、もう廃業したのよ。これから、堅気になられるの」。

その時、店主のジェイブ・トーラントと夫人のレディが一緒に車に乗って病院から帰ってきた。

おばさんA:「ジェイブが帰って来たわよ。あんたたち、2階を覗いたりして、レディが怒るわよ」。
2階から近所のおばさんが二人、慌てて降りてくる。
おばさんB:「ここの家は、夫婦の寝室が別々だわ。それも、遠く離れているの?二人の仲、どうなっているのかしらねぇ」。

トーランスの店は街道沿いにある。1957年頃のアメリカも砂利道も多かったようだ。


「俺の許可無く、勝手に売り場のレイアウトを変えるな!」と、妻を叱る夫のジェーブ。


ジェイブが杖をついて店内に入ってくる。
おばさんA:「まぁ、ジェーブ、血色の良いこと。フロリダのリゾートで日光浴してきたみたいよ」と、リップサービスして持ち上げる
レディ:「みんなが、あなたの退院を祝って、御馳走してくれるって」。
ジェイブ:「そんなことより、お前、売り場の配置を替えたな。なぜ、靴売り場を奥に引っ込めたんだ?明日、誰かを雇って、元に戻すぞ」。
レディ:「いいのよ、あなたの店だから」。
ジェイブ:「それを、常に忘れるな!」と言って、知り合いの男たちに体を支えられながらジェーブは2階の寝室へ上って行く。

レディは一緒に上がって行かなかった。
レディ:「あの人、もう、2度と下には降りてこれないわ」。
おばさんA:「レディ、みんな、あんたのことを心配しているわ。これからジェーブは、自宅療養になるからね。(寝たきり介護のお世話が)大変よ。
ところで、ジェーブの手術は上手く行ったの?」

その時、天井から、杖を突(つつ)く音がする。ジェーブがレディを呼ぶ時は、いつも杖で床をノックするのだ。

ジェーブは節約家なので、自室に電話があるのに使わない。
おばさんB:「ここのご主人、床をノックして奥さんを呼んでいるわ・・・私なら無視するわ。犬じゃないって」と、呆れ顔。レディは2階へ行った。

キャロル:「ノックって、車がエンストする前触れの音よね。あたしの車、ノック(エンジンのノッキング)するの。あんた、機械物には詳しいでしょ」。
ヴァル:「俺は、ここで雇って貰えるかどうか、レディさんが面接してくれるのを待っているんだ。」
キャロル:「あたしの頼みも、仕事よ。」
ヴァル:「金になる仕事でなきゃ」。
キャロル:「あたしはクートレール家の令嬢よ。ちゃんとお金払うわよ。直ぐに診て欲しいの・・・ここの保安官から、”お前はふしだらで目障りだ”と言われて、町から立ち退きを命じられてんのよ」。
ヴァル:「お前は、ふしだらなのか?」。
保安官の妻ヴィー:「キャロルはね、露出狂で下品な娘よ」。
キャロル:「ヴィー、あたしのどこが下品なのよ。・・・蛇皮さん、気が変わったら来て。表に停めた車の中で待っているわ」。
保安官の妻ヴィー:「ゼーヴィアさん、あなたに忠告しておくわ。あの娘(こ)には近づかないように」。

キャロルが保安官と言い争っているので、ヴァルは、キャロルの車の調子を診てやる。


しばらくすると、店の外が騒々しい。
保安官のタルボットは、キャロルに怒鳴っていた。
「お前には、この町での運転を禁止した筈だぞ。まだ、運転しているのか?さっさと、この町から出ていけ!」
ヴァルは、保安官に口答えするキャロルを制し、「お前は黙ってろ。俺が運転する。だらしない両足をチェンジレバーからどけろ」。
キャロルはヴァルの命令には素直に従った。

二人は、近くのドライブ・インへ食事に行くが、キャロルは朝から少し酒が入っていて、店の電話を使ってコレクトコールで下らん話を長電話。ヴァルが取り上げると、キャロルは他の客からボトルを奪ってラッパ飲みして周囲に悪態を吐く。
店長が入店禁止にしているキャロルに気付いて、二人を追い出した。仕方なくドライブしながらの会話になる。

