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イヴの総て

(1946年に、Mary Orr (メアリー・オル)が書いた小説
「 The wisdom of Eve (イヴの知恵)」を映画化して、1950年に公開)

All about Eve
Directed by Joseph L. Mankiewicz

この映画は、一見すると華やかに見えるブロードウェイ(Broadway)で公演されるアメリカの演劇界で、トップ女優の座を目指す舞台女優の卵たちの舞台裏の熾烈な競争世界をシリアス(真面目)に、そして、ちょっと皮肉を込めて描いた名作である。

1946年に、メアリー・オル(Mary Orr)という小説家が、当時活躍していたドイツ女優のエリザベート・ベルグナー(Elisabeth Bergner:オーストリア出身)をモデルにした短編小説「The wisdom of Eve(イヴの知恵)」を書いた。
「イヴの総て」を観ると、この映画にはマーゴ・チャニングというベテラン女優とイヴ・ハリントンという新進女優の二人の主人公がいて、エリザベート・ベルクナーは、どちらに当てはまる女優だったかのは、ぼくは知らないが、イヴだという察しはつく。

当時の、20世紀フォックス社の代表者であったダリル・F・ザナックが、芸能界の内幕を暴露した「The wisdom of Eve」に目ををつけて映画化権を取得した。
その原作をベースに、社内で凄腕の脚本家で監督でもあった、ジョゼフ・L・マンキーウィッツがシナリオを書き、1950年に監督も務めて、「イヴの総て(All about Eve)」というタイトルで映画化された。

1950年頃のニューヨーク市内、ブロードウェイの劇場街


ということで、当作品は全くのフィクションドラマではなく、実話を基に脚色された映画なのである。
出自(しゅつじ:家系や経歴)はパッとしなくても、人並外れた旺盛なハングリー精神と秀でた芸の才能、惜しまぬ努力を持ち合せ、身近な芸能関係者(芸人、作家や演出家、プロデューサー)を踏み台にし、芸能記者やマスコミを上手に利用して大スターや有名芸能人になった人は、現在の芸能界にも少なくないと思う。時の成功者は美化されて語られるが、美と醜は表裏一体で、醜い部分は、表に出ないように蓋をされている。

ジョゼフ・L・マンキーウィッツは、前年の1949年に、「3人の妻への手紙(原作は、5人の妻への手紙:コスモポリタン誌に連載されていた小説)」でも、原作をベースに脚色し、監督もやって、アカデミー監督賞と脚色賞をダブル受賞した。

さらに、1950年の「イヴの総て」でも2年連続で、アカデミー監督賞と脚本賞をダブル受賞した。一人で2年連続して合計4本のオスカーをダブル受賞した記録は、未だに破られていないそうだ。
因みに「イヴの総て」では、6部門(作品賞、監督賞、脚本賞、助演男優賞、衣裳賞、録音賞)のオスカーを獲得した。

この映画では、一本の映画でアカデミー主演女優賞候補が二人もノミネートされ、マーゴを演じたベティ・デイヴィスと、イヴを演じたアン・バクスターがいて、20世紀フォックス社が身内の女優、アン・バクスターを主演女優候補として推薦したので、二人はアカデミー会員が投票する決選投票で票が半分ずつに割れた。

その結果、映画界では新人だった舞台女優のジュディー・ホリデイが漁父の利を得て、「イヴの総て」のベティ・デイヴィスとアン・バクスター、「サンセット大通り」で主演したグロリア・スワンソンも抑えて、主演女優賞のオスカーを獲得した。

現在の日本では、テレビや映画、CMに出演する芸能人の殆どは、芸能プロダクションや劇団、映画会社に所属しているが、この映画が製作された1950年当時は、芸能界に伝手のない若い女性が、トップ女優に憧れて芸能界に入るには、先ず、憧れている女優の熱心な追っ掛けファンになって、楽屋に入るチャンスを作って貰って、憧れの女優に会って気に入られて、その女優の付き人になるところから、芸能界の登竜門に入っていった。
つまり、師匠の内弟子になって、芸能界のしきたりやマナーを覚え、芸を練習して磨き、オーディションに合格してから、舞台や映画に初出演のチャンスを待つ。

殆どの俳優や歌手志望者は、芸能界に入れても、仕事には関係の無いアルバイトで、何とか食いつなぎ、裏方の下働きや端役の期間中に夢が潰されてしまうが、1%ぐらいは、パトロン(頼りになる後援者)が付いて、ラッキーガールやラッキーボーイになれるチャンスもあるのだ。

