mail
Home Photo_essay Camera Photography sketch_osaka shigoto blog
 
お好きなムービーのボタンをプッシュ!

エデンの東

(ジョン・スタインベックの小説の後半を映画化:1955年公開)

John Steinbeck's
East of Eden
Directed by Elia Kazan

「エデンの東」という映画は、中学2〜3頃にAMラジオでよく放送された、ヴィクター・ヤングがカヴァーにしていた華麗な弦楽演奏で知った。映画は高校生になってから映画館で観た。ぼくは、サントラ派なので、レオナード・ローゼンマン作曲の"序曲"の方がいい。この映画のドラマは、ぼくの青春時代に多大な影響を与えた。

それは、「エデンの東」で描かれるトラスク家の父子家庭と同じく、ぼくも母子家庭で育ったからである。
ぼくは物心が付いた小学二三年の頃から中学入学の頃までは、父は太平洋戦争に従軍して戦死したと思っていた。
中学校へ入った頃に、近所の人から聞かされて判ったことだが、父母はぼくが小学校へ入る前に離婚し、父は大阪から数百キロ離れた他県で、新しい家庭を築いて暮らしていたのである。家族環境の設定と、記憶にない父の生存を知った経緯が、「エデンの東」とよく似ている。

父の思い出は、母のアルバムに貼られたセピア色の写真だけで、父と話した記憶が全く無いので、音信不通の父に対する思慕は全くない。だから、「戦死」のままにしておいた。
人前でうっかり「離婚した」といえば、好奇心の強い大阪人は必ず「何でや?」と訊くからだ。一々答えるのが面倒で辛い。

ところで、親というのは、数人の子供を授かった場合、どの子供も平等に育てているつもりでも、それぞれの子供の立場から観れば、兄弟姉妹の誰かを依怙贔屓しているように感じることもある。
マーガレット・ミッチェル原作の「風と共に去りぬ」に登場するオハラ家には3姉妹がいたが、美しい長女のスカーレット(ケイティ・スカーレット・オハラ)は、両親の寵愛を存分に受けてわがままに育ち、二女のスエレンや三女のキャリーンたちから妬まれる。

日本では、昔から長男を大事にする風潮があって、家督を継ぐ長男には新品を買い与えて大事に育て、親元から離れて独立していく次男には、兄のお下がりが当たり前で、次男のぼくは、小、中学の義務教育の頃は、鞄、教科書、弁当箱や水筒が殆どがお下がりだったので不満だった。高校に進学してから、初めて学校へ持参するものが新品になった。

エデンの東は、母親・ケイトの失踪で、別居が長引いて離婚状態になった父親が、二人の息子を引き取って、小説上では双子の長男は父が育て、次男は中国人の料理人・リーに養育して貰い、兄弟は実の父親から不平等な愛を受けて成長し、父親に愛されない次男は長男に嫉妬し、親子の確執・兄弟の確執と、旧約聖書の「善」と「悪」をテーマにした作品である。

この映画では、とくに、父親のアダム(創世記の人類祖先の人物の名前)の誕生日に、母親似の次男ケイレブ(創世記のアダムとイヴの子・カイン)からのプレゼントを「悪いものだ」と受け取らず説教し、父親似の長男アロン(創世記のアダムとイヴの子・アベル)のプレゼントには「善いものだ」と褒め称えたシーンに、父親の歪曲した心を、意図的にキャメラを大きく傾けて撮った、エリア・カザンって、凄い演出家だとなと思って、思わず涙が溢れた。

映画の「エデンの東」は、ノーベル賞作家のジョン・スタインベックが1950年(日本語翻訳版は1952年)に発表した同名の大河小説の中から、代々農業を営んできたトラスク家の後半の部分を映画化したものである。
原作と映画では、登場人物やストーリも若干変更されているが、エリア・カザンは、主役になる放蕩息子のケイレブ(キャル)役に、マーロン・ブランドに声を掛けていたが断られ、当時は新人舞台俳優のジェームズ・ディーンを映画初出演で主役に抜擢し、原作者のスタインベックに会わせて、キャスティングに快諾を得てクランクインが始まった。

ところが、肝心のジェームズ・ディーンが変わり者で、ライターが書いた台詞をきちんと憶えようとせず、台詞にアドリブを混ぜて話すので、共演者を困らせたらしい。
台詞回しのアクションをワンテイクで決められない。他の役者がイライラする。