キャロル:「あんたは、自分の存在をアピールしたいって思わない?」
ヴァル:「そんなん、考えた事もない」。
キャロル:「あたしは、まだ若いし、みんなから注目されたいの。あたしを見て、あたしの主張を聴いて、感じて欲しい。あたしはね、狂信的改革論者なのよ。街頭で演説したり、州議会へ抗議文を書いたりしたわ」。
ヴァル:「へぇーっ!お前が・・・ウソだろ」。
キャロル:「あんた、例の"マッコイ事件"知ってる?白人の娼婦と寝た黒人が電気椅子送り・・・」。
ヴァル:「どこかで聞いたような気が・・・」。
キャロル:「そんな事で死刑になるなんて、おかしいでしょ。だから、一騒ぎしてやったわ。素っ裸(すっぱだか)で、じゃがいも袋を被って、町から10キロ離れた議事堂へ一人でデモ行進。途中で唾引っ掛けられたり、野次られたり、それでブタ箱入り。あたしの逮捕理由は、"ワイセツ浮浪罪"。

でもね、それは昔の話なの...今や、改革論者じゃなく、ただのワイセツ浮浪者。だから、世間の奴らに、人間その気になったら、どれだけワイセツになれるか見せてやるの。・・・こんな陰険な所とおさらばして、二人でこれからニュー・オーリンズに行かない?」
ヴァル:「冗談はよせ。Uターンはゴメンだ。俺はここで職探しだ。レディの店に戻る」。

「夜遅くに失礼します。保安官の奥さんから俺のこと聞きました?」


「今、雇う気は無いわ」と、レディに言われて、話を聞いて貰おうと考えるヴァル。

夜遅くにヴァルは、レディの店に戻った。呼び鈴を押さなくても入口の扉は開いていた。というのは、レディはジェイブの自宅療養の看護の世話で不眠症に罹り、病院の薬局で受け取るのを忘れた睡眠薬を配達して貰う為の電話だった。電話が済んで・・・、
ヴァル:「夜にお伺いして失礼します。保安官の奥さんから、俺の事を聞かれましたか?」
レディ:「いいえ、ヴィーからは何にも聞いてないわ。あなたは誰なの?私に何の用?」。
ヴァル:「俺は、ヴァレンタイン・ゼーヴィアという者です。今、仕事を探しているんです。」。
レディ:「今夜は寒いわ。もうすぐ配達が来たら、表を閉めるの。うちの店は、今すぐに、人を雇う考えはないわ。あなたを余所者だからと、疑っているのではないのよ」。

ヴァルは、自分の話を聞いて貰うために、蛇皮の上着を脱いでレディに掛けてやる。
ヴァル:「どうです?暖かいでしょ」。
レディ:「この服、蛇皮ね。なぜ、蛇皮なんか着ているの?」
ヴァル:「蛇皮は、俺のトレードマークなんです。ニューオーリンズで芸人をやってたんで。俺を憶えて貰うために目立つ服を」。
レディ:「蛇って冷たい感じがするけど、意外と暖かいわね」。
ヴァル:「実は、蛇皮が暖かいのでなく、俺の体温のせいですよ。俺の体温は犬並みに高いんです」。
レディ:「うちで働くには無理ね。体が暖かいというような人に肉体労働はね。もうすぐ上に行くわ。もう帰って」。
ヴァル:「困っているんです。行く当てがないんです」。
レディ:「あなたはまだ若いわ。自分の面倒は自分で見なさい」。
ヴァル:「俺は、電気の修理が出来るし、雑用でも、何でもします」。
レディ:「ギターは、どうするの?飽きたの?」
ヴァル:「ギターは、俺の人生の相棒です。二度と質入れしないように、定収入のある堅気の仕事をしたいのです」。
レディ:「そのギターにサインがあるわね?有名な人なの?」
ヴァル:「これは有名なギタリストのレッドベリー(Leadbelly:実在していた黒人音楽家)のサインです。12弦ギターの世界的名手です。彼はケンカで相手を殺し35年の実刑を受け、テキサスのシュガーランドの刑務所に入りましたが、州知事が、彼の音楽(作曲と演奏)に感動し、音楽ファンからの嘆願書もあって、2年の服役で釈放されたぐらいです。レッドベリーは不滅の名前なんです」。
レディ:「あんたって、おかしな人ね。いいわ、雇ってあげるけど、身分証明書か、前に勤めていた職場の照会状はあるの?」。