ぼくがこの映画を初めて観たのは、テレビ朝日系列の「日曜洋画劇場」だった。
淀川長治氏が映画解説をされていた初めの頃に観たような気がする。ベタホメだった。
ラストシーンの三面鏡に、今日も大スターを夢見る一人の若い女性・フィービーの虚像が、万華鏡のように無限に増えていく演出がとても洒落ていて、素晴らしかった。
半世紀も前の映画だが、この作品の演出や台詞は、演劇や映画製作を目指す人にとっては、優れた教科書になると思う。

主なキャスト

Margo Channing(マーゴ・チャニング:演劇界の大女優)・・・Bette Davis(ベティ・デイヴィス)
Eve Harrington(イヴ・ハリントン:演劇ファンがトップ女優に)・・・Anne Baxter(アン・バクスター)
Addison DeWitt(アディソン・ドウィット:演劇評論家)・・・George Sanders(ジョージ・サンダース)
Bill Simpson(ビル・サンプソン:マーゴの恋人で演出家)・・・Gary Merrill(ゲーリー・メリル)
Karen Richards(カレン・リチャーズ:ロイドの妻)・・・Celeste Holm(セレステ・ホルム)
Lloyd Richards(ロイド・リチャーズ:演劇脚本を担当)・・・Hugh Marlowe(ヒュー・マーロウ)
Max Fabian(マックス・フェビアン:演劇界のプロデューサー)・・・Gregory Ratoff(グレゴリー・ラトフ)
Birdie(バーディー:マーゴの古い付き人)・・・Thelma Ritter(セルマ・リッター)
Miss Casswell(カズウェル;演劇学校の女優候補生)・・・Marilyn Monroe(マリリン・モンロー)
Phoebe(フィービー:イヴに憧れる女子学生)・・・Barbara Bates(バーバラ・ベイツ)
※Narrater(ナレーター)は、場面に応じてカレン、マーゴ、ロイド、ビル、アディソンが語る。イヴは語らない。

スタッフ

製作:Darryl F. Zanuck(ダリル・F・ザナック)
監督:Joseph L. Mankiewicz(ジョゼフ・L・マンキーウィッツ)
脚本:Joseph L. Mankiewicz(ジョゼフ・L・マンキーウィッツ)
撮影:Milton Krasner(ミルトン・クラスナー)
音楽:Alfred Newman(アルフレッド・ニューマン)
美術:Lyle Wheeler(ライル・ウィーラー)
・・・George W. Davis(ジョージ・W・デイヴィス)
セット:Thomas Little(トーマス・リトル)、Walter M. Scott(ウォルター・M・スコット)
衣裳(ベティ・デイヴィスの衣裳):Edith Head(イーディス・ヘッド)
編集:Barbara McLean(バーバラ・マクリーン)
録音:W.D.Flick(W・D・フリック)、Roger Heman(ロジャー・ヘマン)
画面サイズとカラー:4:3スタンダード:モノクロ作品
配給:Twentieth Century-Fox Film Corporation(20世紀フォックス)
DVD発売元:20世紀フォックス エンターテイメント ジャパン株式会社、ブルーレイ・ディスク

ストーリー

太平洋戦争が終わって、しばらく経った194X年6月、アメリカの演劇界で最高の栄誉である「サラ・シドンズ賞(台本上の賞で実在しない)」が、ロイド・リチャーズ脚本、ビル・サンプソン演出の「天井の足音(台本上の架空の芝居)」という演劇で、主役の"コーラ役"を見事に演じた新進女優のイヴ・ハリントン(アン・バクスター)が獲得した。

イヴは、今やジャーナリズムの寵児、たった9カ月で、素人からトップ女優まで駆け上ったラッキーガールになった。
彼女の食べる物、着る物、持ち物、お気に入りの化粧品、全てがニュースになって、新聞や芸能誌の記事になる。
映画のファーストシーンは、その授賞式から始まる。

晴れやかな授賞式には、多くの演劇関係者たちや評論家、芸能記者たちが大勢臨席する。当時はまだ、テレビカメラは無いし、カメラマンは、フラッシュガンの付いた4×5インチ判カメラのスピグラで取材していた。

演壇に立ったイヴは、受賞のお礼を賓客の前で挨拶することになった。

「この場におられる淑女紳士の皆さま、今回の栄誉ある受賞は、私を支えて下さった何人かの人のお陰です・・・」と、謙遜のスピーチをして客席から拍手が鳴り響いたが、イヴを支えた数名からは、笑顔が全く無かった。



上は名誉ある主演女優賞を受賞した新進女優のイヴ・ハリントン(アン・バクスター)


