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鉄道員

(イタリアでは1956年公開・日本公開は1958年)

IL FERROVIERE
Regia di Pietro Germi

イタリア映画の「鉄道員」は、1956年にイタリアで公開された映画だが、日本では1958年に公開された。
この映画は鉄道ファンの為に製作された映画ではない。
イタリア国鉄に勤務するベテラン機関士の、ごく普通な一般家庭の1年間(クリスマスの日から翌年のクリスマスまで)のフィクションドラマを映画化したものだ。真実に基づいたドキュメンタリー作品ではない。

当作品では、一般庶民のそれぞれの家庭で起こり得る家族崩壊の危機を想定して、監督のピエトロ・ジェルミも脚本を書き、自ら厳格な父親、アンドレア・マルコッチを演じた。
平成生まれの若い人が、この映画を観ても、「あぁ、イタリアのサラリーマン家庭でも、ウチと同じなんや」と、共感する人もかなりおられると思う。
どの家庭でも些細なことで、揉め事が発生し、時には、夫婦の喧嘩、親子の喧嘩、兄弟姉妹の喧嘩が起きる。それがエスカレートすると、家族のみんながバラバラになって家族の信頼関係が崩壊してしまう。当作品では、とくに、親子の喧嘩にスポットが当てられている。

鉄道員という映画は、イタリア国鉄に蒸気機関車や電気機関車の機関士として凡そ30年勤務し、イタリア国鉄の職員住宅(中層アパート)に住む50歳のアンドレア・マルコッチの5人家族の日々の出来事を小学校低学年に通う末っ子のサンドリーノ少年(以下、サンドロと記述)の目線から見た、家族崩壊の危機と、そこから立ち直る家族の愛をテーマにした作品である。
各シーンの説明は、サンドロ少年のナレーションが入る。ここが、この映画のポイント(見所)である。

サンドロは、パパのアンドレアがイタリア国鉄の、ローマ〜ボローニャ〜ミラノ間を往復する特急列車を牽引する電気機関車のベテラン機関士であることを誇りにし、友達にも自慢している。
父のアンドレアも、運転乗務でローマ駅へ到着した時に、いつも迎えに来るサンドロが一番可愛い。
サンドロは勉強嫌いなので、通信簿の成績が悪いとパパに叱られるのが怖い。だから、日頃からパパのご機嫌を取っている。やんちゃな子供らしい知恵だ。

しかし、サンドロの兄マルチェロと姉のジュリアは大人なのだが、マルチェロは就職活動せず無職で昼頃まで寝ているし、ジュリアは男関係が少しだらしないので、世間体を気にする厳格な父が二人のプライバシーに干渉してきて小言を並べるので、二人から疎んじられている。

やがて、父子の間で口喧嘩をするようになってきた。
大人になったマルチェロやジュリアの悩みを聞いてやるのは父親でなく、聖母のような母・サーラの役割で、気苦労が絶えない。でも、父は亭主関白だ。
大喧嘩の末、父から勘当された二人は家を追い出される。

ところが、家族のゴタゴタなどで、父は仕事への集中力が散漫になって、ミラノ発ローマ行き上り特急列車を運転中に赤信号を見落として、下り列車と正面衝突しそうなり、30日の運転停止処分の後で、閑職に左遷されて給料が大幅にダウンした。

事情聴取で、父は、信号の見落としは、特急運行ダイヤの組み方が、機関士に過酷な労働を強いている・・・ミスも起こり得ると主張したが、父は葡萄酒が大好きなので、身体検査で酒の飲み過ぎが判り、「飲酒運転による信号見落とし」と判断され、 組合側が助けてくれなかったので、父は国鉄ストライキの日に、組合を裏切ってミラノ行きの特急列車を運転した。

その結果、職場では仲間の乗務員たちから白い目で見られ、アパートの壁にも「スト破りのマルコッチ」と、落書きされた。
居場所の無い父も家出して、居酒屋で酒浸りになってしまってしまう。自分に反抗した子供たちを勘当した、その因果応報であった。
父を立ち直らせたのが、末っ子のサンドロ少年だった。サンドロは父が大好き。サンドロは孤独な父を救いに居酒屋へ行く。