とくに、台詞に関しては完璧主義者のレイモンド・マッセイ(アダム役)は、ジェームズ・ディーンが台本の台詞通りに喋らないので、生意気な若造俳優にムカッときて、本番中に怒りを露わにし、監督はそれを見て、内心喜んだ。
演出家にとっては、父役の俳優が、次男役のジェームズ・ディーンに本気で怒って貰う方が、いい画が撮れる。アダムが育児放棄した、次男のキャルとの愛情のない親子関係を描くのには、ジミーのアドリブが好都合だったワケだ。

「エデンの東」は、1955年度のアカデミー賞の4部門にノミネートされたが、カリフォルニア州のモントレーで娼館を経営する女将のケイト役(ケイレブとアロンの母親役)を演じた、ジョー・ヴァン・フリートが、アカデミー助演女優賞を獲得した。ジョー・ヴァン・フリートは「OK牧場の決闘」でもケイト役で出演し、水商売女の演技が上手い。

この映画を初めて観たのは高校生の頃だった。原作者のジョン・スタインベックのことは詳しく知らなかったが、ジェームズ・ディーンの名と顔写真は、馴染みの散髪屋さんの待合室に置いてある映画のグラフ誌で知っていた。

こんな、名作がDVDになって、自宅のフルハイビジョンのホームシアターで、いつでも好きな時に観られるなんて、有難い時代になったものである。

主なキャスト

Caleb Trask(ケイレブ(又はキャル)・トラスク:父の愛情から見放されて、双子の兄・アロンに嫉妬する)・・・James Dean (ジェームズ・ディーン)
Adam Trask(アダム・トラスク:聖書の教え通りに生きる頑固な父親)・・・Raymond Massey(レイモンド・マッセイ)
Aaron Trask(アーロン・トラスク:父に愛された理想主義者。真面目だが世間知らずの青年)・・・Richard Davalos(リチャード・ダヴァロス)
Abra(アブラ:アロンの恋人だが、現実主義の行動的なキャルに心が動く)・・・Julie Harris(ジュリー・ハリス)
Kate(ケイト:アダムと離婚し、モントレーで娼館の女将になる。聖人面したアダムを憎んでいる)・・・Jo Van Fleet(ジョー・ヴァン・フリート)
Will Hamilton(ウィル・ハミルトン:サリナスの実業家。戦争で金儲けに走る強か者)・・・Albert Dekker(アルバート・デッカー)
Gustav Albrecht(グスタフ・オルブレヒト:ドイツ人移民の靴屋の店主)・・・Harold Gordon(ハロルド・ゴードン)
Anna(アン:ケイトの店の1階の酒場で働く女給)・・・Lois Smith(ロイス・スミス)
Sam(サム:モントレーの保安官でキャルにトラスク家の秘密を教える)・・・Burl Ives(バール・アイヴス)

主なスタッフ

監督;Elia Kazan(エリア・カザン)
制作:Paul Osborn(ポール・オズボーン)
原作:John Steinbeck(ジョン・スタインベック)
脚色:Paul Osborn(ポール・オズボーン)
撮影:Ted McCord(テッド・マッコード)
音楽:Leonard Rosenman(レオナード・ローゼンマン)
美術:James Basevi(ジェームス・バゼヴィ)
Malcolm Bert(マルコム・バート)
編集:Owen Marks(オーウェン・マークス)
製作会社:エリア カザン プロダクション/ワーナー ブラザース ピクチャーズ
画面サイズとカラー:1:2.35(シネマスコープ)、テクニカラー
DVD製作販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ

ストーリー

1917年当時のアメリカのカリフォルニア州サリナス。シリコンバレーに近いが、サンフランシスコから南へ凡そ130キロも離れた農業地帯だ。
ここから、蒸気機関車が牽引する貨物列車の屋根に乗って、サリナスから24キロ西にある太平洋沿岸の港町・モントレーに通う孤独な十代の青年がいた。
彼の名は、ケイレブ・トラスク(ジェームズ・ディーン)と言い、彼を知る人たちから、キャルと呼ばれていた。

モントレーという港町外れの見晴らしのいい岬には、故郷を離れた船乗りたちが、羽目を外してが遊ぶ娼館が建ち並び(1917年当時)、キャルもそこへ行くが、それは性欲発散のためではなく、娼館を経営する女将(おかみ)に会いに行く為だった。
女将は盛装して、昼間に地元の銀行へ一人で通う。繁盛している店の売上金を預金する。

