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パッケージはカラーですが、映画はモノクロのビスタサイズ(1:166)です。

噂の二人

1961年公開 (日本では1962年公開)

The Children's Hour
Directed by William Wyler

社会的に影響力を持つ人が、誤解を招きやすい社会的なタブーに触れる発言は、聞いた人の悪印象が付加されて、他人へ伝播していく過程において、"話がどんどん作られて”回り回って自分に届き、自分の発言の真意が周囲に曲解されて伝わり、驚くものである。時には、取り返しの付かない災いや事態が発生する。口は災いの元なので、発言は慎重にしたいものである。

しかし、全く火のないところに煙は立たずで、社会的にタブーとされている事をやっているような疑いが、悪意の噂になって拡散するということは、そう思われても仕方がない原因が、噂になった当事者のどこかにあるワケだ。
これは、何も現代社会に始まったものではなく、1934年に遡る。

アメリカの女流作家のリリアン・ヘルマン(Lillian F.Hellman)が1934年に書いた「The Children's Hour(子供の時間)」という戯曲(ぎきょく:演劇用の脚本)と、それを映画用の脚本に自らリライトした「この三人(These Three)」が、ウィリアム・ワーイラー監督によって、2度(1936年:日本では非公開と、1961年・日本公開は1962年)も映画化された。
1961年の映画用脚本はリリアン・ヘルマンではなく、ジョン・マイケル・ヘイズ(John Michael Hayes)が脚色した。

この原作と映画のテーマが、カトリック教会の戒律に反する内容(不倫や同性愛を扱う演劇や映画)だったので、公にするにはオリジナルの戯曲が過激過ぎたのか?2回も書き換えられたらしい。
アメリカの保守的なカトリック信者が多いコミュニティーでは、信徒の寄付で運営している教会は、結婚した信徒に子作りを奨励し、信心深いカトリック教徒を増やすことが第一の目的なので、不倫とか、子供を作らないレズやゲイの同性愛はタブー視されており、一旦、不倫したとか、同性愛者として疑われると、地域の人々から白い目で見られてしまう。
主婦の不倫が原因で、地域のコミュニティーから村八分にされる例は、フィクションであるが「ライアンの娘」や「マディソン郡の橋」の中でも描かれている。

現代では、ゲイとかレズという言葉がインターネットで飛び交っているが、昨今のフランスなどでは、カトリックの国なのに、子供を作らない同性間の結婚が認められるようになり、正式な結婚で無くても、PACSという事実婚:入籍無しの民事連帯契約の婚姻が可能になったが、やはり、事実婚でも役所に書類の届出が必要らしい。
フランスでは、とくに正式に結婚した夫婦が離婚する場合は、役所への手続きや審査が非常に煩雑なので、PACS申請のヤングカップルが激増している。

さて、「The Children's Hour(子供の時間)」という映画だが、日本では「噂の二人」という題名が付けられたが、この方が観客には理解しやすい。
この映画を初めて観たのは、我が家のテレビがモノクロだった1970年代に放映されたものであったが、さすがに、巨匠と呼ばれる通り、ウィリアム・ワイラー監督の演出が素晴らしく、1962年の公開当時は、世間のタブーになっていた同性愛について真正面から問題提起した、なかなか良い作品だった。

ところで、リリアン・ヘルマンという女流作家は、(内縁の)夫でハードボイルド作家のダシール・ハメット(Dashiell Hammett)と同じく、左翼思想家で、1951年〜1954年に徹底的に取締りが行われた米議会下院の非米活動委員会による”赤狩り(共産党員追放)”で、当局から容疑を掛けられた二人は、別々に裁判所から証人喚問を受け、証言を拒否したハメットは法廷侮辱罪で収監され、所得税の滞納もあって、保釈金に用意していた印税収入が没収された。ヘルマンには有能な弁護士が付いて無罪釈放になったが、リリアン・ヘルマンの名は、非米活動委員会が解散する迄、ブラックリストに記載された。

映画作家のウィリアム・ワイラーは、裕福な家庭で育ち、上流社会の伝手で映画界に入った人で、共産主義者ではないが、映画製作における表現の自由を求めてハリウッドでの"赤狩り"政策に反対した。ハリウッドでリベラル派の俳優のグレゴリー・ペックや女優のキャサリン・ヘプバーンも赤狩りに反対した。

ワイラーは、映画の製作に政治の圧力が掛かるハリウッドを離れて、グレゴリー・ペックと一緒にローマで映画を撮ることになった。それが、「ローマ休日」だった。
オードリー・ヘプバーンよりも年上の、大女優のキャサリン・ヘプバーンもイタリアのヴェネツィアで、デヴィッド・リーン監督の"旅情"に出演していた。