この映画では、家族の大黒柱である父親のアンドレアが一番苦労しているように見えるが、そうではない。
アンドレアは逆境に負けて酒浸りになり、末っ子のサンドロの機転で立ち直った。
家族の中では、長女のジュリアが一番苦労していると思う。
二人の男に愛され、不倫するという運命に翻弄され、そこから自立するジュリアの姿が、枢軸国と連合国から声を掛けられた、イタリアの姿と重なっているように感じられる。

ジュリアを演じたシルヴァ・コシナは、イタリアの隣国であるユーゴスラビア(クロアチア)の出身で、セクシー女優として知られるが、 本作では、貧しい家庭に育った美しい娘の役を好演している。美人でプロポーションは抜群だったが、出演した作品は少ない。

イタリアには、ソフィア・ローレンやクラウディア・カルディナーレという強烈な色気を放つ大女優がいたからだろう。
母のサーラを演じた、ルイーザ・デッラ・ノーチェの演技もよい。
昨今の日本では、子役タレントの活躍が目立つが、この作品でサンドロ少年を演じた、エドアルド・ネヴォラには、敵わないね。

主なキャスト

Andrea Marcocci(アンドレア・マルコッチ:イタリア国鉄電気機関車の機関士)・・・Pietro Germi(ピエトロ・ジェルミ)

Sara Marcocci(サーラ・マルコッチ:アンドレアの妻)・・・Luisa Della Noce(ルイーザ・デッラ・ノーチェ)

Giulia Marcocci(ジュリア・マルコッチ:長女)・・・Sylva Koscina(シルヴァ・コシナ)

Gigi Liverani( ジジ・リヴェラーニ;マルコッチの同僚で副機関士)・・・Saro Urzi(サロ・ウルツィ)

Renato Borghi(レナート・ボルギ:ジュリアと二度結婚する)・・・Carlo Giuffre(カルロ・ジュフレ)

Marcello Marcocci(マルチェロ・マルコッチ:無職だったが、父が倒れてから職に就く)・・・Renato Speziali(レナート・スペツィアーニ)

e il piccolo(Sandro:サンドロ少年)・・・Edoardo Nevola(エドアルド・ネヴォラ)

主なスタッフ

製作:Carlo Ponti(カルロ・ポンティ)
   Dino De Laurentiis(ディノ・デ・ラウレンティス)
監督;Pietro Germi(ピエトロ・ジェルミ)
原案:Alfredo Giannetti(アルフレッド・ジャネッティ)
脚本:Pietro Germi(ピエトロ・ジェルミ)
   Luciano Vincenzoni(ルチアーノ・ヴィンチェンツォーニ)
脚本監修:Ennio De Concini(エンニオ・デ・コンチーニ)
     Carlo Musso(カルロ・ムッソ)   
撮影:Leonida Barboni(レオニーダ・バルボーニ)
音楽:Carlo Rustichelli(カルロ・ルスティケリ)
美術:Carlo Egidi(カルロ・エジディ)
衣裳:Mirella Morelli(ミレッラ・モレッリ)
編集:Dolores Tamburni(ドロレス・タンブリーニ)
製作配給:Ponti- De Laurentiis (カルロ・ポンティとディノ・デ・ラウレンティス)
カラーと画面サイズ:4:3スタンダード、モノクロ作品
日本版DVD製発売元;株式会社IMAGICA TV(デジタル・リマスター版)

この映画が製作された時代背景

第二次世界大戦の終戦から凡そ10年経った、1950年代半ばのイタリアの世相が描かれている。かって、ムッソリーニがファシスタ政権を執っていたときは、日本やドイツと三国同盟を結んでいた枢軸国側のイタリアは、戦時中にムッソリーニが共産ゲリラに捕まって処刑され、戦時中に出来たパドリオ政権は、米英の連合軍と単独講和したので、イタリアの寝返りに怒ったナチスドイツが、北イタリアを占領して、ローマにナチスの司令部を置いたので、シチリア島に上陸した連合軍とイタリア全土で他国の軍隊が砲火を交える戦場になって、イタリア国民は困窮な暮らしを強いられた。