キャルは、女将を尾行する。それは以前に父の農園で働いていた"ウサギ"という渾名の男から「お前の母は生きている。モントレーで、あいまい宿(売春宿、娼館)の女将をやっている」と、聞いていたからだ。
女将はケイト(ジョー・ヴァン・フリート)と呼び、ケイトは、尾行している胡散臭い青年には気付いていたが、誰だか判らない。店に戻ると二度と出てこなかったので、キャルは石を投げつける。ガラスが割れると、用心棒のジョーが出てきた。

ジョー:「こらっ、小僧、ここは、ガキが来るようなところじゃない。なぜケートを付けるんだ?何のつもりだ?」
キャル:「水商売の女将さんを付けると、罰金とられるのか?」
ジョー:「つべこべ言わずに、サッサと帰れ」と、キャルを追い払う。

キャルは、又、貨物列車の屋根に乗ってサリナスの自宅へ帰宅すると、庭先で双子の兄のアロン(リチャード・タヴァロス)は、恋人のアブラ(ジュリー・ハリス)と散歩していた。アブラは看護婦としてサリナスの病院で働いている。
アブラは、キャルの姿を見て、

アブラ:「弟は、夕べ帰って来なかったんでしょ。どこへ行ってたのかしら?キャルの渾名はノラ猫よ。あっ、キャルには言わないでね」。
アロン:「言わないよ」。
アブラ:「キャルはいつも一人ぼっちで変わっている。得体が知れないわ。・・・怖いの」。


その日は、アブラの他にサリナスの実業家で投資家のウィルがやってきた。父のアダム(レイモンド・マッセイ)とは幼馴染みである。

アダム:「ウィル、今年はレタスを冷蔵して出荷しょうと思うんだ。まだ、誰もやっていない。テストでは、レタスを蝋紙に包んで氷で冷やせば、3週間も鮮度を保った。息子のアロンも、わしの考え方に大賛成だ」。

二人の話を聞いていたキャルは、二人の会話に割り込んできて、
キャル:「新聞で読んだけど、アメリカが参戦すれば、一財産ができる。大豆やトウモロシで儲けられる」。
ウィル:「その通りだ。大豆は値上がりして金になる」。
アダム:「(戦争で儲ようとする考え方は、不謹慎だ)わしは、レタスの冷蔵輸送を成功させる」。


農場の氷置き場で、アブラとアロンの二人は将来の夢を語り合う。
アブラは13才の時に最愛の母を亡くした。父がすぐに再婚したので、義理の母といつまで経っても反りが合わず、好きな人が出来たら実家から出て、早く自分の家庭を持ちたかったのだ。

アブラ:「アロン、わたしといつ結婚するの?」。
アーロン:「君とぼくが結婚すれば、理想的な夫婦になれる」と、醒めた返事。
それを氷柱の影から聴いていたキャルは、氷柱を階段から次々に突き落とす。

その晩のキャルは、無断外泊と氷柱突き落としの二つの悪事で、父親から説教を受け、分厚い聖書を音読させられる。
アダム:「氷を落とした理由は何だ?」
キャル:「自分でも判りません」。
アダム:「昨夜、無断で家を空けて、わしに叱られると思ったのか?・・・お前の聖書を開いて、第5節を読め」。
キャルは渋々音読する「・・・咎(とが)を主(しゅ)に告白し、主は それを許し給えり・・・」。
アダム:「読み方に気持ちが入っとらん。・・・ひねくれた奴だ」。
キャル:「ぼくは(性根が)腐っています。善も悪も両親から譲られる。ぼくは悪だけ譲られた」。
アダム:「それは違う。善になるか、悪になるかは、お前の心掛け次第だ」。
キャル:「父さん、母さんは天国に行ってるんではないんでしょ。なぜ、死んだと言ったの?生きているなら、どこへ行ったの?」。
アダムは返答に困って、「知らん。東部へ行った。お前とアロンが双子で生まれた後だ」。
キャル:「母さんって、どんな人?」
アダム:「・・・何か大切なものが欠けていた。温かさと、良心が・・・。去った理由は分からん。わしに対して憎しみに溢れた女だった。でも、象牙のようなキレイな手をしていた」。
キャル:「父さんの肩にある銃の傷は?」。
アダム:「教えた筈だ。インディアン討伐の時の傷だよ」。