ワイラーが超大作の「ベン・ハー(1959年公開)」の次に撮った作品が、「噂の二人」である。
噂の二人とは、カレン・ライトとマーサ・ドビーの仲の良い二人の女教師が、学校をやめたいワガママ生徒によって、街で影響力のある祖母に、「二人の関係は異常」だと告げ口されたことで、二人は同性愛者のレッテルが張られて、学校は休校に追い込まれる。
カレン役には「ローマの休日」の大ヒットで、世界のトップ女優になったオードリー・ヘプバーン。マーサ役には、「アパートの鍵貸します(1960年)」で、一躍大女優になったシャーリー・マックレーンが起用された。

この映画の原作は、第二次世界大戦前の、1934年(昭和9年)に書かれ、その頃のアメリカの上流社会が背景になっているが、1961年公開のリメイク作品では1960年当時のアメリカ保守的な中流社会が背景になっていて、当時に使われていた,フルサイズのアメ車が映画に登場する。
この映画は、女性の同性愛を扱った作品なので、映画製作の許可が下りるまで当局との交渉に時間が掛かったが、映画倫理機関の審査の結果、同性愛という台詞は認められ、映像で性的な描写をしなければ,「噂の二人:The Children's Hour」を製作しても良いということになった。

主なキャスト

Martha Dobie(マーサ・ドビー:学校経営の仕事一筋で、28歳なのに男性との恋愛経験がない)・・・Shirley MacLaine(シャリー・マックレーン)
Karen Wright(カレン・ライト:寄宿学校の先生で、名家の産婦人科医のジョーと交際し、結婚を決意した途端に波乱が起きる)・・・Audrey Hepburn(オードリー・ヘプバーン)
Dr.Joe Cardin(ジョー・カーディン:地元出身の勤務医。ティルフォード夫人の甥っ子)・・・James Garner(ジェームズ・ガーナー)
Lily Morter(リリー・モーター:マーサの叔母、フリーの舞台女優で、学校の仕事も手伝う)・・・Miriam Hopkins(ミリアム・ホプキンス)
Ameria Tilford(アメリア・ティルフォード夫人:地元の名士で、女学校のPTA会長)・・・Fay Bainter(フェイ・ベンター)
Mary Tilford(メアリー・ティルフォード:ティルフォード夫人の孫娘。わがままで悪賢い)・・・Karen Balkin(カレン・ボールキン)
Rosalie Wells(ロザリー・ウェルズ:盗みをメアリーに知られ、メアリーの家来になる)・・・Veronica Cartwright(ヴェロニカ・カートライト)
Evelyn (イヴリン:学校の寄宿舎で、ルームメイトのメアリーに盗み聞きした話を教える)・・・Mimi Gibson(ミミ・ギブソン)
主なスタッフ

監督:William Wyler(ウィリアム・ワイラー)
製作:William Wyler(ウィリアム・ワイラー)
原作:Lillian Hellman(リリアン・ヘルマン)
脚色:John Michael Hayes(ジョン・マイケル・ヘイズ)
撮影:Franz Planer(フランツ・プラナー)
音楽:Alex North(アレックス・ノース)
美術:Fernando Carrere(フェルナンド・キャリーア)
衣裳:Dorothy Jeakins(ドロシー・ジェイキンズ)
ヘヤー:Joan St.Oegger(ジョアン・セントエッガー)
メイク:Emile Lavigne, Frank McCoy(エミール・ラヴィン、フランク・マッコイ)
編集:Robert Swink(ロバート・スウィンク)
画面サイズと色 モノクロ、ビスタヴィジョン(1:1.66)
制作会社:Mirisch Campany
配給会社:United Artists Entertainment L.L.C.
DVD制作・販売:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン株式会社

ストーリー

カレン・ライト(オードリー・ヘプバーン)と、マーサ・ドビー(シャーリー・マックレーン)という28歳の女性は、17歳のハイスクール時代から大の仲良しで、11年間もいつも一緒だった。
女学校の教師になる共通の夢を実現するために共同出資して、私立の寄宿制女学校「Wright-Dobie School for Girls(ライト・ドビー女学校)」を創立して学校経営し、地元の良家の子女を集めて教育し、父兄たちから信頼を得ていた。