国土が戦場になったという事情もあって、戦争難民として、自由の国のアメリカへ移住したイタリア人はかなり多い。そういうことで、戦後のイタリアには反ファシズムや、労働者の権利、貧困をテーマにした、イタリアン・ネオレアリズモ(新写実主義:事実に基づいた、数件の出来事を一作の映画の中で再現する)映画が多数製作された。本作でも、ネオレアリズモの味付けがされている。

ところで、イタリアは、鉄道技術や車両技術が進んだ国で、名鉄のパノラマカー(7000系)は、イタリア国鉄の特急・セッテベロ(ETR300 型)を参考にして製作された電車である。
セッテベロの営業運転開始(ローマ〜フィレンツェ〜ミラノ)は、1953年からだが「鉄道員」には登場しない。イタリアの鉄道に興味のある人は、列車の登場シーンが少ないので、あまりアテにしない方がいい。
この映画は、家族崩壊の危機と家族の絆をテーマにした作品なのだ。

ストーリー

映画のプロローグは、クリスマスの日。
この日のイタリア人は、「ボナターレ(Buon Natale)」と、親しい人と呼び合って祝福する。「メリー・クリスマス」という意味だ。

49歳の機関士アンドレア・マルコッチと同僚の副機関士のジジ・リヴェラーニの二人が乗務する、ミラノ発ボローニャ経由ローマ行きの特急列車「R45号」を牽引する電気機関車が疾走する。


日本の鉄道では大変珍しい「両渡り交差」の分岐で、標準軌では京急の品川駅下り側に見られる。
欧米の鉄道では線路工事を昼間に行うので、複線区間でも上り線路、下り線路の概念がなく、列車の正面衝突事故が多い。

運転席からの前面展望で、時速100キロ以上のスピードで線路がどんどん流れていく。 サンドロ少年が、ローマ市内の歩道を走るシーンと、電車の前面展望からの流れる線路が交互にオーバーラップして、フラッシュバックする。

やがて、装甲車のような厳ついデザインの電気機関車が牽引する特急列車は、複雑な両渡り付き交差や渡り線の分岐を数回通過して、ローマ駅構内の4番線に入線する。
サンドロ少年は、改札係に「乗務だよ」と言って改札をすり抜けて4番線に急ぐ。


父親は、サンドロの出迎えに喜び、列車が停車位置に停止すると、運転席からプラットホームに降りて、迎えに着たサンドロを抱き上げる。
「今度来る時は、改札に、R45号の運転士マルコッチの息子だと言え」と、教える。

アンドレアは、乗務員のロッカー室で制服を私服に着替えると、サンドロを連れて相方のリヴェラーニと一緒に自宅へ帰るが、相棒のリヴェラーニが独身者なので、元鉄道員のウーゴが経営する居酒屋でクリスマスを祝う。


ウーゴの店内は、クリスマスなので、仕事を終えた国鉄職員で満席だ。葡萄酒一杯のつもりが、いつの間にか閉店間際になり、父とサンドロが職員住宅の我が家に帰ると、母のサーラと長女のジュリア、長男のマルチェロはおらず、父のアンドレアは不機嫌になる。
サンドロが食卓の書き置きを見て、3人はジュリアの夫であるレナートの家に行ったことが判る。


小学生のサンドリーノは、家族思いのわんぱく少年だ。

ここから、映画はラストシーンまで、マルコッチ家の回想シーンになる。それを末っ子のサンドリーノ(家庭内では、サンドロと呼ばれている)が語る。
サンドロは、やんちゃで気の利く小学3年生ぐらいの元気な男の子。学校の勉強は嫌いで、算数の掛け算が苦手。通信簿の成績は平均以下だ。だから、平素から父のご機嫌をとって、通信簿のことで、父に叱られないようにしている。