キャルは、父の話から、ケイトが母親であることが分かる。数日後、会って話したくなって、モントレーに行く。
そして、一階のバーでビールを注文する。

女給のアン:「また、来たの!ジョーに見つかったら大変よ。それにあんた、まだ子供でしょ? 店に石を投げたり、ビールを飲んだり、いけないわ」。
キャル:「頼むからケイトの部屋、俺に教えてくれ」。
アン:「教えたのがばれたら、あたしクビよ・・・しょうがない子ね。ちょっと待ってて。廊下の入口で合図したら、奥へ入って」。

キャルはケイトの居る部屋を開けると、ケイトは豪華な両肘付きの椅子で居眠りしていた。手を見ると歳の割にはキレイな手だった。
キャルは跪いて、「ママ、ママ」と呼ぶ。
ケイトは驚いて、キャルを見て不快感を表し、大声でジョーを呼ぶ。
ジョーが飛んできて、キャルは店から追い出され、モントレーの保安官へ渡される。

保安官のサムは、アダムとは幼馴染みだ。
サム:「あそこの店には行くな。保安官の俺が禁ずる。父さんは、君が酒場に出入りすることを知ってんのか?」
キャル:「ビールを飲むことは薄々気付いていると思うけど、モントレーに通っていることは知らないよ」。
サム:「ケイトは今、モントレーに住んでる。君らは24キロ離れたサリナスなので、もう出会うことは無い。大丈夫だと思っていた。この写真を観ろ」。

それは、キャルが初めて観た、父母の結婚式の時の記念写真だった。
キャル;「ケイトは悪い女だし、ぼくも悪い。だから親子だ...母が憎い、父さんも憎い」。
サム:「君のママは、昔はとても美人だった。若くて生き生きしていた。父さんは農家の育ちで、世間知らずだ」。
キャル:「父さんは、母さんを憎んでいたの?」
サム:「そんな筈はない。ケイトに去られてからのアダムは生きる屍(しかばね)だ。
しかし、君の父さんほど親切で正しい人をわしの知る限り、他にはいない。本当の善人だ。お前は、それを忘れるな」。




トラスク家の大農場では、いよいよレタスの収穫シーズンが始まった。
1917年当時は、アメリカの農家にベルトコンベアやフォークリフトは無いし、レタスの収穫は30名ほどの臨時作業員を雇っての大仕事である。キャルも手伝う。

収穫が終わると、十数両の有蓋貨車への積込み作業である。当時は冷凍貨車がない時代なので、アダムが考案した氷柱を高い位置に敷き詰めて、下段のレタスケースを冷やす方法が採られた。

しかし、あいにく、レタス列車の行き先で雪崩に遭って、数日間も列車が峡谷内で停車したので、貨車に積んだ氷柱が解けてレタスが水浸しになって腐りだし、売り物にならなくなってしまった。
アダム:「こうなったのは、私の思い上がりだった」と、うなだれる。

父はレタスの冷蔵輸送の失敗で5,000ドルほど損し、裕福だったトラスク家は、無一文近くになってしまった。
父の損失の穴埋めをすることによってパパに貸しをつくり、アロン並に父の愛を得ようとしたキャルは、実業家のウィル・ハミルトンと組んで、大豆の先物取引に手を出す。

まず、5,000ドルで大豆を生産して貰える農家と独占契約して、収穫した大豆を2.5倍以上の高値のピークで売り抜けば、借り入れた投資金と返済利息を完済すれば、5,000ドル以上の利益が出る。
ウィルは、キャルの計画に協力し、前渡金で大豆1ポンドに付き、5セントで取引する保証を約束した。

普通の家庭で育った十代の青年は、5,000ドルのキャッシュなんて持っていない。問題は、どこから資金を調達するかである。
キャルは、懲りずにまた貨物列車の屋根に乗って、モントレーのケイトに会いに行く。
ケイトは悪女と言われても、キャルの母親だ。大きくなった我が子と再会して、積もる話も聞いてやらず冷たくあしらったことを反省し、少しはキャルと話をしたかったのだろう。