しかし、二人は、教育熱心な余り、思春期に近い女生徒への躾が厳しいため、ライト先生やドビー先生に反抗する子もいた。
学校の生徒数や規模は、20名余りほどの女子児童を月曜の朝から土曜の夕方まで預かる学校であるが、寄宿学校なので、教室、職員室、校庭(運動場や花壇)、駐車場の他に、生徒が使う寮設備や食堂、シャワー室、職員の私室も完備した、小学生用の女学校だ。

カレンは、ファッショナブルな美人で、地元の病院に通う勤務医のジョー(ジェームズ・ガーナー)と結婚を前提とした交際を始め、2年も経つ。
マーサは、カレンと同じ28歳なのに、過去に男性と付き合った経験はなく、仕事一筋の女性である。マーサの楽しみは、寄宿学校の仕事と、週末に大好きなカレンと一緒に過ごすことであった。
女が女を好きになって、愛を独占しょうとする・・・これが、後々にスキャンダル(醜聞=良くないウワサ)を生むことになる。

学校経営がようやく黒字経営になって、軌道に乗り始めた時期になって、カレンは自分にも子供が欲しくなり、ジョーとの結婚を決意する。
カレンが結婚すると、マーサは、週末に大好きなカレンと一緒に過ごすことができなくなり、カレンをずーっと独占したいマーサは、ジョーに嫉妬して、冷淡にあしらうようになる。




カレンからジョーとの結婚話を打ち明けられてからのマーサは、情緒が不安定になり、ジョーだけではなく、カレンや叔母のリリーにも怒りっぽくなる。
ある日、ジョーとのデートが済んで学校に戻ってきたカレンは、乾かした洗濯物をアイロン掛けしていたマーサに話した。
カレン:「マーサ、ジョーと結婚する日を決めたの。今度の休暇中にするわ」。
マーサ:「あら、急だわね」。
カレン:「彼が急ぐのよ」。
マーサ:「分かるわ。おめでとう」。
カレン:「ここで式を挙げるの。校庭はちょうど花盛りよ」。
マーサ:「それで、私たちお別れね・・・」。
カレン:「何言ってるの。結婚しても、今まで通りここで働くわよ。ジョーも賛成よ」。
マーサ:「(結婚すれば)あなたの生活が変わるし・・・もう、今まで通りにはならないわ。分かっているくせに」。
カレン:「マーサ、ここを辞める気はないわ」。
マーサ:「何なのよ!さんざん苦労してやっと実ったと思ったら、放り出すのね」。
カレン:「じゃ、私に結婚するなと言うの」。
マーサ:「違う。そうじゃないの。身勝手なこと言ってしまったわ。許して頂戴」。
カレン:「いいのよ」。
マーサ:「疲れたわ。もう、休みましょ。朝食の当番は誰?」
カレン:「私よ」。
マーサ:「カレン、私はいつもあなたの幸せを願っているの」。
カレンは、マーサの頬にお休みのキスをして私室に行く
この様子を、わがままで、ずる賢い女生徒のメアリー(カレン・ボールキン)が、夜中にこっそり起きてきて壁に隠れ、二人の会話を盗み聞きしていたのである。


この学校には、リリー・モーターという先生もいる。マーサの叔母に当たる人で、自称女優として名乗っている。デトロイトやサンフランシスコの芝居小屋を渡り歩く、端役の舞台俳優である。
金欠になると、学校に戻ってきて、女学校の空き部屋に泊まり、給食の皿洗いなどの手伝いをしているが、口達者だけで手が動かず、仕事の役に立たない。
マーサは、当面の生活費を渡すから、邪魔者の叔母に、早く自活して欲しいと告げる。

マーサの叔母が、「あんたは異常だわ!」



「モーター先生は、ドビー先生に異常だって言ってたわ!」


「へえーっ、ドビー先生とライト先生の仲は、普通じゃないのね。」


マーサが叔母のリリーと言い争っているところをロザリーと同部屋のイヴリンらがドアの向こうで立ち聞きし、それをメアリーに話した。
イヴリン:「メアリー、ねえねえ聞いて。ドビー先生が、モーター先生に出て行けって言ってたわ」。
メアリー:「なぜ、追い出すの?」
イヴリン:「ライト先生が結婚するからよ」。
メアリー:「それが、何か?」。
イヴリン:「ドビー先生は、ライト先生の結婚には反対らしいの」。
メアリー:「なぜ、反対なの?」
イヴリン:「私には分からないわ。モーター先生は、"嫉妬”だって・・・子供の頃からそうだと言ってたわ。ライト先生を独り占めするのは異常だって。それを聞いたドビー先生は、モーター先生に怒鳴ったの」。
メアリー:「異常って、どういうこと?」
イヴリン:「普通じゃ無いってことよ。そこで話が終わったの」。