アメリカでは社員の退職時に、人物評価の照会状を渡さなければならない義務があるらしい。
ヴァルは、ズボンのポケットから折り畳んでクシャクシャになった照会状を開いて渡す。
レディは、それを声をだして読み上げる。
レディ:「当青年は、当社で3カ月勤務し、よく働き正直でしたが、遺憾ながら、奇妙な弁舌癖があり、よって、解雇にしました」。
ヴァル:「俺、初めて知りましたけど、照会状にそんなこと、書いてあったんですか?」
レディ:「そうよ、奇妙な弁舌癖で解雇って・・・笑っちゃうわ。あなたと話していて、そう言われるのが判ったわ。他人の評価って当てにはならないけど・・・。
あんたに、いいもの見せるわ。付いてきて」。

婦人雑貨店の奥は、広々した空の倉庫になっていた。
レディ:「この倉庫をリフォームして、酒場にするの。もうすぐ開店よ。夜の社交場として流行らすの。ここなら、あなたのギターが活かせるわ」。

レディは再び店内に戻り、引き出しから数ドルのお金を渡す。

「これで、晩御飯食べて。雇うには条件があるの。私に"変なこと"をしない事よ。それさえ守ってくれれば良い相棒になれそうだわ」。  

「人間は皮に包まれていても孤独なんです。だから手を握る」ヴァルから手を握られて驚くレディ。


それから、3週間後・・・、イケメンのヴァル目当ての中年女性客が口コミで増えて、トーランス婦人雑貨店が繁盛しだす。
中には靴を買うという口実でヴァルをしゃがませ、数種類の買いたい靴をヴァルに履かせて貰い、靴の爪先でヴァルの股間を突いて"逆セクハラ"する女性客もいる。
そんなある日、ジェーブは癌転移の痛みに苦しみ、床をノックして、寝ていたレディを呼んだ。

ジェーブ:「痛みが酷いんだ。そこの引き出しに、注射器とアンプルがある。俺の右腕にモルヒネ打ってくれ!」

レディは、アンプルに入ったモルヒネを注射器に入れることは出来たが、そこまでしか出来なかった。
レディ:「私には注射出来ないわ。看護婦を雇ってよ」。
ジェーブ:「何っ!注射も打てんのか。何も出来ん女だな。お前って奴は!貸せ、自分でやる」。
ジェーブは、震える手で、自分でモルヒネを打った。

レディ:「あなたは、私に何にも出来ないっていうけど、お店はちゃんとやっているわ」。
ジェーブ:「小僧、使ってか?」
レディ:「小僧じゃないわ。ヴァルは30歳よ」。
ジェーブ:「そいつを、何で、ここに連れてこんのだ。もう三週間も経ったぞ」。
レディ:「あなたが言わないから・・・」。
ジェーブ:「じゃ、今連れて来い」。
レディ:「寝間着を着替えたらね」。
ジェーブ:「本当は、寝間着姿を奴に見せたいんだろ・・・お前の魂胆は判っとる。俺が死んだら、若い男に乗り換える気だな。俺はそう易々と死なんぞ」と、久々にレディを抱こうとして、寝間着を引っ張ると乳房がポロリ・・・。
レディ:「ジェーブ、あたしに触らないで。虫酸(むしず)が走るわ」。

数日後、店内が騒々しい。
キャロルがニュー・オーリンズから車で帰ってきて、ガソリンを売らないスタンドに、自分の車を店にぶつけているというのだ。
戻ってきた理由は、ヴァルが恋しくて逢いたかったからだ。
キャロルがヴァルの勤めるレディの店に駆け込んだので、キャロルの義理の兄のデヴィッドがレディの店にやってきた。

レディ:「デヴィッド、あんたには、この店に出入り禁止と言った筈よ。なぜ来たのよ。妹さんのお迎えなら、別の人を寄越しなさい。つらい思いは、もう沢山だわ。私を棄てて金持ちになったあなたから、負け犬と思われたくないの」。

実は、キャロルの義理の兄デヴィッドとレディは、以前、結婚していたのだ。
レディの話を要約すると、
レディの父はイタリア移民で、ミシシッピーでブドウの果樹園と、ワイン醸造所を経営して成功していた。

ミシシッピー州には「禁酒法」が1966年まで施行されていたが、白人の飲酒にはお咎めがなく黙認されていた。同州では人種別結婚(白人と有色人種の結婚)が1987まで禁止されていたこともあり、1960年当時のミシシッピー州の禁酒法は、黒人や有色人種に対しての法律で、白人以外の飲酒は禁止されていたようだ。