兄のマルチェロは、父の勧めている国鉄の鉄道員にはならず、就活せず昼頃まで寝ていて、午後から出掛けて不良仲間と遊んでいる。姉のジュリアも無職で、父に隠して交際している男もいるので不機嫌だ。だから、将来に計画性が無い、成り行き任せの二人に対する風当たりが強く、ときどき親子で口論になる。聖母のような母のサーラは、仲裁役に回り、気苦労が絶えない。
姉のジュリアはとても美人だ。二人の男と付き合っていて、食料品店の息子・レナートと深い関係になる。そして妊娠。


美人で年頃の姉・ジュリアは、ボーイフレンドと交際中に妊娠が発覚し、子供の躾に厳しい父が、娘を叱る。サンドロの兄は無職で不良仲間と付き合い、夜遊びで外出...楽しくない夕食。

ある日、夕食でジュリアが悪阻(つわり)で、食事を取らないので、心配した父が、
父:「お前、近頃様子が変だな。なぜ食べないんだ。何かあったのか?返事をしろ。」
母:「サンドロ、お前は外に出てなさい」。
サンドロは、扉を開けて出ていったフリをして、室内に隠れて盗み聞きする。
母:「ジュリアは、妊娠したのよ」。
父:「結婚もしていないのに、ふしだらな奴だ。・・・相手は誰だ?名前を言え!」
母:「食料品店の息子、レナートよ」
父がレナートの店に怒鳴り込んだのは言うまでもない。


世間体を気にした強引な結婚式。父がレナートに責任を取らせた結婚に,愛が冷めたジュリアは、泣いていた。

次のシーンは、レナートとジュリアの結婚式。
父が、レナートに、娘が孕んだ子供の責任を取らせて強引に結婚させたので、マリッジ・ブルーのジュリアは泣いていた。母はジュリアの手を握ってやる。だから、結婚式の日は、ジュリアの気持ちは憂うつで、レナートへの愛情が冷めていた。
クリスマスの夜に、3人が家にいなかったのは、ジュリアが出産する為だった。


新婚生活は楽しい筈なのだが、将来が不安で悩むジュリア。

サンドロは、レナートの家に行った。ジュリアの呻く声が聞こえる。
「姉ちゃんが産んだ赤ちゃんは、ぼくの弟なのかなぁ?」
しかし、死産であった。レナートはショックだった。サンドロも、学校のクラスで叔父さんになった生徒がいないので残念だった。
「子供が出来るということで、君と結婚したのに・・・」。この一言がジュリアを傷つけた。子供が出来なかったら、結婚する気は無かったということになる。


マルコッチは、初孫ができるジュリアの死産にショックを引き摺る。運転に集中できない。ある日、息子と同じ年頃の青年が線路に投身自殺。

ジュリアが死産した原因は定かでないが、娘の妊娠を知って、叱り過ぎた父も反省していた。初孫を抱けなかった自分を責めた。
ある日の乗務で、マルコッチが考え事して運転していると、列車に飛び込み自殺があって、緊急ブレーキの操作が遅れて跳ね飛ばしてしまった。未だ、若い青年だ。自殺者が、だらしない息子のマルチェロと重なる。
同僚のリヴェラーニが運転を交替しょうと言うが、マルコッチはそのまま運転を続ける。

ミラノ発のローマ行きの上り列車は、夕方には逆光になって、運転席からの前面展望が眩しく信号が見辛い。今の電車の運転席にはサンバイザーや防眩ガラスが採用されているが、昔の電車には無い。ATSとかデッドマン装置も無い。
マルコッチは赤信号を見落とし、急ブレーキを掛け、線路の両渡り付き交差の分岐の直前で下り列車と危うく正面衝突するところだった。

フランスやイタリア、ドイツの鉄道は、在来線の複線区間において、上り線、下り線という明確な決まり事はない。これらの国々は昼間に線路工事や架線工事を行うので、工事がある日は、工事区間の上り線に下り列車が通行、下り線に上り列車が通行するケースは珍しくはない。だから、信号を見落とすと、大事故になりかねない。

ローマ運転区では、マルコッチとリヴェラーニに30日の運転乗務停止の処分を下し、取り調べが行われた。
事情聴取や身体検査の結果からマルコッチは普段からよく酒を飲んでいることが判り、赤信号見落としは長時間運転の疲れではなく、普段の飲酒過多によるものと判断され、特急運転士の職を降格されて、駅構内の機関車入れ替えの運転士に配転された。長距離運転手当が付かず、給料が大幅にダウン。