わがままで、ずる賢いメアリーの頭には、二つの会話を一つに整理すると、ある推理が浮かび上がってきた。メアリーはよく叱られるライト先生から罰を受けた時に、二人の秘密をPTA会長の祖母に暴露して、学校をさぼる口実に利用しょうと考えた。

数日後、モーター先生が学校から去るので、お別れの挨拶もあって、ライト先生が授業する教室の前にいた。メアリーはワザと遅刻した。校庭のゴミ箱に捨ててあった、まだ使えそうな花を拾って教室に入る。
メアリー:「モーター先生、学校を辞めるんでしょ。お花摘んできました。プレゼントよ」。
モーター先生:「メアリー、よく気が付くわね。今日の遅刻は許しましょう」。




そこへ、カレン(ライト先生)が入って来る。
ライト先生:「メアリー、その花はどこで摘んできたの?」
メアリー:「近くの湖です」。
ライト先生:「それと同じ花が、さっきまで校庭のゴミ箱にあったわ。なぜ、そんなウソを吐(つ)くの」。
メアリー:「ウソを吐(つ)いてません」。
ライト先生:「メアリー、私に不満があるのなら言いなさい。相談に乗ってあげるわ」。
メアリー:「私は、湖の近くでその花を摘みました」。カレンを睨み付ける。
ライト先生:「(強情な子ね)いいわ。お仕置きです。今日から週末まで、休憩時間は一人で、水泳は禁止、外出もダメです」。
メアリー:「土曜日も?」
ライト先生:「そうよ」。
メアリー:「土曜は、ボートレースの日だわ」。
ライト先生:「外出禁止です」。
メアリー:「私ばかり叱って・・・(PTA会長の)おばあ様に言うわよ。」。
ライト先生:「さぁ、部屋に戻りなさい」。
メアリー:「あぁ、気分が悪い・・・苦しい・・・胸が痛い・・・こんなの初めて・・・心臓が止まりそう・・・息が止まりそう・・・苦しい、助けて」。

カレンは、メアリーが見え透いた仮病を使っているのを承知しながらも、恋人の医者ジョーに電話して、往診に来て貰う。ジョーは、地元名士のティルフォード家とは親戚関係だ。
ジョーは、急いでやってきた。
ジョー:「重病患者は何処かな」。
マーサ:「2階の部屋にいるわ」。
ジョー:「マーサ、今度の休暇に、ここで結婚式挙げるのをカレンから聞いた?」
マーサ:「ジョー、言っておくけど、結婚式で、私への白々しい励ましや、哀れみは真っ平よ。それより、メアリーは厄介な子だわ。あんた、メアリーと親戚でしょ。何でティルフォード夫人に注意できないの?」
ジョー:「親戚っていっても、半年に一回ぐらいしか会わないし、そんなに親しくはないよ。最近の君は、どこか変だよ。メアリーを診てくる」。

しばらくすると、カレンとジョーは部屋から出てきた。
カレン:「マーサ、天使が息を吹き返したわ。メアリーの部屋を入れ替えるわ」。
メアリー:「私の部屋が替わるの?・・・ライト先生は、いつも私ばかり叱って!」
ジョー:「カレン、メアリーの診察代を」
カレンはハンドバッグを持って、玄関から外に出て、マーサに気付かれないように、ジョーと熱いキスを交わす。カレンとマーサに気遣うジョーも大変だ。

メアリーは、どうしてもボートレースの行われる土曜日に帰りたかったので、盗癖のあるロザリーが級友のヘレンのペンダントを盗んだことを口実に、ロザリーをカツアゲして、2ドル75セント(990円:1960年のレート、当時の大阪ではタクシー初乗り運賃が80円)をせしめ、学校からタクシーで自宅に帰ってしまう。


ロザリー、友達のペンダント盗んだでしょ。
おばあ様に話せば、感化院行きよ。口止め料に2ドル75セント出しなさい!