ところが、レディの父は、黒人に同情して、自家製のワインを売ったので、冷酷な死刑執行人のタルボット保安官が率いる極右の自警団が州法を無視した理由で、みせしめに厳しい罰を科すため、ブドウ果樹園とワイン醸造所、そして家族の邸宅にもガソリンを撒いて放火し、消火に当たっていたレディの父は、ブドウ園で焼死した。

このとき、レディとデヴィッドは結婚していたが、デヴィッドは自分に自警団からの制裁が来るのを怖れてレディと離婚し、別の金持娘の家庭、クートレール家に婿入りしたのだった。
その時のレディは、デヴィッドの子を身籠もっていたが、臆病な夫と離婚したので堕ろし、父の借金を抱えて困っているところを婦人雑貨店を経営するジェーブ・トーランスに助けられたのだった。

このように、レディは好きでもないジェーブに買われて結婚したので、レディにはジェイブに対して恋愛感情なんかはない。
だから、寝室は別々。ジェーブはセックスレス生活で大不満なのだが、末期癌で体が不自由。そこへ、セクシーなイケメンのヴァルが店員としてやってきたので、ジェイブはレディの不倫を病床で悶々と妄想し、保安官のタルボットに電話して、2階の病室に呼ぶ。

タルボット保安官:「ジェーブ、何で、俺を呼んだんだ?」
ジェーブ:「仕事を頼みたい。下の店で働いている若造はどんな奴だ。
奴が来てから女房が幸せそうなので、変なことになっているかが気になるんだ。
お前のやり方で、奴をこの町から追い出すか、奴がここに留まるなら、お前の好きなようにして欲しい。礼は払うぞ」。

タルボット保安官:「追い出すのはまだ早い。エディが死んでから間が無い。こんな小さな町で死人がチョコチョコ出ると、俺は上(軍警察本部)に怪しまれる。お前は、奴をまだ見てないのか?自分で確かめろ」。

ヴァルのお陰で店が繁盛するのは良いが、妻の不倫を妄想して、ヴァルを追い出せと保安官に頼む



ジェーブから、二階の寝室に呼び出されたレディとヴァル。


エディは1階へ電話を掛ける。電話を取ったのはヴァルである。
ヴァル:「トーランス商店ですが・・・」。
ジェーブ:「お前とは未だ会っとらん。顔を見せろ」。
ヴァル:「どなたですか?」
ジェーブ:「貴様の雇い主だ。ここの2階のな」。

ヴァルが2階へ行こうとしたら、レディも一緒に来た。
ジェーブ:「やはり、(雇った看護婦から聞いた)ウワサ通りじゃな」。
ヴァル:「ウワサって何ですか?」
ジェーブ:「男っぷりがだ。売上も伸びたそうだな?」
ヴァル:「おかげさまで・・・」。
ジェーブ:「中年女の客が増えただろ。連中は金持ちだ。亭主からギュウギュウ搾り上げちゃ、無駄遣いする」。
タルボット保安官:「全く、その通りだ」。
ジェーブ:「レディ、お前じゃ、こうは売れん」。
ヴァル:「ご主人様、俺に何か用ですか?」
ジェーブ:「面(つら)を見たかったんだ。もう、いい。店に戻れ」。

レディは、店の車庫から自家用車を出して、ヴァルをドライブに誘う。どうしても見せたい場所があったのだ。
ヴァルを連れて来たのは、それは、レディの亡くなった父が開墾した果樹園の跡地だった。ワインガーデンの門柱はそのままだが、手入れがされていないので、雑草が生い茂って草茫茫である。

レディは、「ここは、昔、恋人たちのデートスポットだったの。
今の私は気苦労で、こんな顔だけど、昔は、きれいだったのよ。いい男からよく声を掛けられたわ。
父が丹精して作った葡萄棚があったんだけど、黒人にワイン売るヘマをやって、自警団の奴らに放火されたの。
父は毛布で火を消そうとしたけど、消防車も来ないし(隊員が自警団なので)、誰も消火を助けてくれないの。だから、町の奴らが共謀してやったんだと思うわ。それが憎いの。だから、父が失敗したワインバーを私が再建してあげるの」。