マルコッチは、30年も労組の組合員でありながら、自分の主張を聞いてくれなかった運転区の労働組合に強い不満を持つ。
ある日、ジュリアは母に電話する。心配になった母はレナートの店に行った。レナートの店を手伝っているジュリアはレジを任され、以前より美しくなっていた。


「赤ちゃんが出来たから、君と結婚した」とレナートが言ったことに、ジュリアは根に持って、二人の夫婦生活には亀裂が...。ジュリアは別の男と交際するようになり、レナートが好きなサンドロはお姉ちゃんの裏切りに怒る。

帰り際、レナートは、母のサーラに話がしたいと言って付いてきた。ジュリアとの仲は険悪で、今は言い争いを超えた状態で、ジュリアが自分のことを無視するので、別れ話を弁護士に相談していると話した。母は動転する。
ある日、サンドロは、腕白な友達10名を引き連れて、工事現場で働く土木作業員数名に小石のパチンコ弾を放つ。
怒った作業員は、追い掛けてくるが、すばしっこい子供たちの足には敵わない。


サンドロは、ジュリアの不倫現場を目撃する。

追い掛けられたサンドロの目の前には、一台のクルマが土手に停まっており、その車内には、ジュリアと見知らぬ男が一緒にいた。
見てはいけないものを見たので、サンドロは逃げだしたが、ジュリアはクルマから降りて「誰にも言わないでね」と言ったので、約束を守ることにした。
サンドロは、姉を誘惑した男の車を別の場所で再び発見した。サンドロはゴムバンドのパチンコに小石を挟み、後部席の窓硝子を破って警官に逮捕される。

父は警察から呼び出しを受けた。
取調官:「お宅の坊やですか?私は大勢の犯罪者と面接してきました。大抵は犯行の事情を白状するものですが、この坊やは、クルマのガラスを割った理由を言いません。末恐ろしい子ですね。ま、小学生なので釈放しますが・・・。この書類に引き取りのサインをして下さい」。


サンドリーノは、お姉ちゃんの秘密を守る。

自宅の前で、父はサンドロに、
「お前は賢くて、よく気の利く子だ。クルマのガラスを割ったのには、理由があるからだろう?男と男の約束だ。何でだ?」
サンドロ;「お姉ちゃんから口止めされてたんだけど、レナートがいるのに、お姉ちゃんを誘惑していた、あいつが悪いんだ」。

父のアンドレアは、母と相談しに実家へ戻っていたジュリアに、いきなり往復ビンタを食らわす。そして、父と娘の激しい罵り合い。
止めに入る母も倒される。サンドロは、お姉ちゃんを裏切ってたことで、不倫の秘密がばれてパパに叩かれ、心が痛んだ。


頭ごなしに、保守的な道徳観を年頃の娘に押しつける父に、ジュリアは口答えする。母のサーラも娘に味方し、マルチェロも、優しい母を殴る父に怒る。

ジュリア:「私のクラスメートたちは、皆シルクのストッキングを穿いているのに、私だけは18歳まで綿のストッキングよ。
コートはお父さんのお下がりをリフォームしたもの・・・随分恥ずかしい思いをしたわ。
レナートとの結婚も、私の気持ちを無視。世間体を気にするお父さんの面子を守るためだった。
愛のない結婚をさせて、うまく収めたと思っている。私が出産する日は、お父さんを待っていたけど、お酒を飲んで早く帰って来なかったじゃない。
私のことを愛してないんだわ。私は一人になりたいの。ほっといてよ」。

父は、又、ジュリアの頬を往復ビンタ。ジュリアの悲鳴が隣近所に筒抜け。
アパートの住民が、何事かと廊下に飛び出してくる。


そこへ、サンドロが呼んだ兄のマルチェロが帰ってきて、「母さんにも暴力を振るう父さんを許せない」と、父と息子が取っ組み合いになる。
家族が崩壊していく修羅場である。
アンドレアは、「二人ともこの家から失せろ」と、禁句を吐いてしまう。