学校をサボったメアリーを見て、祖母(ティルフォード夫人)はメアリーを叱った。しかし、手の掛かる孫ほど、祖母にとっては可愛いのだ。
祖母のティルフォード夫人は、週明けの月曜日に、運転手付きの自家用車でメアリーを学校へ連れていく。
車内で、メアリーは自分の都合の良いように脚色した話を祖母に打ち明ける。

メアリー;「ごめんなさい、おばあ様。悪気は無かったの。許してね」。自分の顔を祖母の頬ににすりすりして甘える。
祖母:「なぜ、学校をずる休みしたりするの?」
メアリー:「前にも言ったでしょ。先生が怖いの。先生に憎まれているの」
祖母:「憎まれる・・・まさか」。
メアリー:「何かある度に叱られるの」。
祖母:「それは、あんたの思い過ごし(考えすぎ)です。お二人は立派な教師ですよ」。
メアリー:「おばあ様は、毎日学校に通って無いから、ご存知ないだけよ」。
祖母:「何か、あったの?」
メアリー:「この前ね、職員室で先生同士の言い争いがあったの。ドビー先生とモーター先生よ。盗み聞きのせいで、仲良しのイヴリンと別々に部屋を替えられたの」。
祖母:「人の話を盗み聞きしちゃダメ。止めなさい。あんたが部屋を替えられたのは、当然だわ」。
メアリー:「私の部屋が職員室から遠ざけられたのには、理由があるの」。メアリーはイヴリンから聞いた話を自分が聞いたように話しする。
祖母:「誰にも、秘密があるわ」。
メアリー:「それが変な秘密なのよ。モーター先生がね、ドビー先生に言ったの。ライト先生が結婚するので、ドビー先生が妬いているって。そうしたらドビー先生が怒って、モーター先生を辞めさせたの」。
祖母:「馬鹿げた話はおよし。ドビー先生は、ライト先生に嫉妬する筈がありません」。
メアリー:「おばあ様、そうじゃないの。ドビー先生は、うちの親戚のジョーに嫉妬しているのよ」。
祖母:「あんたが言っている意味が、私にはよく分からないわ」。
メアリー:「モーター先生は、それを普通じゃないと言ったの。ドビー先生は子供の頃からそうだって・・・それで、モーター先生が追い出されたの」。
祖母:「そんなワケがないわ」。
メアリー:「本当よ。ドビー先生は、ジョーが学校に来る度にいらつくらしいの。うるさいって・・・」。祖母は、甥のジョーがマーサに冷たくされていることに怒りを覚える。

 

メアリーは、祖母に「ドビー先生とライト先生は恋人同士みたいだわ」と、話す。


ここから先は、メアリーが考えた作り話である。
メアリー:「私の部屋はドビー先生の近くよ。夜遅くドビー先生の部屋に行くと、毎晩のようにライト先生が居るの。そして、変な音が聞こえるの。ドアが開いていて二人を見たの。キスしているところを・・・(メアリーが見たのは、カレンがマーサの頬にした、お休み前の軽いキスだったのだが、メアリーは恋人同士の男女のキスのように大袈裟に話した)」
祖母:「メアリー、その話をお止め」。

祖母(ティルフォード夫人)は、学校の入口で車を停車させ、メアリーを車内に置いて、一人で校舎に入って行く。"異常"なドビー先生と話し合う為だったが、玄関では学校を追い出されたマーサの叔母、リリー・モーターが旅の荷造りをしていた。
叔母のリリーは、「口は災いの元」の格言を知らない女で、誰にでも身内の内情をペラペラと軽率に喋り、ティルフォード夫人に愚痴をこぼす。

ティルフォード夫人は、マーサの叔母に会って「姪御さんは異常ですか?」と、訊いた。


マーサの伯母は、荷造りしながら...
叔母のリリー:「私に良い役が回って来たのを断って、ここへ手伝いに来たのに、御祓箱よ。あの子のために、私の青春を台無しにしたっていうのに、恩知らずにも程があるわ」。
ティルフォード夫人:「モーターさん、あなたは、姪御(マーサ)さんに何か妙なことを仰っていたようね。異常だとか・・・」。
叔母のリリー:「そうよ、全く異常だわ。マーサは、今年で28よ。普通なら、夫か恋人が居ても当たり前の年齢だわ。でも、あの子は違うの。男が好意を持っても知らんふり。興味の対象は、ここの学校とカレンだけ。28の女が他人の子の面倒ばかり・・・夜中まで働き詰めて、楽しみはカレンとの休暇だけよ。カレンの結婚が決まってから、マーサは私に当たり散らすのよ。"女の友情"かしら。私にも女友達が居るけど、あれは異常よ」。

リリーの話が終わり掛けた時は、ティルフォード夫人は乗ってきたクルマに向かって歩いていた。
車に戻ってきた祖母を見たメアリーは、「おばあ様、先生は、私のこと何て言ってたの?」
祖母:「メアリー、もう、あの学校には行かなくていいの」。
メアリー:「やったー!世界一すてきなおばあ様だわ」。
祖母は運転手に、「(PTA副会長の)アンダーソンさんの家に寄って」。