ある日、レディが、「ヴァル、あんたは店が終ったら、何処に泊まっているの?」と訊く。
ヴァル:「モーテルです」。
レディ:「良い方法があるわ。今から、貯金(マネー・セーブ)しない?」。
ヴァル:「貯金?どうやって?」
レディ:「お店には、ジェーブが手術前に看護婦がうちで当直していた小部屋があるの。そこを利用すれば、宿賃が浮かせるし、シャワーは、私が水道屋に電話して直ぐに取り付けてあげるわ。見てみる?」
レディは、小部屋に案内する。

壁にはなんと「女性ヌード」の絵が飾ってあるが、三面に窓が無く殺風景な洋室に簡易ベッドが一つ置いてあった。
レディ:「どう、気に入った?」
ヴァル:「ヌードの絵が気に入ったけど、こんな絵を見たら、寝付かれないよ」。
レディ:「あら、犬並みに体温があって、熟睡できるツボを知っている人が、ヌードの絵で寝付かれないって、だらしないわね」。
ヴァル:「なぜ、俺をここに泊めたいんですか?独りじゃ心細い?」
レディ:「うちが繁盛している噂が広まれば、用心しなければ。泥棒対策よ。主人はピストル持っているけど、独りじゃ起き上がれない」。

ヴァルを追いかけ回すキャロルは、レディの恋敵?


「俺、店辞めます」に焦るレディ。キャロルに対抗して、レディの衣裳がセクシーに...



ヴァルは、何となく仲の悪い夫婦の店で働くのが億劫になり、キャロルが言ってた「今のあんたは囚人服(店の制服)を着ている。ここに居てると危ないわ。あんたに似合うのは自由の服(蛇皮)しかないわ」と、忠告されたことも気になって店を辞める決意をするが、週給37ドルで毎日モーテル暮らしでは、貯金が出来なかった。

ヴァルにはイカサマの才能があるので、ドライブインのカジノで稼ぐことにする。
一旦閉めたレジを開けて前借りし、4〜5時間ほどドライブ・インのカジノでプレイして大儲け、店に帰ってレジを開け、前借りした金を返す。

真夜中にレジの音がしたので、レディが店に降りてくる。
レディ:「ヴァル、レジを開けて何しているの?店のお金を盗む気?」
ヴァル:「俺は閉店後にレジを2回開けました。一回目は、前借りの為、二回目は前借りした金を返済するためです」。
レディ:「何でそんなことを?」
ヴァル:「この店を辞めようと思ったんです。だから当分生きていくためのお金が必要だったんです。それをドライブインのカジノで増やしました。俺、明日辞めます。新しい子探して下さい。俺に失望しましたか?」。
レディ:「やっぱりね。そらっ、気心がようやく分かってきて、いきなり辞めると言われたら、失望するわよ。馬鹿げた話だわ」。
ヴァル:「俺も失望したんだ。チョット来て」。

ヴァルが寝泊まりするようになった小部屋には立派なベッドが置いてある。
ヴァル:「昨日の晩までは、こんな立派なベッドは、ここに無かった。俺にはお見通しだ。もう若くもない満たされない女が、二つの仕事をさせようと旅の男を雇った。残業手当も払わずに・・・。昼間は店員、夜はベッドの相手・・・図星だろ?」
レディ:「いやらしい」。
ヴァル:「それは、どっちだ?」

レジの音で2階から降りてきたレディだが、泥棒に備えた姿ではなく、キャミソール姿だった...


レディの頬に涙が流れ落ちる。
レディ:「ヴァル、辞めないで。あんたが必要なの。私が生きて行くのに...」大抵の男は、まだ色香が漂う女の涙には弱い・・・二人は抱き合ったままベッド上に倒れる。

レディは、ワインバーの開店に全力を傾け、ヴァルは開店準備で店内にモビールの飾り付けをしていた。
そこに亭主のジェーブが杖で階段を降りてくる。
ジェーブ:「お前の酒場をとくと見物だ。なかなかのモンだ。ド派手にやったモンだな。いくら、掛かったんだ?」
レディ:「僅かよ」。
ヴァル:「唄で稼いだんです」
ジェーブ:「イタ公(レディはイタリアからの移民の子)の唄でか?気風(きっぷ)の良さでは、恐れ入った。こいつの親父も気風が良かった。けどな、黒人に酒売って焼き殺された」。
レディ:「めでたい日に、そんな不吉な話止めてよ」。
ジェーブ:「俺たちはな、自警団の命令に従って、トラックにガソリンを満載して、こいつの親父が造った果樹園と密造所と酒場に乗り付け、焼き払った。消防車は一台も出動しなかった」。
レディ:「あんた、今、俺たちがやったって言ったわね。許せないわ !」
ジェイブ:「あぁ、言ったとも・・・あっ、イタタ。急に癌の痛みが」。