サンドリーノは、二人の子を勘当した父の家庭内暴力で、傷ついた母を心配して、添い寝する。

その晩は、サンドロは寂しそうな母と二人きりだった。
サンドロ:「ママ、一緒に寝てもいい。ママ、お姉ちゃんとパパ、どっちの言っている事が正しいの?」
母;「お前が大人になれば判るよ」。
サンドロ:「ぼく、そんなに待ってられないよ。今、知りたいんだ」。
母;「レナートは、ジュリアを愛しているのよ。だから、私に相談しにきたの。私たちの時もそうだった。パパが酔って帰ってきて、私を叩いた時は憎く思ったわ。でも、そのうちにパパの良い所が見えてきて、厭なことが忘れられたの」。
さらに、
母:「一緒に住んでいても、家族で会話をしないと、お互いの気持ちが通わず、チョットしたことでいがみ合うのよ。ちょっと話せば済むことなのに、このままでは、家族がみんなバラバラだわ」。
サンドロ:「ママ、泣いちゃ、いやだ」。

父の職場でストライキ決行の日が来た。サンドロにはストの意味がよく分からない。
マルコッチは、「信号無視違反と安全運転義務違反」の原因を飲酒運転と断定され、懲戒解雇は免れたが降格処分を受けた。
自分の主張を認めなかった労組の幹部に裏切られたマルコッチは、ストライキの日に、経営者側に付いて、ローマ発のミラノ行きの特急列車を運転する。
同僚のリヴェラーニは、ローマ駅のプラットホームに行って、運転を停めにいくが、列車は定刻に発車した。
マルコッチは、組合の乗務員達から白い目で見られるようになり、誰も近寄らない。職員住宅のアパートの壁には、「スト破りのマルコッチ」の落書きをされる。

職場で仲間外れされたマルコッチは居場所がなくなり、国鉄に出社せず家出して、国鉄職員が来ない居酒屋で酒浸りになる。
母も悲しんでいるので、困ったサンドロは、父の同僚のリヴェラーニに頼んで、父を捜す。しかし、父は見知らぬ女性と一緒に酒を飲んでいたので、声を掛けられなかった。


サンドリーノは、家に帰って来ないパパを捜しに出る。

四面楚歌になった、マルコッチは酒場で愚痴をこぼす。
「労働組合・・・結構なもんだ。労働者にいろいろ吹き込み、金を取るだけだ。機関誌は、名文句だらけ。党の正義と労働者の権利・・・20年も聞かされてきた。

若い頃は、俺等と一緒に焚き火を囲んで熱弁を奮った。毎月、組合費は取られ、その間に利口な連中は党員になって出世していった。
俺を調べた奴も、4人ともそんな連中だ。利口な奴は、権力を得た自分が可愛いのさ」。


サンドリーノは、パパを説得に、男と男として話し合う。

サンドロは勇気を出して、孤独な父の居る居酒屋へ行く。
アンドレア「サンドロか、よく来てくれた。お前が来るのを待っていた」。
サンドロ「リヴェラーニさんと二人で、この店を探したんだよ。でも、女の人と一緒だったんで、入るのを止めたんだ」。
アンドレア「ジジ(リヴェラーニの名前)も、俺のことを心配してくれてたんだな。ウーゴの店で皆と飲みたいよ」。
サンドロ「じゃあ、これから、ぼくと一緒に行く?」
アンドレア:「・・・」。親が子に甘える・・・親子の関係があべこべである。


ウーゴの店は、今日も満員御礼だ。そこへ、サンドロは父を連れてやってくる。
ウーゴ:「アンドレア、今日は特別にいい酒が入ったんだ」。
リヴェラーニ:「そんな、特別にいい酒が入っているのに、何で早く出さないんだ?」
すると、皆大笑い。アンドレアは歓迎された。
サンドロも大喜び。

いつものように、パパが得意としているギターの演奏が始まる。
しかし、アンドレアの体は病魔に冒されていて、ウーゴの店で倒れる。
そして、三ヶ月ほど自宅で療養する。療養中に父は50歳を迎えた。