演劇ファンのイヴを大女優のマーゴに紹介した、脚本家の妻・カレン(セレステ・ホルム)

  

大女優のマーゴ・チャニング。イヴを付き人にするが・・・(ベティ・デイヴィス)


演劇のブロードウェイと映画のハリウッドを掛け持ちで働く、演出家のビル(ゲーリー・メリル)

その理由(わけ)は、マックス・フェビアン製作、ロイド・リチャーズ脚本の「天井の足音(Footstep on the ceiling)」という舞台劇で、主役のコーラ役を演じるのは、大女優のマーゴ・チャニングのために企画された舞台劇だったからだ。この映画では、なぜ、イヴ・ハリントンが主役を演ずることになったのか?それを回想していく。

イヴが芸能界に入るチャンスを最初に与えたのは、脚本家のロイドの妻・カレン(セレステ・ホルム)だった。
カレンは、イヴと初めて話した時、礼儀正しくて控え目で、大女優のマーゴ・チャニングのファンだが、ミーハーなファンでは無く、純粋に演劇を愛しているので、マーゴに会わせてあげると、お節介を焼いたことが、後々に裏目に出て、イヴが狡猾な(こうかつ:悪賢い)女だと気付くまで、騙され続けていた自分に腹立たしかったからだ。だから、イヴの受賞には、素直に喜べなかったのだ。

そして、カレンは、9カ月前の、初めてイヴと出会った頃を振り返るのであった。
このシーンのナレーションは、カレンが語る。イヴを取り巻く5名の視点から描かれた、各々のナレーションがあって、ユニークな演出の映画である。

授賞式から9カ月前の、194X年10月の霧雨が降る寒い夜のことだった。
カレンは、演劇の仕事が済んだ夫のロイドを誘って二人で外食するため、夫が台本を書いた演劇「AGED IN WOOD:老女の森」を上演している劇場の楽屋口に入ろうとすると、

「リチャーズ夫人ですね」と、声を掛けられた。振り向くと、変な帽子を被りトレンチコート姿の女性が暗闇に立っていた。
カレン:「まぁ、あなたなの。ここでよく、お見かけするけど、今夜は雨だし、ここに来ないと思っていたわ」。
芝居好きの女:「雨が降っても、休みませんわ」。
カレン:「マーゴの熱心なファンの方ね。ここでマーゴを観ているだけ?」
芝居好きの女:「マーゴは素敵な女優さんで憧れていますが、演劇が好きなのです。リチャーズご夫妻はマーゴの親友ですし、演出家のサンプソンさんと親しいのは存じていますわ」。
カレン:「マーゴの、追っ掛けだけじゃないのね。マーゴが劇場に入って、出るまでの間は、ここで何しているの?」
芝居好きの女:「中に入って、劇を観ます」。
カレン;「じゃ、毎日、この芝居を観ているの?お金が掛かるのでは?」
芝居好きの女:「立ち見なら、・・・それほどでも。今夜は勇気を振り絞って、声をお掛けしました」。
カレン:「あなたのような、演劇を愛するファンもいるのね。マーゴに会わせるわ。紹介してあげる。お名前は?」。
芝居好きの女:「イヴ・・・イヴ・ハリントンです」。

二人は、ガードマンがいる楽屋通用口から劇場に入り、マーゴの楽屋前で、カレンはイヴを楽屋の入口で待たせ、自分はマーゴの楽屋にいる夫に会いに行く。
マーゴは、この日の「老女の森」の出演を終えて、クレンジングクリームでドーラン(演劇用の化粧)を落としていた。

マーゴ:「ロイド、今度の芝居は、もっと強烈なものを書いてよ。夫を銃で撃つようなのがいいわ」。
カレン:「マーゴ、何言ってるの。老女の森は4カ月先もチケット完売よ。どこに不満があるの?・・・それは、そうと、マーゴの熱心なファンがいるわ。連れて来たの」。
マーゴ:「サインをねだるだけの、ミーハーじゃないの?」
カレン:「一度だけでも会ってやって。あなたの崇拝者よ。いつも楽屋入口の前で立っている子よ。見たことあるでしょ」。
ロイド:「カレン、お節介はよせ!」
マーゴ:「あの、トレンチコートに、変な帽子の子ね。毎晩いるわね。入れていいわよ」。