ジェイブが吐血したので、ヴァルがジェーブを2階の寝室へ担いでいく。父の殺人に加担したジェーブに憎悪が込み上げたレディは、夫が重篤でも医者を呼ばなかった。そして、付き添いの看護婦もクビにした。

怒った看護婦は、「レディ、あんたは妊娠しているでしょ?ジェーブの子でないのは確かだわ」。
ヴァル:「そんな、大事な事、なんで隠していたんだ?」
レディ:「女は初産から、かなり遠ざかって妊娠すると、そうだと確信できないものなの。看護婦さんに言われて、妊娠を確信したわ」。
看護婦:「めでたいから、酒場の新装開店セールに併せて町中に触れ回ったらどうですか?」

ヴァルは、店頭で今夜の開店準備をしていると、見覚えのある保安官の奥さんのヴィーがフラフラしてこっちに向かってくる。
「眼が見えないわ、眼がみえないわ」と叫んでいるので、ヴァルが助けに行くと、タルボットらの悪徳保安官三人に囲まれ羽交い締めにされた。
「お前を強姦未遂で逮捕する」というのだ。

タルボットは、ニヤッとして仲間二人を遠ざけ、ヴァルに忠告する。
タルボット:「ある町の入口には、でかい看板に忠告が書いてあるんだ。
”黒人よ、この町で太陽を沈ますな”って。
これは脅迫ではなく、ただ書いてあるんだ。いいか、お前は黒人じゃない。
だが、こういう文言の看板を想像してくれ。若造よ、汝、この町で太陽を昇らすな・・・日没じゃなく日の出だ。日没までとは言わん。
お前は、わが命を大切に思うなら、明日の日の出をこの町で拝もうと考えるな・・・それまでに立ち去れば、強姦未遂罪は消える。この町では暴力を好かんのだ。

ヴァルは、それをレディに伝えるが、レディは、今夜の開店準備で気が立っていた。
ヴァル:「レディ、俺はこの町から夕方までに出る。でないと自警団にリンチにされて殺されるんだ。保安官からさっき脅かされたんだ」。
レディ:「ウソでしょ。あなたは、ここを辞めて、ただ乗り(キャロル)と一緒に暮らすつもりなんでしょ。あの女を酒場の裏で待たせているじゃない。私のお腹の中にはあなたの生命が宿っているの。新しい人生の出発の日に私から離れるなんて、酷いわ...」。
ヴァルは責任を感じて、死を覚悟する。それは意外と早くやってきた。

末期癌で自暴自棄の夫は、幸せな妻と愛人に嫉妬して店に放火し、炎に包まれる二人


消防士が、何と保安官のタルボットと自警団!
逃げるヴァルに放水を浴びせて、炎の中にヴァルを追い込む...


酒場の天井を見上げると、ジェイブは酒場の天井に燃やした紙を投げつけて放火した。
酒場に飾ったセルロイドのモビールは火焔に包まれた。レディは怒って2階のジェイブの部屋に向かうと、銃を構えて待ち伏せしていたジェイブに銃撃されて、射殺される。
火事で消防車がやってきたが、消防士の隊員は何とタルボットら3人の保安官からなる自警団で、3人が持つ放水銃のターゲットは炎で無く、ジェイブとタルボットの目障りになっていた、”女が夢中になるヴァル”に一斉に浴びせられ、ヴァルは放水銃の水圧で紅蓮の炎の中に放り出されて、焼け死ぬ。

新聞には、何て書かれるのだろうか?タルボット保安官の記者発表が記事になる。恐ろしいことだ。

翌日の朝、キャロルは、火災現場でヴァルの遺体を焼け跡から探すが見つからない。キャロルと仲良しのインディアンの呪い師が火事の焼け跡から「蛇皮のジャケット」を見つけ、キャロルは一番大事な指輪を引き抜いて、彼が拾った蛇皮の服と交換し、形見になったヴァルの服を車に乗せてニュー・オーリンズへ独り寂しく去った。

キャロルは詩を詠んだ。
野獣は皮を残す
汚れのない皮と白い歯と白い骨を残す
流れ者は、それを目印に仲間を追って旅に出る

2013年6月6日 尾林 正利

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