モントレーの銀行近くで、ケイトの帰りを待っていたキャルは、ケイトの横に付いてきた。
ケイト:「あんたの本名は?」
キャル:「ケイレブだ。ケイレブ・トラスク、聖書にある名前だよ」。
ケイト:「もう、一人いるわね」。
キャル:「アロンだ。これも聖書からだ」。
ケイト:「私は、あんたに似てる。性格もそうかしら?」
キャル:「いや、ぼくは善人だ」
ケイト:「私とは違うと、言いたいんだね。・・・父さんのアダムは元気なの?お前は父さんと同じ眼だね。憶えているのは眼だけさ。こう見えても、私も昔は美人だったのよ。父さんは今でも聖書を?・・・あんたも、サリナスで農夫になるのかい?」。
キャル:「農場は嫌いだ」。
ケイト:「やっぱり、私と似てる。私も、農場が大嫌いだった」と、しかめっ面をする。

娼館のケイトの事務室に入ると、
ケイト:「それで、今日来たのは、私に何の用?」
キャル:「5,000ドル要るんだ」。
ケイト:「何に使うの?その歳で?」
キャル:「俺は、もう大人だ。いつまでもガキじゃない。
大豆だよ。...ウィル・ハミルトンが言ってた。アメリカが参戦すれば、確実に儲かるって。
父さんはレタスで失敗して、殆ど無一文だ。それを取り返してあげるんだ」。

ケイト:「父さんは、自分で稼げないの?・・・善人に金儲けは汚らわしいワケね。私が5,000ドル貸すと思うの?図図しい子だよ」。
キャル:「俺のビジネスに使うお金だよ。借りた金には利息も払う。あんたも商売人だろ?」。
ケイト:「あんた、保安官のサムに私をモントレーから追い出せと言ったそうね。父さんやアロンに知られるのが心配かい?5,000ドルを私から強請(ゆす)るつもり?・・・アダムは私を家庭に縛る気だった。毎日、私に聖書を読んだ。」。キャルは、ニタッとする。
ケイト:「ほら、お前にも分かるんだね、あの人の聖人ぶりが・・・、その私に、父さんの穴埋めの5,000ドルを借りる気?誰がみても、おかしな話だね」。

ケイトは、机の引き出しから小切手帳を取り出す。
ケイト:「ウィルをここへ来させて。彼は抜け目がないんだから・・・。なぜ、お前のような若造を仲間にしたのかね?」
キャル:「ウィル小父さんの腹の中までは知らないよ」。
ケイト;「お前が好きなのさ。憎めない子だよ」。
ケイトは、渋々、額面金額を書いた小切手を封筒に入れてキャルに渡す。


やがて、アメリカは、第一次世界大戦の参戦が決まり、サリナスの夏祭りではアメリカ軍を鼓舞するパレードが行われた。
アロンとアブラはパレードを眺めていたが、アロンは「戦争は非人道的だ。絶対に反対だ」と言うが、キャルは、アメリカの参戦によって、大豆が値上がりして喜んでいた。


サリナスのカーニバル(謝肉祭;お祭り騒ぎ)で、キャルは、メキシコ人のガールフレンドとデートする。
しかし、縁日の屋台の傍でアロンを待っているアブラが一人でいるので、他の男にちょっかい出されそうになり、キャルはガールフレンドと別れて、アブラを連れて縁日遊びに付き合う。そして空中ゴンドラに乗る。

アブラは、勝負服の淡いピンクのワンピースを着ていて、アロンと交際が長いのに、正式にプロポーズしてくれないので焦(じ)れていた。


アブラは、アロンとの進展しない恋愛に迷っていた。行動的なキャルの考え方を訊いてみたかったので、
アブラ:「キャル、聞いてくれる?・・・アロンは、口先だけで愛を語るのよ。アロンの考える愛は清く正しいわ。
でも、愛ってそれだけじゃ無い筈よ。彼が愛しているのは、本当の私じゃないのよ」。
キャルは、アブラをジーッと見つめ、熱いキスをする。
「いけないわ・・・私はアロンを愛しているのに」。
アブラは知らず識らずの内に、理想主義者のアロンよりも、父親のために損失を取り戻す行動を起こす、現実主義者のキャルに惹かれ、恋心が芽生えていたのだ。

その時、街でちょっとしたいざこざが起きていた。
サリナスに移住してきた、靴屋を営むドイツ系アメリカ人のオルブレヒト氏が、保守的な住民からリンチに遭いそうになっていて、アロンが止めに入っていたのだ。
アメリカはドイツと戦争し、欧州に派遣されたアメリカ兵の死傷者も増えてきたので、ドイツ人はここから出て行けとする人々に囲まれていた。