カレンは、楽屋の中にイヴを招き入れる。
イヴ:「初めまして。イヴ・ハリントンと申します」。
マーゴ:「あなたね。毎晩来ているね」。
ロイド;「マーゴが、ゴリラの縫い包みを着ていても、ファンなの?」
イヴ:「あなたは、作家のロイド様ね。そういうファンじゃありません。マーゴ・チャニング様は、いい劇をお選びになられるから、偉大なんです。今度の新作も出られるんでしょ。”天井の足音”の・・・」。
ロイド:「何で、そんな事まで、君は知っているんだ」。
イヴ:「新聞で読みましたわ。私は、ロイド様がお書きになって、マーゴ様が演じられる、お二人の劇でないと・・・」。

楽屋の皆は、素人離れのイヴの話術に引き込まれていく。
マーゴは、憧れの大スターや優れた作家の目の前で、物怖じしないイヴの度胸が気に入って、彼女の生い立ちや経歴を訊く。



全部書くと、長くなるので要約すると、
イヴはウィスコンシン州で貧しい農家の生まれで、学生時代の頃から演劇に興味を持ってお遊びで芝居をやっていたが、家が貧しいので退学し、地元のビール工場で秘書として働いていた。
その頃に町に出来た演劇同好会に入り、そこで知り合った無線技師のエディと交際し、太平洋戦争になって結婚。

しかし、エディは南太平洋戦線の部隊に配属され、休暇でサンフランシスコへ帰還するので迎えに行ったが、電報でエディの戦死を知った。
ショックのあまり、ウィスコンシン州へ帰る気力が無くなり、サンフランシスコに住んで、しばらくエディの遺族保険で食べていたが、サンフランシスコの劇場でマーゴ主演の「回想」を観て感激し、将来は演劇に関わる仕事をしたいので、演劇の本場であるブロードウェイの近くに引っ越して来た・・・と語る。

すると、情にもろいマーゴは、涙を拭く。マーゴの付き人のバーディーは、
バーディー:「すごく、ドラマチックな話ね」。
マーゴ:「事実は、小説より奇なりよ。役者くずれが茶化しちゃいけないわ。イヴ、許してやってね」。
バーディー:「自分で誤るわよ。イヴさん、ごめんなさい。私は皮肉屋なんで」。
イヴ:「ターナンさん、お気になさらないで」。
バーディー:「呼ぶときは、バーディーで、いいわ」。
付き人のバーディーは、マーゴに腹が立って、「役者崩れなんて、もっと他に言いようはないの」と、部屋のドアをバタンと閉めて、他の用事をしにいく。

イヴ:「じゃ、私は帰らせて戴きますわ。お邪魔しました。この感激は忘れません」。
マーゴ:「ちょっと、待ってよ」。
イヴ:「今から、サンプソン先生が、ロスへお発ちになるのに?」
マーゴ:「ウチの天才を送ってから二人で話しましょ」。
ロイド:「ぼくらも、帰ろう」
イヴ:「リチャーズ夫人のご親切は、一生忘れません」。
カレン:「イヴ、もう、友達でしょ。カレンと呼んで」。

こうして、イヴは、マーゴの秘書として雇われることになった。
マーゴの私生活は、演出家のビル・サンプソンと恋仲で一緒に暮らしているが、結婚はしていない。
ビルは、仕事のレパートリーを増やすため、ハリウッドで映画の演出も積極的にやっている。

アラフォーの熟女になった舞台女優のマーゴは、脂肪が付いたウエストを締めるコルセットの着用が年々苦痛になり、年齢的にも若い娘役が困難に感じていた。
ハリウッドの映画界に進出して、演出の仕事で長期出張の多くなったビルに、知らぬ間に新しい女が出来て、「棄てられないか」という不安が過(よ)ぎる。 そうした寂しさもあって、イヴを自邸の客間に住まわせたのだ。


如在無い(気が利く)イヴは、ベテランの付き人・バーディーの仕事を次々に奪う。

イヴはまもなく、付き人のバーディーの仕事を奪い、マーゴ家の電話の取り次ぎや連絡の手配、台本の返却や納税の支払い、カーテンの付け替え、簡単なインテリア・コーディネートをテキパキとやる。マーゴの付き人であるバーディーの仕事は、炊事・洗濯だけだ。
マーゴ曰く、「イヴは、私の妹と母の役、弁護士と医者の4役をやってくれるわ」。
もちろん、劇場の楽屋へは、イヴがマーゴに付き添って、あこがれの大女優の身の回りの世話を焼く。