その1時間後には、生徒の父兄の車が学校にどんどんやってきて、生徒を連れ戻しにやってきた。そして退学させていった。
カレンとマーサは、何でそうなったか、心当りが分からない。
カレンは、生徒が急に退学していく理由を紳士的なバートン氏に訊いて見た。

それは、ライトとドビーの二人の先生は恋人同士・・・つまり、女性の同性愛者(レズビアン)だという事だった。
・・・先生がレズであれば、思春期の女生徒に悪影響を及ぼしかねない・・・情報発信元はティルフォード夫人らしい。

カレンは、メアリーから、「私を叱ると、おばあ様に言うわよ」と、お仕置きの前に言っていたのを思い出した。カレンに対する復讐であった。
メアリーの悪意のウソに、カレンは身震いした。

ティルフォード夫人は、親戚のジョーを自宅に呼んだ。ジョー・カーディンは産婦人科医院に勤めていた。
ジョー:「最近は結婚ブームで、産婦人科医は忙しいんだよ。忙しい僕に何か用があって呼んだんだろ。体の具合のこと?」。
ティルフォード夫人:「私の体は大丈夫。・・・どう、切り出していいのか?ジョーには、言い難いことなの」。
ジョー:「あなたのような、ズバズバ言う人が、言い難いって、何なの?」
ティルフォード夫人:「カレンとは婚約して何年?」
ジョー:「2年だよ」。
ティルフォード夫人:「カレンはまだ決心がつかないの?」
ジョー:「問題は学校だ。軌道に乗るまではね。マーサのことも・・・でも、片が付いて、いよいよ結婚するんだ。おめでとうは?」
ティルフォード夫人:「ジョー、わたしのアドバイス(忠告)よ。カレンと結婚しちゃダメ」。
ジョー:「えぇーっ、なぜ?」

そこへ、カレンとマーサが乗り込んでくる。
ティルフォード夫人:「何のつもりなの。ここに来るとは?」
ジョー;「一体、何があったの?」
マーサ:「聞いてないの?」
ジョー;「学校で、何かあったのか?」
カレン:「もう、学校はないわ。子供たちが全員帰ったの」。
ジョー;「なぜだ?」
カレン:「バートンさんが教えてくれたの。マーサと私が恋人同士だって言うのよ。ティルフォード夫人から聞いたって」
ジョー:「アメリア、本当なのか?」
ティルフォード夫人:「本当よ」。
カレン:「信じていらっしゃるの?」
ティルフォード夫人:「もう、恥ずかしいこと、何回も言わせないで。お引き取りを」。
カレン:「こうなった以上は、名誉毀損で、ティルフォード夫人を訴えますわ」。
ティルフォード夫人:「よく、そんなことが言えるわね。(同性愛を禁じる)法律を知らないの?・・・公になれば、あなた方は世間の恥さらし。止めた方が賢明だわ」。
カレン:「もう、とっくに公になっているわ」。
ジョー;「アメリア、一方的に突っ張るのは良くない。二人の言い分を聞くチャンスを与えるべきだ」。

メアリーは、「ドビー先生とライト先生は恋人同士みたい」を繰り返す


ティルフォード夫人は、渋々メアリーを呼んで、話させる。
ジョー;「メアリー、話があるんだ。誰でもウソを吐くことがある。ぼくも、ウソを吐いてきた。しかし、吐いたウソを後から取り消したい時も何度かあるんだ。もし、君に過ちがあるのなら、この機会に改めるんだ。責めはしないよ。先生方について、おばあ様に話したことは本当なの?」
メアリー:「もちろんよ」。
ジョー:「メアリーは、なぜ、先生を憎むんだ?」
メアリー:「私が嫌われているの。叱られてばかりよ。 友達(イヴリン)が盗み聞きしたのを私のせいにしたの」。
カレン:「ウソだわ」。
ジョー:「友達から何を聞いた?」
メアリー:「モーター先生が、ドビー先生は変だって・・・ライト先生のことでよ。異常だって言ったわ」。
マーサ:「リリー叔母さんの言葉は、ただの嫌がらせよ」。
ジョー:「メアリー、異常という意味は知ってたの?」
メアリー:「知らないわ。でも、夜遅くにライト先生は、ドビー先生の部屋に行くってウワサよ。静かにしていたら変な音がしたの。ドビー先生の部屋を鍵穴から見ていたら、ライト先生とキスしていたの(※カレンがマーサに結婚の日取りを話した日で、二人がケンカした日で仲直りのキス)」。
マーサ「メアリー、あの部屋には鍵穴はないわ」。
メアリー:「じゃあ、ライト先生の部屋かも」。
カレン:「私の部屋も鍵穴はないわ」
ジョー:「なぜ、鍵穴から見たと?」
メアリー:「混乱したのよ。怒鳴るから」と泣き出す。
ティルフォード夫人:「メアリー、本当のことを言いなさい」。
メアリー:「それは、ロザリーが見たのよ。彼女に聞いたの。ロザリーに聞いてよ」。