アロンはオルブレヒト氏を擁護して、「今まで仲良くしていたのに、なぜ、急に彼を憎む?」
保守派の市民A:「靴屋の親父は、アメリカ人のフリをして、ドイツ贔屓だ」。
志願兵の母:「私の息子も戦死したわ。どうしてくれるの?」
野次馬;「ドイツ人を追っ払え」

アロンはドイツ人の味方になったので、保守派の市民から集団で袋叩きにされそうになったので、キャルはアロンを救うために保守派の市民と殴り合いになり、保安官のサムが仲裁に入って騒ぎが収まった。オルブレヒト氏が自慢していた庭園は、無茶苦茶に荒らされた。

キャルに助けられたアロンは勘違いして、「君はケンカして、アブラにいいところを見せたかったのか?」と逆ギレする。
さらに、「誰が、ケンカを始めろと頼んだ、騒動になったのは、みな君のせいだ」。
キャルは、思わずアロンを殴ってしまう。傍で兄弟喧嘩を見ていたアブラは悲鳴を上げた。

父の誕生日が近づいてきた。
キャルは、ウィルから大豆で儲けた金を精算して貰い、1万ドル以上を手にする。ケイトに5,000ドルと利息を返し、父に5,000ドルプレゼントしても、余剰金が出る。それをパーティの費用にすることにした。
真夜中に、キャルはアブラの家に行く。

キャルは2階のベランダの窓をノックして、アブラを起こす。
キャル:「寝ているところに来てゴメン。秘密の話があるんだ。誰にも言うなよ」。
アブラ:「わかったわ。何なの?」
キャル:「パパがレタスで大損したのを知っているね?取り戻したんだ。」
アブラ:「儲けたの?凄いわ」。
キャル:「 明日、病院の仕事を抜けられる?木曜はパパの誕生日なんだ。お祝いパーティーをする。パパに儲けた金を贈るんだ。パーティーの買物や飾り付けに来て欲しいんだ。風船や花輪で部屋を飾り立てるんだ。」。
アブラ:「まぁ、キャル、偉いわ。手伝うわよ」。
キャル:「ありがとう。アロンを本気で殴ってしまって、悪いことをした」。
アブラ:「わたしには、気にしないで」。

父の誕生日、
キャルとアブラは、嬉しそうな顔をしているが、アロンはキャルから殴られた事を根に持って不機嫌な顔をしていた。さらに、恋人のアブラの愛情が、自分からキャルに乗り移って激しく嫉妬していた。

キャル:「パパ、誕生日おめでとう」。
アダムは、部屋の飾りを見て、
アダム:「驚いた。嬉しい心遣いだ。今年は、自分の誕生日をすっかり忘れていたよ」。
キャル:「父さん、ぼくからプレゼントがあるんだ」。
アダム:「プレゼントか、これはすごい」。
キャルは紙袋を渡す。
キャル:「開けないの?」
すると、アロンは、
「父さん、ぼくからもプレゼントがあるんだ。アブラと結婚する」。

アブラとキャルは驚く。二人はアロンの発言にフリーズした。アブラは、アロンから何も聞いてなかったからだ。キャルの大手柄に対抗した、"有難くないサプライズ"だった。キャルは、パーティ主催者の面目を潰された。

アダム:「何という、素晴らしいプレゼントだ。これ以上の嬉しいプレゼントは無い」。
アダムは、アロンとアブラを抱き寄せる。

キャル:「父さん封筒を開けてみて」。
アダム:「お金じゃないか?」
キャル;「ぼくが作った、レタスで損した埋め合わせです」。
アダム:「この金は、どうした?」
キャル:「アメリカの参戦で、大豆の値が上がった」。
アダム:「この金は返せ。返してこい。払った人に。奪った農夫に。キャル、わしは徴兵委員をやっておる。わしの署名で、若者が戦場に行く。ある者は戦死し、帰れた者も何らかの傷を負っている。そんなわしが、戦争で金儲けか?この金は要らん。受け取れない。気持ちは嬉しいが・・・」。
キャル:「ここに置くいとく」。
アダム:「アロンのような (真っ当な)贈り物なら嬉しかった。キャル、わしを喜ばせたかったら、善人として一生を送れ」と、父は息子に、残酷な言葉を吐く。 キャルは、泣き崩れる。