「老女の森」を演じる大女優のマーゴ。この衣裳デザインは1950年のアカデミー衣裳賞を獲得。

ある日、イブはマーゴが着ていた「老女の森」の素敵なドレスを衣裳係へ返却に行くと言い出した。マーゴは、舞台衣裳は、衣裳部が後から引き取りに来るから行かなくていいと言ったが、「ついでですから」と言って、持っていた。
すると、イヴは楽屋の隅でマーゴの素敵なドレスを体に当てて、姿見の大鏡に映った自分の姿にうっとりしていた。それを観たマーゴは、気分を悪くする。
マーゴ:「イヴ、そのドレスは、取りに来させなさい。あなたが返さなくてもいいのよ」。



ある日、マーゴは、バーディーに訊く。

マーゴ:「あんたは、イヴが好き?」
バーディー:「なぜ、私に言うの?・・・私は嫌いよ。理窟じゃないわ」。
マーゴ:「良く働くのに?」
バーディー:「そう、昼も夜も・・・あんたを、よく観察しているわ。教科書か参考書みたいに・・・手の上げ下げの仕草まで・・・、時々、真似しているの」。
マーゴ:「その程度なら、気持ち悪くないわ」。

マーゴの家での仕事に慣れてきたイヴは、マーゴの秘書に相応しく、OLが着るようなビジネススーツを着こなし、お洒落を始めた。毎日、変な帽子を被ってトレンチコートを羽織っていたときの野暮ったさは無くなった。
イヴ:「チャニング先生、この服似合うかしら?」
マーゴ:「何でも、良く気がつくのね」
イヴ:「仕事ですから」。
マーゴ:「イヴ、何で真夜中の3時に、ビル宛ての電話を申し込んだの?」
イヴ:「忘れていましたわ。お忙しいと思って、先生の代わりに、サンプソン先生の誕生日の祝電を申し込んだのです。
ロスとは、3時間の時差があるので、お伝えしょうと思っていましたのに」。
マーゴ:「いいわよ。久し振りにビルと電話できて良かったわ」。
イヴ:「サンプソン先生のお誕生日は忘れませんわ。私も祝電を打ちました」。
マーゴは、イヴの抜け目の無い、必要以上の気配りに、警戒感を抱くようになる。

ビルの誕生日パーティは、大荒れだった。その原因はイヴの気遣いが、自分だけでなく、マーゴの夫にも及んだことであった。
カレンはパーティが始まる前から不吉な予感がしていた。マーゴの欠点は、一旦、気が荒れると、周りの3人では手が付けられなくなってしまうことだ。酒が止まらなくなって、喚(わめ)き散らし、悪態を吐(つ)く。

マーゴは、時間にルーズだ。人を一二時間待たせても気にしない質だ。
マーゴの家で行われたビルの誕生日パーティーには、演劇界の大物プロデューサーのマックス・フェビアン、演劇評論家のアディソン・ドウィット、親友の脚本家ロイが集まっていた。
アディソン・ドウィットは、俳優育成学校からスカウトしたミス・カズウェル(マリリン・モンロー)も連れてきた。マックスに紹介する為である。


イヴの総て」の豪華な顔ぶれ。左から、アン・バクスター、ベティ・デイヴィス、
カズウェル役のマリリン・モンロー、演劇評論家役のジョージ・サンダース。

着替え室で、ドレスを着るマーゴは、恋人のビルがやって来ないので、バーディーに訊いた。
すると、「サンプソンさんなら、20分前にロスからお帰りで、下のフロアでイヴと話していたわ」。
マーゴは、鬼の形相になった。

ロビーで、ハリウッドから帰ってきたビルとイヴが談笑している。それを見たマーゴは、
マーゴ:「イヴ、オードブルが遅れているそうよ。あなたはパーティーの準備を手伝いなさい」。
イヴは、キッチンへ行く。



ビル:「ぼくが10分間、若い子と話しただけで、妬くとは・・・」。
マーゴ:「20分間よ。機転の利きすぎる珍しい子とね。私は今のあの子が鼻に付くのよ。手の上げ下げは真似するし...私のいくつかのものは、自分のだけのものにしておきたいわ。あなたをよ」。


マーゴは、ビルに近づき過ぎて、恋敵になりそうなイヴをプロデューサーのマックス・フェビアンに押し付け、強引に雇って貰う。

マーゴの家を追い出されたイヴは、もう、マーゴやカレンに遠慮することは無くなった。
ビルの誕生日パーティーで、皆が見ている前で、イヴに悪態を吐いたマーゴを見たカレンは、ショックを受けたイヴに同情していた。