サンドリーノは、姉のジュリアと、好きなレナートを復縁させるために、キューピット役になる

サンドロは、ある日レナートに呼び止められ、姉の荷物(衣服など)を姉が働いているクリーニング店に届けて欲しいと頼まれる。
サンドロはレナートのクルマに乗せて貰い、クリーニング店の手前まで送って貰う。
スチームアイロン掛けの仕事をしていたジュリアは、店の表で口笛が聞こえ、サンドロだと気付き、弟の愛くるしい顔を見て大喜びだった。
「お姉ちゃん、ごめんね。ぼくのせいで、パパから追い出されちゃって・・・」。
「いいのよ。私が悪いのよ。ママには、私は元気で働いていると伝えてね。レナートは、何か言ってた?」
「別に・・・」。

サンドロは、レナードのクルマで自宅近くまで送って貰った。
「ジュリアは、何か言ってた?」
「別に・・・」。
別れても、ジュリアとレナートは、お互い気にしていたわけだ。

今年もクリスマスがやってきた。
この日は、パパはベッドから起きて、夕食のテーブルの前に座った。
「病人食は食べ飽きた。普通の料理が食べたいよ。今年のクリスマスは3人か?
クリスマスの日ぐらいは、良いグラスで飲みたいね。サーラ、俺たちの結婚式に貰ったグラスを出してよ」。

そこへ、ジジが仲間を連れてやってきた。何とマルチェロが就職して、自宅から通勤すると言って我が家に戻ってきたのだ。自分から謝れないプライドの高いパパは救われた。二人は抱き合って仲直りした。
その後、お客さんがどんどんやってくる。

その頃、ジュリアはクリーニング店の仕事を終えて、帰宅中であった。職場の同僚から、ダンスパーティに誘われる。
レナートはお洒落して、ジュリアの帰りを道で待っていた。以前の結婚は、アンドレアの面子の為であったが、今度の復縁は、お互いの愛で結婚したいので、ジュリアに正式にプロポーズする為、レナートはクリスマスのミサにジュリアを連れていく。

そして、ジュリアは、ママに電話する。
「ミサが終わってから、レナートと一緒に実家に行くと伝える」。
母は、父に電話を渡す。
「ジュリア、ジュリア、バンビーノ(我が子よ)、来るのか。マルチェロも戻って来たよ。お前も早く来い」。父は1年半振りにやっと笑った。


サンドリーノの働きのお陰で、父のアンドレアは家に戻って家族が集まり、笑顔で話し合えるようになった。家族崩壊の危機に、母サーラがサンドロに話したのは正しかった。「子はかすがい」の諺は、日本だけでないようだ。

大勢のお客さんが帰った後、母のサーラは、台所で食器の後片付けが大変。
「こんなに大勢のお客さんが我が家に来たのは、何年振りかしら。マルチェロは、ガスレンジを新品にすると言ってくれて嬉しいわ」。
「サーラ、ギターを持ってきてくれないか。君の為にカンツォーネ(canzone;イタリア民謡)を弾くよ」。
「ねぇ、あんたの体が良くなったら、家族揃って、おじいちゃんの家に行かない?ウチは、国鉄職員の家庭なのに家族パスを使った事がないわ。
ジュリアも電車賃がタダで行けるわ」。

カンツォーネは止んだ。後からやってきたジュリアと母は、父が眠っていると思っていた。
サンドロは、悲しくて父の死に顔が見られなかった。

クリスマスが終わって、いつもの朝がやってきた。
寂しそうな母は、二人の子供を見送る。マルチェロとサンドロは一緒に家を出る。
隣のご主人も出勤だ。
隣のご主人;「ボンジョルノ シニョーラ(おはよう、奥さん)」

ボンジョルノ シニョーラの声から、カルロ・ルスティケリの哀愁のある音楽が始まる。
サンドロの後から級友が追い越して行く。
「マルコッチ、急げ、学校に遅れるぞ」。
サンドロは、父が運転していた特急列車のように全力で走り出す。パパは言ってた。列車は発車時刻を待ってくれないって・・・。

2014年2月8日更新 尾林 正利

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