全く何も期待していない、嫌いな息子からのプレゼントに、
逆に説教する父親の歪んだ心に、画面が大きく傾く凄い演出


キャルは泣いた。パパの本心は、自分に何も期待していないことが判ったからだ。いつまでも厄介者の不良少年扱い・・・。
一人前の仕事をして、立派な成人になった息子として、これ以上ショックなことはない。

アダムの聖人ぶりで、誕生日のパーティはぶち壊しになった。アロンは、キャルを睨み付けて、アブラに近づくなと釘を刺す。

キャル:「君は、父さんっ子だから、母さんは天国に居るって信じてるだろう。君に見せたいモノがある。俺に付いて来てくれないか。すぐ近くだ」。
キャルは、アロンを連れてモントレーに行く。そしてケイトに会わせる。
ケイト:「まぁ、キャル。よく来たね。お入り」。
キャル:「見せたいものがあるんだ。アロン、入って来いよ」。
アロンは緊張して、すり足で入って来る。
キャル:「君の前にいるのは、アロンのママだ。ちゃんと、挨拶しろ」。
ケイト;「キャル、冗談はやめてよ」。
キャルはドアを閉めて、一人で帰る。

パパの誕生日の晩は、二人の息子は中々帰って来なかった。アブラは聖書を読んでアダムの孤独を慰めていた。
キャルは帰ってきた。
アダム:「お前は一人で帰ってきたのか。アロンは?」
キャル:「アロンは子供じゃないよ。一人で帰れるさ。パパは聖人だ。常に正しい。父さんは自分の正しさを押し付けようとする。
父さんがぼくを嫌うのは、母さん似だからだ。ぼくは、父さんの愛を金で買おうとした。
もう、パパの愛は要らない。愛って損するだけだ。ぼくはここを出る」。
アダムは、無言だった。


そこへ、「アロンは狂ったように自分を傷つけようとしている」という、保安官のサムの報せが入って、3人はサリナスの駅に向かう。
アロンは志願兵を乗せる客車に乗って入隊し、泥酔していた。真面目なアロンの泥酔姿を見たアダムはショックの余り、脳溢血を起こして倒れる。

キャルは、保安官のサムから、
「カイン(ケイレブ)は、アベル(アロン)を殺め、カインは去って、エデンの東 "ノドの地"に住めり。・・・お前もこの町から立ち去れ」と告げられる。

病院のベッドに寝ているアダムを付き添うキャルとアブラ。
アブラは、意識もうろうのアダムに必死に語りかける。

アブラ:「トラスクさま、愛されないほど辛いことはありません。私にも憶えがあります。愛されないと、心がねじけます。キャルがそうだったのです。
本心でないにしても、キャルに愛を与えず、キャルに愛を求められなかった。キャルはサリナスから去ります。
その前に、キャルの罪を許せとは申しません。せめて、キャルへの愛を見せて下さい。そうしないと彼は破滅です。彼の心の鎖を解かなければ彼は一生罪人です。今助けてあげて。
私はキャルを愛しています。キャルを立ち直らせて下さい。・・・何かを求めて上げれば、キャルはあなたの愛を悟ります」。

アブラは、廊下にいるキャルも説得する。
アブラ:「一生泣き暮らすの、もう、泣くのを止めなさい。手遅れになる前にお父さまと話すのよ。お願い」。


病床のアダムは、アブラがキャルを深く愛している現実を知る。
キャルは父の眼をしっかりと見る。
キャル:「ぼくは生まれつき悪い子だと思ってきました。でも、本当は違うんです・・・」
アダム:「キャル・・・」。
キャル:「パパ、気が付いたの?」
アダム:「・・・お前に頼みがある。ここの口うるさい看護婦には我慢ならん。代えてくれ」。
キャル:「ぼくも嫌いです。パパの看病は、ぼくにさせて下さい」。
キャルには頑固だったアダムの眼から、一筋の涙が光った。キャルは立派な大人になっていたからだ。

THE END

(※ スタインベックの小説では、アロンはヨーロッパで戦死、ケイトは過去に起きた火事の真相が暴かれて自殺する。)

2013年3月21日 尾林 正利

お好きなムービーのボタンをプッシュ!
 
Camera Photo_essay Camera Photograph sketch_osaka shigoto blog
mail

Film criticism by Masatoshi Obayashi
Copyright (C) 2012-2015 Maxim Photography.All Rights Reserved.