ティルフォード夫人は、家政婦のアガサにロザリーを呼んでくるように命じる。ロザリーが1階に降りてくる。
ティルフォード夫人:「ロザリー、あなたは先生たちのウワサを知っていたそうね?」
何も知らないロザリーは、「何の話なの?どんな、ウワサ?」

メアリーは、ロザリーの前に立って、家来にしたロザリーを睨み付ける。
ティルフォード夫人:「メアリーが、学校で困ったことがあるというのよ・・・ロザリーはどうなの?」
ロザリー:「算数が困るんです。わたし頭が悪くて」
カレン:「ロザリー、算数の話とは違うのよ。メアリーの話によると、あなたは、私が何かをするのを見たと言ったそうね。夜ドアが開いて見えたと」
ロザリー:「言いません。ウソです」。
メアリー:「ヘレンのペンダントが盗まれた日のこと、あんた覚えてないの?犯人が見つかったら、警察に逮捕されるってよ」。
メアリーに忠誠を誓ったロザリーは泣き出す、ロザリーは事情が分からずに、「言いました。本当です」。

二人の起訴は、裁判で負けた。その原因は、二人の関係を異常だと言い触らした叔母の証言が無かったからである。
しかし、裁判に勝ったとしても、一旦、テレビや新聞に報道されれば、二人に貼られた同性愛者のレッテルは、もはや剥がすことが出来ない。二人は、学校を棄てて、ここから遠く離れて暮らすしか、生きていく道は無い。

そんな時、叔母のリリーは文無しになって帰ってきた。マーサはカンカンである。
マーサ:「あんたに、電報送ったでしょ。何で、裁判所に来て証言してくれなかったの?」
リリー;「舞台に穴を開けることは、女優には許されないわ。あんな不名誉な事を騒いでもしょうがないわよ。気持ちは分かるけど、これからは力になれるわ」。
マーサ:「明日、8時の汽車に乗って、何処かへ行ってよ。私たちは、あんたにずーっと食い物にされてきたわ」。
リリー:「よく、そんなことが言えるわね」。
マーサ:「あんたが憎いからよ。ずーっと憎かった」。
リリー:「罰が当たるよ。汽車の時間まで2階にいるわ」。

ジョーが入ってくる。
リリー:「ジョー、あなたは律義な人ね。あんなことがあれば、大抵の男は逃げるわ。カレンは幸運ね」。
ジョー:「叔母さんの証言が必要な時に帰って来ないで、何で、今頃になって、叔母さんはのこのこと戻ってきたんだ?」
マーサ:「文無しなの」。
ジョー:「同情は止せ。金で追い払おう。このままでは皆がダメになる。ぼくは家を売ったんだ。三人が力を合わせて、新しい土地で再出発しょう」。
マーサ:「私はここに残るわ・・・今から夕食の支度をするわ」。
マーサは炊事場へ行った。

マーサがいないので、カレンはジョーにキスを求めた。 しかし、ジョーは一瞬、躊躇ってしまった。カレンはショックだった。
カレン:「ジョー、なぜキスを躊躇うの?一つだけ訊いていい?あなたは私たちの関係をどう思っているの?正直に答えて」。
ジョー:「少しは、(噂で、結婚を)迷った」。
カレン:「私はジョーを愛しているけど、結婚は一生よ。迷いがあって結婚すれば、そこが綻びの元になるわ。これからの人生は別々に暮らしましょ」。
ジョーは、悲しんで帰っていった。 というのは、医師のジョーは、カレンと婚約していたので変態と見られ、地元に病院から解雇されていたからである。