イヴはショックだったが、強かな彼女は、人前で涙は見せなかった。傍にいたカレンに、
イヴ:「チャニング先生のお世話は、もう私がいなくても大丈夫です。私はフェビアン先生の所に行きますが、小間使いの仕事よりも演劇をやりたいので、フェビアン先生がやっている新人俳優発掘のオーディションを受けます。演劇のレッスンに、ロイドさんのお力をお借りして、チャニング先生の「老女の森」の代役をやってみたいのです。
この作品なら毎日観てましたので、台詞は覚えています。お力になって戴けますか?」

カレン:「マーゴの代役?マーゴは休まないわ。病気になっても、這って出るわ。私は、マーゴと親友だけど、時々蹴飛ばしたくなる時があるの。でも、マーゴの良いところは、悪態は吐くけど、次の日はケロッとして根に持たないところよ。・・・イヴ、ロイドに話しておくわ」。

マックス・フェビアンのオーディションには、マックス、ビル、ロイド、評論家のドウィットが立ち会った。マーゴも来る予定だったが、2時間も遅刻し、イヴの演技を観られなかった。
オーディションでは 、イヴは素晴らしい演技をして、マックスやビル、ロイド、ドウィットの舌を巻かせた。

カレンは、マーゴの嫉妬から付き人をクビにされたイヴに気遣っていた。
ロイドは、オーディションで見たイヴの演技力は十分で、マーゴの代役はこなせると太鼓判を押したので、カレンは、イヴにもチャンスを与えてやる為に一芝居を打つ。

先ず、イヴに電話して、週明けの1日だけ「老女の森」の代役の為、楽屋でスタンバイしておくように伝える。そして、マーゴを誘ってニューヨークから遠い別荘でパーティを開く。マーゴはいつも遅れるから、列車に乗り遅れて、舞台に穴を開けたことにして、優れた代役を立てれば、全ては丸く収まると思いついた。



カレンは別荘から帰る時、夫の知らない間にロイドが運転するクルマのガソリンを抜いていた。
当時のクルマには「燃料計」が無かったようだ。別荘からの帰り道でクルマはエンストして、ロイドはクルマから降りて、近くの家にガソリンを分けて貰いに行った。ニューヨーク行きの汽車に間に合わない。暖房が効かない車内に、マーゴとカレンは残される。

ロイドが外に出ているとき、
マーゴ:「先日のビルの誕生日パーティーは、あなたたちを怒らせて悪かったわ」。
カレン:「いいのよ。根に持っていないから」。
マーゴ:「私って、駄々っ子ね。子供でも放って置かれたり、愛されていなかったりしたら、お酒を飲んで荒れたいでしょうよ。

私に尽くしてくれたイヴに対して、冷たく当たり過ぎたわ。
イヴは、気を回し過ぎたのよ。若くてキレイで、女らしくて控え目でしょ。ビルの好みのタイプなのよ。私が女優として成功する為に、棄ててきたものよ。 私が普通の女に戻るときに、必要だったのに・・・。

私は女優としてではなく、女としてビルに愛されたいの。
だって、ビルが愛しているマーゴ・チャニングは、10年経ったら、(引退して)いなくなるわ。
女が老けるのは早いのよ。残った私はどうなるの?
どんな仕事をしていても、結局、食事する時や寝る時に夫が一緒でないと、女じゃ無いんだわ。そこで幕よ...」。

カレン:「マーゴ、あなたに申し訳ないことをしちゃったわ」。
マーゴ:「何のこと?」
カレン:「ガス欠よ」。
マーゴ:「運命のいたずらよ。あなたが、ガソリン抜いたワケじゃないし」。
マーゴの本心を聞いたカレンは、自分が仕掛けた一芝居を反省した。

イヴがマーゴの代役を務めた「老女の森」は、翌日の朝刊では概ね好評だったが、とくに、ドウィットの批評コラムは辛辣で、演劇界にデビューしたイヴが、今の演劇界を痛烈に非難したものだった。
アメリカの演劇界は旧態依然とした保守的な環境で、長老女優がいつまでも保身のために名作の主役を張り続け、若手女優に主役を掴むチャンスを奪っている。これでは、演劇界に進歩が無いというものだった。

若いイヴに女優になるチャンスと、マーゴの代役をイヴに与えたカレンは、イヴの礼儀知らずに怒り心頭だった。言ってる事が逆だ。
ロイド:「カレン、"天井の足音"を早く完成させて配役を決め、上演スケジュールを立てないと、ウチも苦しい。イヴが、コーラをやりたいと言ってきたよ。君はどう思う?」
カレン:「あなた、あんな恥知らずな女にコーラをやらせるの?あの本はマーゴが演じる為に書かれたんじゃない。マーゴだって若作りして、充分できるわ。私は反対よ」。
ロイド:「まだ、決まったワケじゃない。イヴには、カレンが反対したらダメだと言っておいたよ」。