マーサは料理を運んできた。
マーサ:「ジョーは、どうしたの?」
カレン:「もう、戻らないわ。おそらく、ずーっとよ」。
ここから、この映画の核心に入る。

マーサ:「私は、友達として、あなたを愛しただけよ。別に悪い事じゃないし、ごく自然でしょ。17歳の時、あなたと知り合ってから、ずーっと。・・・あなたがロングヘヤーを風に靡かせて颯爽と歩く姿に、一目惚れしたわ」。
カレン:「なぜ、そんなことを」。
マーサ:「あなたをずーっと愛しているからよ」。
カレン:「私もよ」。
マーサ:「でも私の愛は、あなたのような純愛ではなくて、皆がウワサしていたような意味の愛かも知れないわ・・・そんな風にあなたを愛していたのよ。白状すると、あなたの結婚がイヤだったの。あなたを独占したくて。ずーっと、あなたの愛情を求めていたのよ」。
カレン:「ウソだわ。そんな感情は無かったじゃないの」。
マーサ:「私は男の人を愛したことがないの。きっとそのせいね」。
カレン:「マーサ、あなたは疲れているのよ」。
マーサ:「生徒が吐(つ)いたウソは、全くのウソでは無かったのよ。思春期の女の子はおませだから、私たちを観察して気付いていたのよ。私には"その気(レズの性格)"があることが分かったの。あなたに触られると、感じる時があるのよ。そんな自分が怖いの」。


「私があなたを愛する愛と、あなたが私を愛する愛は同質じゃない」。
マーサのカミングアウトにカレンは驚く。


インターフォンが鳴った。カレンが玄関を開けに行った。ドアを開けると・・・
ティルフォード夫人:「お話があります。入れて下さい。子供たちが全部ウソだと白状しました。判事にもお話しました。判決は棄却されます。
新聞には謝罪文を載せて、賠償金も全額お支払いします。どうかお許し下さい。他にも出来るだけのことをさせて頂きます」。

カレン:「謝罪文とお金で、あなたの心が安まるのね。私たちは、あなた方の醜い悪意に踏みつけられて、心はズタズタよ。あなた達だけが心の安らぎを得ようなんて、大間違いよ。何も頂きません」。
ティルフォード夫人:「何かさせて下さい。お願いです」。
カレン:「あなたを助ける?とんでもないわ。どうか、お引き取りを」。

心の内をカミングアウトしたマーサは、生気を失って疲れた顔をしていた。
カレン;「私は出直すわ。マーサ、苦労して建てた学校を手放すのは辛いだろうけど、ここを出て、一緒に来て。二人なら頑張れるわ。
マーサ:「ありがとうカレン。その話は明日にしましょ。今日は眠いの」。

その翌朝、判決が棄却されて名誉が戻ったカレンは、一人で校庭を散歩していた。
いつもはマーサと二人で散歩するのだが、裁判で二人の関係が住民に知られてからは、好奇心でジロジロ見られるので、お互いに一人で散歩していたのだ。
この女学校を今朝に立つ、リリーが、校舎の方から大声でマーサを呼んでいる声がした。

カレンは胸騒ぎした。2階の陽当たりの良いマーサの部屋にカーテンが閉まっていたからだ。マーサはいつも、カレンより早起きなのに・・・。
マーサの部屋のドアは、中からロックされていた。カレンは金属製の置物でドアを叩いて破ると、マーサの息は絶えていた。

最愛のカレンの将来のことを考えて、断腸の思いでカレンと別々に生きようとしたマーサは、これから生きていく自信や希望を失い、自ら命を絶ったのであろう。
マーサの葬儀の後、カレンは、教師のプライドを持ち、堂々と気高く胸を張って思い出の地を去っていく。ジョーとティルフォード夫人は、遠くから悲しそうに見送っていた。

この映画で 、ひとつ、疑問に感じることがある。歌舞伎や文楽の芝居を知っている日本人なら、自分が死んでも愛する人を生かすという、自己犠牲の精神に同情するかも知れないが、アメリカの女性にも、そういう精神があるのかな?

マーサを演じた女優のシャーリー・マクレーンは、こんな噂などを気にせずに、堂々と強かに生きるべきだと思って演じていたが、ヘルマンの原作通りに自殺で死亡する役になった。自殺して息を吹き返したら、1960年公開の「アパートの鍵貸します」で、フラン役(シャーリー・マクレーン)の二番煎じになってしまう。

子役のわがまま娘、メアリーを演じた、カレン・ボールキンの演技が光っており、躾の厳しい先生を憎むメアリーの悪意に満ちた作り話が、孫娘を溺愛する祖母によって醜く拡散し、気高い理想を掲げた学校が崩壊していく。悪意に満ちた風評って恐ろしい。

2013年5月25日 尾林 正利

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