マーゴは久し振りに、ビルも一緒に、レストランで一緒に食事したいとリチャーズ夫妻に電話してきた。そして予約した日時にテーブルを囲んだ。
マーゴ:「カレン、私、ビルと結婚することにしたの」。
カレン:「おめでとう、良かったわね」。
ロイド:「結婚式はどこで?」
ビル:「市役所だよ」。
ロイド:「ビル、しみったれないで、パーッと派手にやれよ。大きな教会を使って・・・」。
ビル:「市役所と言ったのは、結婚手続きだよ。心配するな。マーゴやカレンは、イヴに泥水掛けられたけど、4人の絆は固い」。
マーゴ:「ほら、見て。ラスプーチン(人を背後で操って影響力を持つ人の形容・ドウィットの渾名)と小娘(イヴ)が御出座しだわ。ここのお客さんは全員、私がこのシャンパンボトルを持って、憎々しい小娘の頭をぶん殴るのを期待しているわ。でも、今日はめでたい日だから、許してあげる」。


ウェイターは、メッセージを持ってくる。化粧室で話をしたいというイヴからの伝言だった。

カレンが行くことになった。
カレン:「新聞読んだわ。酷い発言ね。私たちの親切を仇で返すなんて・・・」。
イヴ:「ごめんなさい。ドウィットが誇張して書きすぎたのです。リチャーズ夫人、代役は、一回こっきりで、その後に出る幕はなく、御祓い箱です。
助けて下さい!コーラの役をわたしにやらして下さい。ご主人は、私がコーラの役をやることには乗り気です。あなた待ちなのです」。

カレン:「私は、マーゴの親友よ。ダメだと言ったら?」
イヴ:「リチャーズ夫人、ドウィットは、私が老女の森の代役をやれた理由を知っています。彼は書きたいのですが、私が止めているのです。
クルマのガス欠の件が新聞に出れば、チャニング先生とあなたの仲はどうなりますか?ロイドさんも失業しますよ。早く決めて下さいね」。

カレン:「あなたは、たかが配役のことで、卑劣なことをするのね」。
イヴ:「私にピッタリの良い役ですから。他の人に取られたくありません」。

カレンは、イヴに牙を剥かれた。夫がコーラ役をイヴにやって貰うことには乗り気なのだが、親密なマーゴとの信頼関係を失いたくない。
引きつった表情で、テーブルに戻った。


カレンは、化粧室から戻ってきた。カレンが、どう切り出していいのか迷っていると...
マーゴ:「あの子、泣いて謝ったでしょ」。
カレン:「ドウィットの毒筆(ポイズンペン)のせいで、ああなったと気にしていたわ」。
ロイド:「何か、言ってたかい?」
カレン:「いや、別に・・・」。
マーゴ:「皆、怒らないでね。私、ビルと結婚したら、俳優の仕事を減らして主婦に専念したいの。演じ慣れた老女の森なら巡業でも出るわ。でも、もう歳だし、コルセットでウェストをぎゅうぎゅうに締め付け、若作りの無理までして、コーラの役はやりたくないわ」。

それを聞いたカレンは大笑い。
笑いが止まらない。
カレンは親友の一言に救われたのだった。

いよいよ、「天井の足音」の公演が間近になった。コーラを演じるのは、イヴ・ハリントンである。マーゴが "コーラ役” を自発的に降りたので、すんなり決まった。
でも、演出を巡って、作家のロイドが口出ししたので演出家のビルと揉めたが、イヴは間に立って仲直りさせた。

長丁場の公演なので、新人のイヴのために、プロデューサーのマックス・フェビアンの粋な計らいで、ホテルのスィートルームが手配された。
その部屋に、毒筆の演劇評論家、 ドウィットがやってきた。

ドウィット:「スイートルームじゃないか?VIP待遇だな」。
イヴ:「私の為に、ロイドがマックス掛け合ってくれたの。
ドウィット、聞いて。私とロイドは結婚するのよ。彼が台本を書いて私が演じる・・・最強のカップルよ。昨夜遅くに、プロポーズしに会いに来てくれたの」。
ドウィット:「ロイドは、いつもカレンと一緒だ。カレンは、その事を知っているのか?」
イヴ:「知らない・・・私たちの事は秘密よ」。
ドウィット:「お前は、大ボラ吹きだ。俺を誰だと思っているんだ。お前がロイドと結婚するのには反対だ」。
イヴ:「あんたは、演劇の評論家でしょ。結婚するなって、なぜ、そんなことが私に言えるの。ここから出て行ってよ」。


ドウイットは怒って、
ドウィット:「そうは行かない。お前の本名は、ガートルド・スレシンスキーだ。両親は君が言ったとおり貧しいが、生存されている。3年間も手紙を送ってないそうだな。
お前が、ビール会社の秘書をやっていたのは確かだが、そこで、上司と不倫して手切れ金 500ドル貰っただろ。俺はちゃんと調べたんだ。

それに戦死したエディも、お前と結婚した事実はない。息子を亡くした家族に失礼だ。
そして、お前がマーゴの「回想」を観たというサンフランシスコに、シューベルトという名の劇場はない。なぜ、ウソを吐(つ)いたんだ?」

イヴ:「自分を悲劇的な女にした方が、マーゴに気に入られると思ったからよ」。
ドウィット:「その後でも、お前の話は殆ど出鱈目だ。昨夜ロイドがここに来た理由は、お前の方から呼び出したんだ。さっきロイドと話していて、彼が言ってた。

マーゴの留守中に、お前は代役を務め、その夜の楽屋でビルを誘惑してたな。ビルに振られた時は、俺が楽屋の傍で立ち聞きしていたんだ。すぐ、ばれるようなウソをつくな。俺の名前を出してカレンを脅しただろ。カレンから聞いたぞ。

お前は俺の嫌いなタイプの女だが、憎めない。それは、お前がトップを目指して、あくなき野心と才能があるからだ。
俺と似た者同士なんだ。お前は既に俺の女になっていることを忘れるな。俺から逃げると、お前が蒔いたスキャンダルが発覚し、お前は大金と主役の座を失い、変な帽子を被ったトレンチコートの芝居好きの女に逆戻りだ。それでも、いいのか?」

イヴ:「それ以上言わないで・・・今夜、出られる自信が無くなったわ」。
ドウイット:「お前ならやれる。今からちょっと仮眠して、今夜の初舞台、がんばれ」。

その後のイヴはトップ女優をめざして、「天井の足音」の主役を見事に千秋楽まで演じ切って、演劇界最高の女優に贈られる「サラ・シドンズ賞」を受賞した。ロイドは、脚本賞を受賞したが、マーゴを気遣って素直に喜べない。
イヴは、世話になった4人を虚仮(こけ)にしたので合わせる顔がなく、ドウィットがイヴの代理になって、賓客を持てなすことになった。

イヴはホテルに帰った。鏡の前で、ウィスキーを一杯飲もうとしたら、見知らぬ女がソファーで寝ていた。
イヴ:「あんた、誰?警察を呼ぶわよ!」
若い女:「ハリントン先生、待って下さい。フィービーです。私はまだ、高校生なんです。ウチの高校にイヴ・ハリントン倶楽部ができて、私が会長をやっています。ハリントン先生が、どこの口紅や香水を使っているかを調査するのが、私の役目なんです。ここの部屋の掃除で、中に入ったら鍵を掛けられ、電気も消されて、眠ってしまったのです」。
イヴ:「どこから来たの?」
フィービー:「ブルックリンです。電車で1時間ほど・・・」。
イヴ:「じゃ、今夜は帰れないわね」。

突然呼び鈴がなる。
イヴ:「ベルが鳴っているわ」。
フィービー:「先生、私が出ます」。

扉を開けると、ドウィットが、トロフィーを持って立っていた。
ドウイット:「君は誰だね?」
フィービー:「フィービーです。ドウィット様、先生は疲れてお休みです。ご用件なら私が承りますわ」。
ドウイット:「なぜ、私の名を?」
フィービー:「有名なお方ですから・・・」。
ドウイット:「じゃ、この大事なトロフィーを渡してくれ。君もこんなのが欲しいだろ?」
フィービー:「一生の夢ですわ」。
ドウイット:「じゃ、この賞の取り方を、ここの先生に聞くがいい」。
イヴ:「誰なの・・・何の用だったの?」
フィービー:「タクシーの運転手でした。タクシーに忘れた物を届けに・・・」。
イヴ:「じゃ、衣裳ケースの上に置いといて。私はシャワーを浴びるわ」


フィービーは、イヴの脱いだパーティードレスを着て、サラ・シドンズ賞のトロフィーを持ち上げて、大きな姿見の三面鏡の前で、自分を映して恍惚状態になる・・・。
三面鏡の姿見の中に、フィービーの虚像が無限に重なって増えていく。
女優を憧れる女性なら、必見の映画だろう。脚本が素晴らしい映画だった。

2014年4月7日更新 尾林 正利

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